SIRIUS.BOEKI
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「トワ君、ぼーっとしてどうかしたの?」
「えっ…すみません」
午後の為に会議室の準備をしていると、先輩に声をかけられる。
担当じゃない先輩がせっかく手伝ってくれていたのに、僕はつい考え事をしてしまってたようだ。
「ずっと手がとまってるよ?珍しいね。えっと、これも一部ずつ並べればいいのかな?」
そう言いながら先輩は僕の手元にある資料に手を伸ばした。
白くて細い指に目が留まる。
この手が―――あの時…
昨日見てしまった光景を思い出すと、鼓動が速くなり、かあっと頬が熱を帯びる。
不機嫌そうだったシンさんを慌てて追いかけていった先輩はハンカチを忘れたままだった。
僕はすぐに忘れ物を持って先輩の後を追った。
開発部へつながる廊下の曲がり角で追いついて、声をかけようとして…
シンさんが、壁に先輩を押し付けるところを見てしまった。
そして先輩の耳に、首筋に―キスをして…
無理やりなのかと思って、僕は飛び出して止めようかと思ったけれど、すぐに気付いた。
先輩の手はしっかりとシンさんの胸に置かれていた。どう見ても拒絶の意思は見えなかった。
僕は、慌てて隠れた。
「やっぱり変だよ?トワ君、具合悪いの?休憩してくる?」
急に先輩が僕の顔を覗き込む。
「い、いいえっ!大丈夫です!ちょっと寝不足なだけで!先輩、僕の仕事を手伝ってたらまたお昼取るのが遅れちゃいますよ?」
昨日のお昼は僕のせいで休憩を取るのが遅れてしまって、先輩はゆっくり休憩できなくて迷惑をかけてしまった。
「今日は開発部でお昼を食べるから大丈夫だよ。ちょっと遅れてもシンさんに怒られたりしないと思うし…」
また僕の心臓はドクンと波打った。
「シンさんと…とるんですか?」
「うん。昼一番に部のミーティングだから。一緒に取れなくてごめんね。でもトワ君は総務部の人気者だし、一緒に取りたいっていう子もたくさんいるから…あっ、ハヤテも今日は早めに食堂行くって言ってたし!」
ハヤテさんの名前で思い出す。
ハヤテさんが言っていた、
先輩がシンさんと付き合っているという噂。
あれは本当だったんだ。
先輩は明るくて優しくてずっと僕の憧れの女性だから、シンさんが好きになるのもすごく分かる。
でも少しだけ、淋しい気持ちがするのは何故なんだろう。
「先輩は…シンさんのことが好きなんですか?」
無意識で発してしまった言葉に先輩は驚いた顔を見せた。
「えっ!あ、あのっ…それはっ…どういう?」
慌てている様子が、そうだと肯定しているようにしか見えない。
年下の僕が、『可愛い』なんて失礼かもしれないけど…本当にこのひとは、すぐ顔に出るなぁ。
「社長命令でシンさんの下についてから嫌になったりしなかったんですか?シンさんって女性には人気ありますけど、社内でも怖がってる人が沢山いますし…」
「うん。すごく怖いよ。私が同じことを間違えたりすると、ものすごく冷た~い目で『お前の脳味噌は記憶しておくシワ一つない構造なのか!』って睨まれるし」
「い、言いそう…ですね。言っている様子がはっきりと目に浮かびます…」
「あはは。うん。他にもイッパイ言われるけど全然平気。そもそも私がしっかりしてないからいけないんだし」
「せ、先輩はしっかりした素敵な女性ですよ!僕が保証します!!」
思わず声が大きくなると、先輩は照れ臭そうに応えてくれる。
「ありがとう、トワ君。そう言ってくれて嬉しい。えっとね、実はどんなにキツく言われても、怖いとか嫌とかはないの。シンさんは誰よりも多くの仕事を正確にこなしてるし…しかも私の面倒もちゃんと見てくれてて色々勉強になるから、ほんと凄いなぁって思うし、見習わないと!って、いつも思うの」
先輩は幸せそうな笑顔を浮かべた。
「それにね、本当はすごく優しい人なんだよ」
「えっ、シンさんがですか?」
海外では本物の銃を使いこなしていて実は凄腕の殺し屋だとか、 シンさんの瞳を直視した女性は中毒患者のようになってしまうとか、 気に入らない人間はあっという間に海の藻屑にされるとか…シンさんに関して耳にする噂はどれも恐ろしい話ばかりだけれど。
僕はシンさんと直接かかわりが無いから、どんな人か詳しくは知らなかった。
先輩がそう言うなら、きっと優しい人なんだろうな。
キャーッ
突然廊下から騒がしい声が聞こえて、僕と先輩の会話はそこで途切れた。
廊下には確か総務の女の子たちが数人いたと思うけど…何かあったのかな?
