前編
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その後、各々用事を済ませ、一旦船に荷物を置いてから、夕食を食べに酒場へ行く途中のことだった。
???「いってぇ~」
わざと大袈裟に言っているのがすぐに分かるような下卑た声が聞こえてきた。
目線をやると、若い女相手に数人の男が難癖をつけているところだった。
ソウシ「さっきこの港に着く直前に座礁した船があったね。そこに乗っていた人たちかな?」
シン「あんな海流くらいで座礁する奴らだからな。やはり頭が悪い」
しばらく様子を見ていると、嫌がる女の手を無理やり掴んで引っ張ろうとしていた。
リュウガ「おうおう、そこまでにしとけ」
見兼ねて声をかけると、手を掴まれている女が、さっきの少女だということに気付いた。
ただでさえ、大きな目をさらに大きくしてこちらを見ていた。
そして、その中に僅かながら安堵の色が見えた。
少女「あの、ありがとうございました!」
少女は勢い良く頭を下げて御礼を言うと、軽やかに駆けて行った。
なんとなくその後姿から目が離せずにいると、港に店を構える魚屋から声をかけられた。
魚屋「兄ちゃんたち!ヒロインちゃんを助けてくれてありがとな!」
シン「ヒロイン?」
魚屋「あぁ、今の子の名前だよ。ヒロインちゃんは良い子でなー。早くにお袋さんを亡くしちまって、親父さんと二人暮らしなんだが、その親父さんがまた厳しくて・・・」
曰く、母親が亡くなってから父親は悲しみに明け暮れ、仕事もせず篭っていたという。まだ幼かったヒロインだが子供なりに考え、必死に家事をやり、近くの店で手伝いをして家計を支えた。そして、ヒロインが15歳を過ぎ、子供から女性に成長した時に父親は働く場所も、外に出て良い時間も厳しく制限した。
魚屋「ヒロインちゃんはそんな環境の中でも本当に素直に育ってくれてな。そんなヒロインちゃんにも縁談が決まったみたいだし、幸せになって欲しいなぁ・・・。
って、いけね、初対面の兄ちゃんたちにこんなこと言っても困るよな!悪い悪い。普段はこんな軽々しく人様のこと話さねぇのに、なんか口を衝いちまった。なんでだろうなぁ・・・」
魚屋は、助けてくれた礼だと、今朝獲れた魚の刺身をナギに渡すと、頭を掻きながら店に入っていった。
酒場に着くと、いつも通り大量の酒と料理を頼んだが、リュウガはいつものようには飲めなかった。
さっきの魚屋の話が頭から離れない。
親を亡くし、幼い頃から昼夜問わず働いてる女はごまんといる。全員を助けるわけにはいかないから、その中でも特に生活に苦しんでいる女を見つけては、女遊びのフリをして援助してきた。だからこそ、こんな話なんて衝撃的でも、その環境が特別可哀想だとも思わない。
それなのに、頭の中ではヒロインと呼ばれた少女のことでいっぱいだ。
アツカンというヤマトの酒をちびちび飲んでいると、血気盛んなハヤテが立ち上がった。
ハヤテ「さぁ、船長!情報を集めに行きましょう!」
海賊にとって情報集めは娼館へ行くことを指す。あらゆる人種が利用する娼館で、女たちから情報を聞き出すのも立派な仕事だ。
リュウガ「あー、そうだな・・・いや、お前ら行ってこいよ」
いつもなら我先にと娼館へ向うリュウガの言葉に全員が呆気に取られた。
ハヤテ「せ・・・船長?体調でも悪いんすか?船の上でヤマトの娼館は素晴らしいってめちゃくちゃ楽しみにしてたのに・・・」
恐る恐るといった様子でハヤテは尋ねた。
シンとナギとトワは信じられないといった顔でリュウガを見ている。
ソウシ「ふふっ、船長はこの店のアツカンが気に入ったみたいだからね、もう少し飲んだら行くんじゃないかな?」
すべて分かっているような笑顔が癪に触りつつ、ソウシのこういった気遣いにはいつも有難いと思う。
ナギ「じゃあ船長、俺ら先に行ってますんで」
ハヤテ「えっ!?ナギ兄が行くのか!?珍しい」
何かに気付いたようなナギがハヤテの腕を掴んで出て行く。
それに続き、シンとトワも出て行った。
ナギは女に興味が無いため、娼館へはあまり行かない。
普段は無口で無表情で何を考えているのかわからない男だが、何も言わずとも勘付いて空気を読むことに長けている。
つくづくいい仲間だと思う。
ソウシ「あなたが気配に気付かないなんて珍しいですね。」
隣に移動して来たソウシがアツカンを手酌しながら呟いた。
リュウガ「あぁ・・・。本当にぶつかるまで全く気付かなかった。」
ソウシ「袖振り合うも多生の縁」
リュウガ「あん?なんだそれ」
ソウシ「ヤマトに昔から伝わる、ことわざだそうです。知らない人とたまたま道で袖が触れ合うようなちょっとしたことも、前世からの深い因縁であるという意味みたいです。」
リュウガ「深い因縁か・・・」
前世とか、来世とか、運命とか、そういった目に見えないものは信じてこなかった。
信じてしまえば運命を恨みたくなる。そんなことをしても何も変わらないのだから、自分と弟と目に見えるものだけを信じて何にも縋ることなく生きてきた。
だが、不思議とソウシの言った言葉はすんなりと受け入れられた。
自分の感じているものを言葉にしたらそうなるのかもしれない。
