SIRIUS.BOEKI
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「ナギ兄!こっちこっち!」
昼休みも終わりかけのざわつく社員食堂で。
ハヤテの大きな呼び声が無くても俺の視線は自然とそのテーブルで止まった。
ハヤテは●●とトワが座っている席で俺を呼ぶ。
思わず俺の手は昼飯をのせていたトレイを握りしめた。
「ナギさん、こんにちは!」
俺が無言で目の前に座ると、●●は少し緊張したように俺の名を呼んだ。
「ああ」
俺が返した声は浮つく心と反比例して低くなり、これじゃあ怒っているようにしか聞こえやしねえ…。
不機嫌そうに聞こえたのか彼女が更に緊張したのがわかった。
「お前まだ食ってんの?相変わらずトロいヤツだな。昼休み終わっちまうぞ」
ハヤテがいつもの調子で●●をからかう。
「先輩を悪く言わないでください。僕が遅かったからお昼を取るのが先輩まで遅れちゃったんです」
トワもいつもの調子で●●をフォローしていた。
「ハヤテこそ、こんな時間からお昼なの?」
「俺はいーんだよ。ナギ兄と商談に行って大活躍して帰ってきたトコなんだから。ノロノロ食ってるとその肉もらっちまうぞ」
ハヤテがからかうように彼女のトレイから肉を取ろうとする手を俺はとっさに掴んだ。
「な、ナギ兄?何で止めんだよ?」
「…コイツはもっと食った方がいいんだ」
俺の行動にハヤテは面食らった顔をしてから、悪戯を怒られた子供のように黙って自分の分を食い始めた。
トワが気遣うように場を取り持つ。
「そうですよね!先輩!よかったら僕のオムライスもどうぞ!」
「あ、ありがとう!」
「つーかなんでトワだけ社員食堂で旗つきオムライス食ってんだよ」
ハヤテが口に食い物を頬張ったままトワにツッコんだ。
「え?僕、食堂のおばさんと仲良いんです。だからオマケで旗をつけてもらえるんですよ。ハヤテさんも今度オムライス頼むときにはつけてもらったらいいじゃないですか。海賊旗もあるんですよ!」
「オレはガキじゃねえんだから旗なんていらねーし!」
「そんなこと言って、僕の旗がうらやましいんですよね?」
「はぁ?んなわけねーだろ」
さっきからハヤテとトワのやり取りを、周りのテーブルのやつらがチラチラと見ている。
広いはずの社員食堂でも異様に目立つコイツらは、自然と人の視線を集めているのに気付いていない。
「あの~…ナギさん」
●●が恐る恐る俺に声をかけてきた。
「わ、私の顔に、何かついてますか?」
……気づかねえうちに凝視していたようだ。
「いいや」
俺は気まずくなって、目の前の飯を掻き込んだ。
なに無意識で見てるんだ、俺。
「ここの社員食堂って安いし美味しいですよね。何でもありますし!」
●●は沈黙をぬぐうように俺に笑いかけてきた。
「そーだろそーだろ!」
「な、何でハヤテが自慢げなの?」
「ふん。聞いておどろくなよ?ここのメニュー考えてんのは、ナギ兄なんだぞ」
「ええっ!そうなんですか!?」
トワと●●が声をそろえて驚き、俺を見る。
「ナギ兄は料理がめちゃめちゃ上手いんだ。この食堂の責任者がナギ兄に頼りっぱなしで、どのスパイスが良いだのどの食材が良いだのとしょっちゅう相談に来るんだぜ。だから味付けやメニューの殆どはナギ兄考案ってわけ」
「僕、ここのオムライス大好きなんですよね~!ふわふわしてて丁度いい味付けで」
「トワ!お前が美味いオムライス食えンのもナギ兄あってのことだからな!」
「って、どうしてハヤテさんがそんなに威張ってるんですか?」
「そりゃあ俺は天下のナギ兄チームのエースだからに決まってっだろ」
「くだらねーことは別に…」
いい、と言いかけて、●●の瞳がまっすぐに俺に向けられた。
「私もこの食堂のメニュー大好きです!ナギさんがそんなにお料理上手なら、早く商品管理の食材貿易の方に行けるといいですね!」
俺がいずれは世界の食材貿易をメインに仕事をしたいと言っていることをおそらくハヤテが喋ったのだろうが…
