愛していると言えない1
唇の感触が…やけにリアルで忘れられない。
目の前で朝食を食べている黎を見つめながら……
俺は今朝のキスを思い出していた。
……結局我慢がきかなくなって、ディープキスをしてしまった。
黎は舌の侵入に驚いて身体を竦めた。
……黎は軽いキスしか知らないのか?
だとしたら…
このまま、ずっと肉体関係に発展する事なく幸せに暮らせるだろうか?
その方が良い。
黎を傷付けるくらいなら………
今朝の事は早く忘れよう……。
「誠…?」
俺は、つい考えこんで食事をする手を止めていたらしく……
黎が心配そうに、俺の名前を呼んだ。
『美味しいか?』
「うん。美味しいよ」
素直な黎は可愛い。
『足りなかったら言うんだぞ?』
「ありがと。…何か嬉しい」
目の前には、昔のように…微笑む黎がいる。
それだけで、俺は嬉しい……
他には何もいらない。
『………』
このまま…
ずっと二人で暮らせたら良いのにな。