愛していると言えない
いつもと同じ朝。
ベッドに潜り込んだままのアイツにキスをして…
俺は仕事に出掛けた。
仕事が終わって…帰った部屋の床一面には、枕や布団から出た真っ白な鳥の羽が散らばって………
ベッドの上には…
朝、家を出たときと変わらずにアイツが居た。
ただ……
目の前の真っ白な壁には『愛している』という真っ赤な文字が書かれていて……
……アイツは息をしていなかった。
何日かしてアイツの父親から、俺の元に電話がかかってきて…その時初めて、俺はアイツの気持ちを知った。
アイツは親族から…同性愛なんて汚らわしいと何度も罵られて……
帰る家を無くしていた。
それでも変わらずに俺の側に居る事を選んでくれたのに……
俺は…
アイツが居なくなるまで何一つ気が付かなかった。
身体を重ねる事を止めなければ、手首のためらい傷に気付く事が出来たのか?
求められる事を拒まなければ、今も変わらずに俺の側に居てくれたのか…?
……失う事が怖かったんだ。
もし…温もりを忘れられなくなったら。
お前なしでは生きていられなくなったら………
そう考えるのが、たまらなく怖かった。
『黎…』
亡くしてから、こんなにも……
お前の大切さに気付くなんて。
『俺は今でも、お前を愛しているよ…黎』
気付くのが遅すぎた。
もう…
どんなに手を伸ばしても、お前の髪に触れる事すらできないのに………