そんな思いと共に、残ったアツカンを一気に流し込むと、深く考えるのをやめた。
もし本当に“多生の縁”ならば、また会うこともあるだろう。
???「いってぇ~」
わざと大袈裟に言っているのがすぐに分かるような下卑た声が聞こえてきた。
目線をやると、若い女相手に数人の男が難癖をつけているところだった。
ソウシ「さっきこの港に着く直前に座礁した船があったね。そこに乗っていた人たちかな?」
シン「あんな海流くらいで座礁する奴らだからな。やはり頭が悪い」
しばらく様子を見ていると、嫌がる女の手を無理やり掴んで引っ張ろうとしていた。
リュウガ「おうおう、そこまでにしとけ」
見兼ねて声をかけると、手を掴まれている女が、さっきの少女だということに気付いた。
ただでさえ、大きな目をさらに大きくしてこちらを見ていた。
そして、その中に僅かながら安堵の色が見えた。
少女「あの、ありがとうございました!」
少女は勢い良く頭を下げて御礼を言うと、軽やかに駆けて行った。
なんとなくその後姿から目が離せずにいると、港に店を構える魚屋から声をかけられた。
魚屋「兄ちゃんたち!ヒロインちゃんを助けてくれてありがとな!」
シン「ヒロイン?」
魚屋「あぁ、今の子の名前だよ。ヒロインちゃんは良い子でなー。早くにお袋さんを亡くしちまって、親父さんと二人暮らしなんだが、その親父さんがまた厳しくて・・・」
曰く、母親が亡くなってから父親は悲しみに明け暮れ、仕事もせず篭っていたという。まだ幼かったヒロインだが子供なりに考え、必死に家事をやり、近くの店で手伝いをして家計を支えた。そして、ヒロインが15歳を過ぎ、子供から女性に成長した時に父親は働く場所も、外に出て良い時間も厳しく制限した。
魚屋「ヒロインちゃんはそんな環境の中でも本当に素直に育ってくれてな。そんなヒロインちゃんにも縁談が決まったみたいだし、幸せになって欲しいなぁ・・・。
って、いけね、初対面の兄ちゃんたちにこんなこと言っても困るよな!悪い悪い。普段はこんな軽々しく人様のこと話さねぇのに、なんか口を衝いちまった。なんでだろうなぁ・・・」
魚屋は、助けてくれた礼だと、今朝獲れた魚の刺身をナギに渡すと、頭を掻きながら店に入っていった。
酒場に着くと、いつも通り大量の酒と料理を頼んだが、リュウガはいつものようには飲めなかった。
さっきの魚屋の話が頭から離れない。
親を亡くし、幼い頃から昼夜問わず働いてる女はごまんといる。全員を助けるわけにはいかないから、その中でも特に生活に苦しんでいる女を見つけては、女遊びのフリをして援助してきた。だからこそ、こんな話なんて衝撃的でも、その環境が特別可哀想だとも思わない。
それなのに、頭の中ではヒロインと呼ばれた少女のことでいっぱいだ。
アツカンというヤマトの酒をちびちび飲んでいると、血気盛んなハヤテが立ち上がった。
ハヤテ「さぁ、船長!情報を集めに行きましょう!」
海賊にとって情報集めは娼館へ行くことを指す。あらゆる人種が利用する娼館で、女たちから情報を聞き出すのも立派な仕事だ。
リュウガ「あー、そうだな・・・いや、お前ら行ってこいよ」
いつもなら我先にと娼館へ向うリュウガの言葉に全員が呆気に取られた。
ハヤテ「せ・・・船長?体調でも悪いんすか?船の上でヤマトの娼館は素晴らしいってめちゃくちゃ楽しみにしてたのに・・・」
恐る恐るといった様子でハヤテは尋ねた。
シンとナギとトワは信じられないといった顔でリュウガを見ている。
ソウシ「ふふっ、船長はこの店のアツカンが気に入ったみたいだからね、もう少し飲んだら行くんじゃないかな?」
すべて分かっているような笑顔が癪に触りつつ、ソウシのこういった気遣いにはいつも有難いと思う。
ナギ「じゃあ船長、俺ら先に行ってますんで」
ハヤテ「えっ!?ナギ兄が行くのか!?珍しい」
何かに気付いたようなナギがハヤテの腕を掴んで出て行く。
それに続き、シンとトワも出て行った。
ナギは女に興味が無いため、娼館へはあまり行かない。
普段は無口で無表情で何を考えているのかわからない男だが、何も言わずとも勘付いて空気を読むことに長けている。
つくづくいい仲間だと思う。
ソウシ「あなたが気配に気付かないなんて珍しいですね。」
隣に移動して来たソウシがアツカンを手酌しながら呟いた。
リュウガ「あぁ・・・。本当にぶつかるまで全く気付かなかった。」
ソウシ「袖振り合うも多生の縁」
リュウガ「あん?なんだそれ」
ソウシ「ヤマトに昔から伝わる、ことわざだそうです。知らない人とたまたま道で袖が触れ合うようなちょっとしたことも、前世からの深い因縁であるという意味みたいです。」
リュウガ「深い因縁か・・・」
前世とか、来世とか、運命とか、そういった目に見えないものは信じてこなかった。
信じてしまえば運命を恨みたくなる。そんなことをしても何も変わらないのだから、自分と弟と目に見えるものだけを信じて何にも縋ることなく生きてきた。
だが、不思議とソウシの言った言葉はすんなりと受け入れられた。
自分の感じているものを言葉にしたらそうなるのかもしれない。
そんな思いと共に、残ったアツカンを一気に流し込むと、深く考えるのをやめた。
もし本当に“多生の縁”ならば、また会うこともあるだろう。