●●が覚えていてくれたという事が胸を熱くする。
その笑顔が眩しくて、俺は少し視線を逸らした。
同期だと言いながらちょっかいをかけにいくハヤテを連れ戻しに行く度に●●をよく見かけるようになった。彼女は驚くほどコロコロと表情が自然に変わる。
俺は昔から思っていることを表情に出すのが苦手なタチだ。
不機嫌なわけじゃねえが、怒っていると捉えられることが多い。
普通に話したつもりだが、ぶっきらぼうだと言われることも多い。
弁解すんのもめんどくせーから誤解されることが何度もあった。
●●は覚えているだろうか。
初めて言葉を交わした日―
ハヤテにぶつかって躓きそうだった●●の腕を咄嗟に支えた。
何度も礼を言う彼女に、俺は「たいしたことじゃねー」とだけ返したつもりだったが、必死な●●の姿が微笑ましくて自然と顔がほころんでいたようだった。
そして彼女は屈託のない笑顔で俺に言った。
「わぁ!ナギさんって、すごく優しく笑う方なんですね」と。
そんなことを面と向かって言われたのは初めてだ。
いつしか目で追うようになっていた。
ずっと気になっていた。
だが女に声をかけるなんて自分からしたこともない。
だいいち仕事で絡みもねえのに何て声をかけるべきか躊躇い、結局気の利いたことも言えねえ。
それどころか●●に話しかける時は意識しすぎて心なしか更に強い口調になっちまう。
<今度二人で、どこかに行かないか?>
乱雑な男共しか身近にいねえ俺にとって、情けないがたったそれだけのことが言えずにどれだけの時を過ごしてきたか。
「そういや、最近ありえねえ噂を耳にしたんだけど」
すでに食い終わったハヤテが急に声を潜めた。
「お前さ、開発部のシンと付き合ってんの?」
ハヤテの言葉は、社員食堂にいたはずの俺を奈落の底へと突き落とした。
「えっ!!何ですか、その噂っ!!」
トワが驚きを隠せない顔で、大きな声をあげる。
「シーッ!だから噂だって!受付の女どもが言ってたんだよ。シンに女がデキて、ちっとも相手してくれないとか何とか」
「ええっ!シンさんって受付の女の人達と何か…親しいとかあるのっ…?!」
今度は彼女が慌てた声をあげた。
「はぁ?何慌ててんの?やっぱホントなのかよ?」
「そ、それよりも、相手してくれないってっ、どういう…」
「知らねーよ。ずっと前にシンが本社に居た頃は、社長と一緒に女どもに囲まれて飲みにいくこともあったんじゃねーの?ナギ兄なら知ってっかも」
彼女の視線は俺に注がれた。
俺とシンは同期だった。
入社してすぐ今の営業部に揃って所属された。
共に成績トップを競う相手だったが、ヤツは自分から海外開発部への転勤希望を出した。
ソツがないヤツだから営業も出来たが、緻密で機械好きな性格はシステム開発に向いているからと、ソウシさんが大賛成をしてすぐに決まった。
まるで何かを追うように―いや、何かから逃げるように…シンはさっさといなくなった。
「それほど仲が良い訳じゃない。アイツのことはよく知らねー」
それだけ言うと、俺は黙り込んだ。
本当によく知らないのは事実だった。俺もアイツも、互いに干渉しない性格だ。
この間の、開発部での光景…
眠っている彼女にシンが取ろうとしていた行動。
思えばあれが、俺がアイツに干渉した初めてかもしれない。
俺とシンは社長に連れられて酒場へ行くこともあった。
シンが女と適度に距離を保ちつつ適当に相手しているところを目にしたこともある。
だからこそ、あの光景をみた瞬間に頭に血が上った。
ゲームの駒のように他の女と同じに考えているなら許せねえ、と。
だがシンは思いもよらず真剣な表情を浮かべ<ふざけてなかったとしたら?>と、俺に言い返した。
コイツが決めることだ、と俺はそれ以上言えなかったが。
不器用な視線を送るばかりで自分の気持ちですらはっきり告げられてねえ俺は、出会って間もないのに簡単に手を出せてしまうシンを羨ましく思ったのかもしれない。