ざわざわとした声は近づいてきて、ガチャリとドアが開き、シンさんが入ってきた。
その姿を、女子社員達が準備の手を休めて遠巻きに見ている。
…なんて少女マンガみたいな登場をする人なんだろう…。ただならぬ雰囲気に僕はわずかに緊張感を覚える。
「シンさん!どうしたんですか?わたしが遅いからっ?すいませんっ!!でも今日はあと30分後くらいに開発部にって…」
先輩が時計とシンさんの反応を見比べながら、途端に慌てた表情になる。
「午前中の仕事が予定より早く片付いたから、どうせ昼を取るなら外に行こうと思ってな」
「外?」
「不満か?」
「いっ、いいえっ!!!全然っ!!光栄ですっ」
「フン…」
僕と話す時とはうって変わった、先輩の慌てぶりが何だか可笑しい。
とても可愛らしく思えてしまう。
「何を笑ってる」
「えっ…?」
自然とクスクス笑ってしまっていたのか、シンさんが僕を見下ろした。
「あ、あのっ…別になんでもないです」
「……」
先輩を可愛らしいと思っていたのに気付かれたのかな…。
シンさんは不機嫌そうに僕をジロリと睨んだ。
まるで―
『俺の目の届かない所でコイツにちょっかいかけようなんて思うなよ』と言わんばかりに。
いや、この瞳は絶対そう言ってる……。
「シンさん、そんな怖い顔しなくてもいいじゃないですか。トワ君は私の可愛い後輩なんですよ」
「お前の後輩?それは気の毒だな」
「き、気の毒っ?!どういう意味ですかっ?」
「クックッ…ムキになるな。冗談だ。いちいち反応が面白いヤツだな。」
シンさんがふと、笑みをこぼした。
眉間に皺を寄せた怖い顔か冷たい横顔しか見たことがなかったけれど…こんなふうに笑う人なんだ。
そしてシンさんを笑顔にさせている先輩は、スゴイ。
「シンさん!今日は外に食べに行くんなら、トワ君も誘って行きましょうよ!」
「トワを?」
先輩の突然の提案に、シンさんがまた、ジロリと僕を睨んだ。
「ぼ、僕はいいです。まだ仕事残ってますし!お邪魔虫になりそうですし!お二人でどうぞ!」
勢いよく言ったあと、『お邪魔虫』という言葉に慌てて反応した先輩を見て、気まずい気分になる。
「そそそそんなことないよ。私とシンさんはべつにっそーゆーんじゃ…ないこともないけど、なくて…」
顔を真っ赤にする先輩を、シンさんはじっと見つめた。
そして突然、先輩の肩を抱く。
「『別に』。隠すことでもねーだろ。この会社は恋愛禁止なんてルールは無い」
シンさんの行動に部屋の中の女の人たちが悲鳴をあげる。
「えっ…あのでもっ…」
「ミーティングまでには戻らなきゃならねー。とっととメシに行くぞ」
シンさんは先輩から手を離し、背を向けてドアへと歩きはじめた。
「は、はいっ!ご、ごめんねっ、トワ君!行ってくるね。」
先輩も急いで後を追って行ってしまった。
『隠すことでもねーだろ』、か…。
シンさんがあんな感じだと、会社中に知れ渡るのも時間の問題なのかもしれない。
今でもすでに噂が流れているくらいだし…。
ハヤテさん、ショック大きいだろうなぁ。
八つ当たりされるだろうから、僕からは絶対に触れないでおこう。
そんなことをぼんやり考えながら、ヒラヒラと手を振っていたけれど。
呑気な僕は、部屋にいた女の人たちにこのあと質問攻めにされてしまうことに、まだ気が付いていなかった。
「えっ…すみません」
午後の為に会議室の準備をしていると、先輩に声をかけられる。
担当じゃない先輩がせっかく手伝ってくれていたのに、僕はつい考え事をしてしまってたようだ。
「ずっと手がとまってるよ?珍しいね。えっと、これも一部ずつ並べればいいのかな?」
そう言いながら先輩は僕の手元にある資料に手を伸ばした。
白くて細い指に目が留まる。
この手が―――あの時…
昨日見てしまった光景を思い出すと、鼓動が速くなり、かあっと頬が熱を帯びる。