「まままさかお前、本気であの陰険なヤツと付き合ってんの?性格悪くなっちまうぞ?」
ハヤテが引きつった顔で言うと、
「バカになるよりマシだろ」
いつしかシンがすぐ近くに立っていた。
その手は強引に、●●の細い腕を掴む。
「とっとと開発部に来い」
「は、はいっ」
彼女は食いかけの飯を置いて、慌てて返事をして立ち上がった。
「ま、待てよ!いちおーまだ昼休みだろ?ゆっくりメシくらい食わせてやれよ」
ハヤテがシンを呼び止めた。
「うるせーな。コイツは俺の部下だ。口出しするな」
シンが不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。
「お前こそ、いつもコイツの周りをチョロチョロしてんじゃねーよ。営業部ってのはそんなに暇なのか?」
シンが言い放った言葉に、ハヤテが掴みかかりそうになる。
「何だと?!オレがどこをウロつこうがてめーに関係ねえだろ?!」
●●はおろおろした様子で二人を見つめている。
「ハヤテさん、シンさん、落ち着いてください」
トワも声をかけるが、二人は全く耳に入れる様子もない。
「目障りだと言ってるんだ」
シンが吐き捨てると、ハヤテが腕を振り上げる。
「ハヤテ!やめろ。騒ぐんじゃねーよ」
俺が声をあげると、ハヤテはしぶしぶ腕を引っ込めた。
俺は●●のトレイを指差した。
「飯はまだ残ってる」
俺が作ったメシでもないが何故そんなことを言ったのか自分でもわからない。
ただ、すぐ目の前でシンに●●を連れて行かれるということが耐えられなかった。
「…フン、勝手にしろ」
シンは不機嫌そうに溜息をついてから●●の腕を離し、食堂を出て行った。
彼女はシンの出て行った後をじっと見つめてから―
「は、ハヤテ…さっき私のも食べたいって言ってたよね?残りあげるっ…!」
それだけ言うと、シンの後を急いで追いかけていった。
「………先輩、行っちゃいましたね」
トワがぽつりと言った。
「ど、どーせ、シンの仕返しが怖えーから慌てて追っかけて行っただけだろ?」
ハヤテが虚勢をはったように笑った。
誰よりも●●を見つめてきたから、その視線で、仕草で、俺は理解した。
――彼女とシンの関係は…
俺は黙って目の前の飯を口に入れた。
それは途端に味のないものに変わる。
「早く食え」
震えそうになる声を必死で抑えて、もうとっくに食べ終えているハヤテとトワに、俺はマヌケなセリフを吐いた。
昼休みも終わりかけのざわつく社員食堂で。
ハヤテの大きな呼び声が無くても俺の視線は自然とそのテーブルで止まった。
ハヤテは●●とトワが座っている席で俺を呼ぶ。
思わず俺の手は昼飯をのせていたトレイを握りしめた。
「ナギさん、こんにちは!」
俺が無言で目の前に座ると、●●は少し緊張したように俺の名を呼んだ。
「ああ」
俺が返した声は浮つく心と反比例して低くなり、これじゃあ怒っているようにしか聞こえやしねえ…。
不機嫌そうに聞こえたのか彼女が更に緊張したのがわかった。
「お前まだ食ってんの?相変わらずトロいヤツだな。昼休み終わっちまうぞ」
ハヤテがいつもの調子で●●をからかう。
「先輩を悪く言わないでください。僕が遅かったからお昼を取るのが先輩まで遅れちゃったんです」
トワもいつもの調子で●●をフォローしていた。
「ハヤテこそ、こんな時間からお昼なの?」
「俺はいーんだよ。ナギ兄と商談に行って大活躍して帰ってきたトコなんだから。ノロノロ食ってるとその肉もらっちまうぞ」
ハヤテがからかうように彼女のトレイから肉を取ろうとする手を俺はとっさに掴んだ。
「な、ナギ兄?何で止めんだよ?」
「…コイツはもっと食った方がいいんだ」
俺の行動にハヤテは面食らった顔をしてから、悪戯を怒られた子供のように黙って自分の分を食い始めた。
トワが気遣うように場を取り持つ。
「そうですよね!先輩!よかったら僕のオムライスもどうぞ!」
「あ、ありがとう!」
「つーかなんでトワだけ社員食堂で旗つきオムライス食ってんだよ」
ハヤテが口に食い物を頬張ったままトワにツッコんだ。
「え?僕、食堂のおばさんと仲良いんです。だからオマケで旗をつけてもらえるんですよ。ハヤテさんも今度オムライス頼むときにはつけてもらったらいいじゃないですか。海賊旗もあるんですよ!」
「オレはガキじゃねえんだから旗なんていらねーし!」
「そんなこと言って、僕の旗がうらやましいんですよね?」
「はぁ?んなわけねーだろ」
さっきからハヤテとトワのやり取りを、周りのテーブルのやつらがチラチラと見ている。
広いはずの社員食堂でも異様に目立つコイツらは、自然と人の視線を集めているのに気付いていない。
「あの~…ナギさん」
●●が恐る恐る俺に声をかけてきた。
「わ、私の顔に、何かついてますか?」
……気づかねえうちに凝視していたようだ。
「いいや」
俺は気まずくなって、目の前の飯を掻き込んだ。
なに無意識で見てるんだ、俺。
「ここの社員食堂って安いし美味しいですよね。何でもありますし!」
●●は沈黙をぬぐうように俺に笑いかけてきた。
「そーだろそーだろ!」
「な、何でハヤテが自慢げなの?」
「ふん。聞いておどろくなよ?ここのメニュー考えてんのは、ナギ兄なんだぞ」
「ええっ!そうなんですか!?」
トワと●●が声をそろえて驚き、俺を見る。
「ナギ兄は料理がめちゃめちゃ上手いんだ。この食堂の責任者がナギ兄に頼りっぱなしで、どのスパイスが良いだのどの食材が良いだのとしょっちゅう相談に来るんだぜ。だから味付けやメニューの殆どはナギ兄考案ってわけ」
「僕、ここのオムライス大好きなんですよね~!ふわふわしてて丁度いい味付けで」
「トワ!お前が美味いオムライス食えンのもナギ兄あってのことだからな!」
「って、どうしてハヤテさんがそんなに威張ってるんですか?」
「そりゃあ俺は天下のナギ兄チームのエースだからに決まってっだろ」
「くだらねーことは別に…」
いい、と言いかけて、●●の瞳がまっすぐに俺に向けられた。
「私もこの食堂のメニュー大好きです!ナギさんがそんなにお料理上手なら、早く商品管理の食材貿易の方に行けるといいですね!」
俺がいずれは世界の食材貿易をメインに仕事をしたいと言っていることをおそらくハヤテが喋ったのだろうが…
●●が覚えていてくれたという事が胸を熱くする。
その笑顔が眩しくて、俺は少し視線を逸らした。
同期だと言いながらちょっかいをかけにいくハヤテを連れ戻しに行く度に●●をよく見かけるようになった。彼女は驚くほどコロコロと表情が自然に変わる。
俺は昔から思っていることを表情に出すのが苦手なタチだ。
不機嫌なわけじゃねえが、怒っていると捉えられることが多い。
普通に話したつもりだが、ぶっきらぼうだと言われることも多い。
弁解すんのもめんどくせーから誤解されることが何度もあった。
●●は覚えているだろうか。
初めて言葉を交わした日―
ハヤテにぶつかって躓きそうだった●●の腕を咄嗟に支えた。
何度も礼を言う彼女に、俺は「たいしたことじゃねー」とだけ返したつもりだったが、必死な●●の姿が微笑ましくて自然と顔がほころんでいたようだった。
そして彼女は屈託のない笑顔で俺に言った。
「わぁ!ナギさんって、すごく優しく笑う方なんですね」と。
そんなことを面と向かって言われたのは初めてだ。
いつしか目で追うようになっていた。
ずっと気になっていた。
だが女に声をかけるなんて自分からしたこともない。
だいいち仕事で絡みもねえのに何て声をかけるべきか躊躇い、結局気の利いたことも言えねえ。
それどころか●●に話しかける時は意識しすぎて心なしか更に強い口調になっちまう。
<今度二人で、どこかに行かないか?>
乱雑な男共しか身近にいねえ俺にとって、情けないがたったそれだけのことが言えずにどれだけの時を過ごしてきたか。
「そういや、最近ありえねえ噂を耳にしたんだけど」