不機嫌そうだったシンさんを慌てて追いかけていった先輩はハンカチを忘れたままだった。
僕はすぐに忘れ物を持って先輩の後を追った。
開発部へつながる廊下の曲がり角で追いついて、声をかけようとして…
シンさんが、壁に先輩を押し付けるところを見てしまった。
そして先輩の耳に、首筋に―キスをして…
無理やりなのかと思って、僕は飛び出して止めようかと思ったけれど、すぐに気付いた。
先輩の手はしっかりとシンさんの胸に置かれていた。どう見ても拒絶の意思は見えなかった。
僕は、慌てて隠れた。
「やっぱり変だよ?トワ君、具合悪いの?休憩してくる?」
急に先輩が僕の顔を覗き込む。
「い、いいえっ!大丈夫です!ちょっと寝不足なだけで!先輩、僕の仕事を手伝ってたらまたお昼取るのが遅れちゃいますよ?」
昨日のお昼は僕のせいで休憩を取るのが遅れてしまって、先輩はゆっくり休憩できなくて迷惑をかけてしまった。
「今日は開発部でお昼を食べるから大丈夫だよ。ちょっと遅れてもシンさんに怒られたりしないと思うし…」
また僕の心臓はドクンと波打った。
「シンさんと…とるんですか?」
「うん。昼一番に部のミーティングだから。一緒に取れなくてごめんね。でもトワ君は総務部の人気者だし、一緒に取りたいっていう子もたくさんいるから…あっ、ハヤテも今日は早めに食堂行くって言ってたし!」
ハヤテさんの名前で思い出す。
ハヤテさんが言っていた、
先輩がシンさんと付き合っているという噂。
あれは本当だったんだ。
先輩は明るくて優しくてずっと僕の憧れの女性だから、シンさんが好きになるのもすごく分かる。
でも少しだけ、淋しい気持ちがするのは何故なんだろう。
「先輩は…シンさんのことが好きなんですか?」
無意識で発してしまった言葉に先輩は驚いた顔を見せた。
「えっ!あ、あのっ…それはっ…どういう?」
慌てている様子が、そうだと肯定しているようにしか見えない。
年下の僕が、『可愛い』なんて失礼かもしれないけど…本当にこのひとは、すぐ顔に出るなぁ。
「社長命令でシンさんの下についてから嫌になったりしなかったんですか?シンさんって女性には人気ありますけど、社内でも怖がってる人が沢山いますし…」
「うん。すごく怖いよ。私が同じことを間違えたりすると、ものすごく冷た~い目で『お前の脳味噌は記憶しておくシワ一つない構造なのか!』って睨まれるし」
「い、言いそう…ですね。言っている様子がはっきりと目に浮かびます…」
「あはは。うん。他にもイッパイ言われるけど全然平気。そもそも私がしっかりしてないからいけないんだし」
「せ、先輩はしっかりした素敵な女性ですよ!僕が保証します!!」
思わず声が大きくなると、先輩は照れ臭そうに応えてくれる。
「ありがとう、トワ君。そう言ってくれて嬉しい。えっとね、実はどんなにキツく言われても、怖いとか嫌とかはないの。シンさんは誰よりも多くの仕事を正確にこなしてるし…しかも私の面倒もちゃんと見てくれてて色々勉強になるから、ほんと凄いなぁって思うし、見習わないと!って、いつも思うの」
先輩は幸せそうな笑顔を浮かべた。
「それにね、本当はすごく優しい人なんだよ」
「えっ、シンさんがですか?」
海外では本物の銃を使いこなしていて実は凄腕の殺し屋だとか、 シンさんの瞳を直視した女性は中毒患者のようになってしまうとか、 気に入らない人間はあっという間に海の藻屑にされるとか…シンさんに関して耳にする噂はどれも恐ろしい話ばかりだけれど。
僕はシンさんと直接かかわりが無いから、どんな人か詳しくは知らなかった。
先輩がそう言うなら、きっと優しい人なんだろうな。
キャーッ
突然廊下から騒がしい声が聞こえて、僕と先輩の会話はそこで途切れた。
廊下には確か総務の女の子たちが数人いたと思うけど…何かあったのかな?
ざわざわとした声は近づいてきて、ガチャリとドアが開き、シンさんが入ってきた。
その姿を、女子社員達が準備の手を休めて遠巻きに見ている。
…なんて少女マンガみたいな登場をする人なんだろう…。ただならぬ雰囲気に僕はわずかに緊張感を覚える。
「シンさん!どうしたんですか?わたしが遅いからっ?すいませんっ!!でも今日はあと30分後くらいに開発部にって…」
先輩が時計とシンさんの反応を見比べながら、途端に慌てた表情になる。
「午前中の仕事が予定より早く片付いたから、どうせ昼を取るなら外に行こうと思ってな」
「外?」
「不満か?」
「いっ、いいえっ!!!全然っ!!光栄ですっ」
「フン…」
僕と話す時とはうって変わった、先輩の慌てぶりが何だか可笑しい。
とても可愛らしく思えてしまう。
「何を笑ってる」
「えっ…?」
自然とクスクス笑ってしまっていたのか、シンさんが僕を見下ろした。
「あ、あのっ…別になんでもないです」
「……」
先輩を可愛らしいと思っていたのに気付かれたのかな…。
シンさんは不機嫌そうに僕をジロリと睨んだ。
まるで―
『俺の目の届かない所でコイツにちょっかいかけようなんて思うなよ』と言わんばかりに。
いや、この瞳は絶対そう言ってる……。
「シンさん、そんな怖い顔しなくてもいいじゃないですか。トワ君は私の可愛い後輩なんですよ」
「お前の後輩?それは気の毒だな」
「き、気の毒っ?!どういう意味ですかっ?」
「クックッ…ムキになるな。冗談だ。いちいち反応が面白いヤツだな。」
シンさんがふと、笑みをこぼした。
眉間に皺を寄せた怖い顔か冷たい横顔しか見たことがなかったけれど…こんなふうに笑う人なんだ。
そしてシンさんを笑顔にさせている先輩は、スゴイ。
「シンさん!今日は外に食べに行くんなら、トワ君も誘って行きましょうよ!」
「トワを?」
先輩の突然の提案に、シンさんがまた、ジロリと僕を睨んだ。
「ぼ、僕はいいです。まだ仕事残ってますし!お邪魔虫になりそうですし!お二人でどうぞ!」
勢いよく言ったあと、『お邪魔虫』という言葉に慌てて反応した先輩を見て、気まずい気分になる。
「そそそそんなことないよ。私とシンさんはべつにっそーゆーんじゃ…ないこともないけど、なくて…」
顔を真っ赤にする先輩を、シンさんはじっと見つめた。
そして突然、先輩の肩を抱く。
「『別に』。隠すことでもねーだろ。この会社は恋愛禁止なんてルールは無い」
シンさんの行動に部屋の中の女の人たちが悲鳴をあげる。
「えっ…あのでもっ…」
「ミーティングまでには戻らなきゃならねー。とっととメシに行くぞ」
シンさんは先輩から手を離し、背を向けてドアへと歩きはじめた。
「は、はいっ!ご、ごめんねっ、トワ君!行ってくるね。」
先輩も急いで後を追って行ってしまった。
『隠すことでもねーだろ』、か…。
シンさんがあんな感じだと、会社中に知れ渡るのも時間の問題なのかもしれない。
今でもすでに噂が流れているくらいだし…。
ハヤテさん、ショック大きいだろうなぁ。
八つ当たりされるだろうから、僕からは絶対に触れないでおこう。
そんなことをぼんやり考えながら、ヒラヒラと手を振っていたけれど。
呑気な僕は、部屋にいた女の人たちにこのあと質問攻めにされてしまうことに、まだ気が付いていなかった。