すでに食い終わったハヤテが急に声を潜めた。
「お前さ、開発部のシンと付き合ってんの?」
ハヤテの言葉は、社員食堂にいたはずの俺を奈落の底へと突き落とした。
「えっ!!何ですか、その噂っ!!」
トワが驚きを隠せない顔で、大きな声をあげる。
「シーッ!だから噂だって!受付の女どもが言ってたんだよ。シンに女がデキて、ちっとも相手してくれないとか何とか」
「ええっ!シンさんって受付の女の人達と何か…親しいとかあるのっ…?!」
今度は彼女が慌てた声をあげた。
「はぁ?何慌ててんの?やっぱホントなのかよ?」
「そ、それよりも、相手してくれないってっ、どういう…」
「知らねーよ。ずっと前にシンが本社に居た頃は、社長と一緒に女どもに囲まれて飲みにいくこともあったんじゃねーの?ナギ兄なら知ってっかも」
彼女の視線は俺に注がれた。
俺とシンは同期だった。
入社してすぐ今の営業部に揃って所属された。
共に成績トップを競う相手だったが、ヤツは自分から海外開発部への転勤希望を出した。
ソツがないヤツだから営業も出来たが、緻密で機械好きな性格はシステム開発に向いているからと、ソウシさんが大賛成をしてすぐに決まった。
まるで何かを追うように―いや、何かから逃げるように…シンはさっさといなくなった。
「それほど仲が良い訳じゃない。アイツのことはよく知らねー」
それだけ言うと、俺は黙り込んだ。
本当によく知らないのは事実だった。俺もアイツも、互いに干渉しない性格だ。
この間の、開発部での光景…
眠っている彼女にシンが取ろうとしていた行動。
思えばあれが、俺がアイツに干渉した初めてかもしれない。
俺とシンは社長に連れられて酒場へ行くこともあった。
シンが女と適度に距離を保ちつつ適当に相手しているところを目にしたこともある。
だからこそ、あの光景をみた瞬間に頭に血が上った。
ゲームの駒のように他の女と同じに考えているなら許せねえ、と。
だがシンは思いもよらず真剣な表情を浮かべ<ふざけてなかったとしたら?>と、俺に言い返した。
コイツが決めることだ、と俺はそれ以上言えなかったが。
不器用な視線を送るばかりで自分の気持ちですらはっきり告げられてねえ俺は、出会って間もないのに簡単に手を出せてしまうシンを羨ましく思ったのかもしれない。
「まままさかお前、本気であの陰険なヤツと付き合ってんの?性格悪くなっちまうぞ?」
ハヤテが引きつった顔で言うと、
「バカになるよりマシだろ」
いつしかシンがすぐ近くに立っていた。
その手は強引に、●●の細い腕を掴む。
「とっとと開発部に来い」
「は、はいっ」
彼女は食いかけの飯を置いて、慌てて返事をして立ち上がった。
「ま、待てよ!いちおーまだ昼休みだろ?ゆっくりメシくらい食わせてやれよ」
ハヤテがシンを呼び止めた。
「うるせーな。コイツは俺の部下だ。口出しするな」
シンが不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。
「お前こそ、いつもコイツの周りをチョロチョロしてんじゃねーよ。営業部ってのはそんなに暇なのか?」
シンが言い放った言葉に、ハヤテが掴みかかりそうになる。
「何だと?!オレがどこをウロつこうがてめーに関係ねえだろ?!」
●●はおろおろした様子で二人を見つめている。
「ハヤテさん、シンさん、落ち着いてください」
トワも声をかけるが、二人は全く耳に入れる様子もない。
「目障りだと言ってるんだ」
シンが吐き捨てると、ハヤテが腕を振り上げる。
「ハヤテ!やめろ。騒ぐんじゃねーよ」
俺が声をあげると、ハヤテはしぶしぶ腕を引っ込めた。
俺は●●のトレイを指差した。
「飯はまだ残ってる」
俺が作ったメシでもないが何故そんなことを言ったのか自分でもわからない。
ただ、すぐ目の前でシンに●●を連れて行かれるということが耐えられなかった。
「…フン、勝手にしろ」
シンは不機嫌そうに溜息をついてから●●の腕を離し、食堂を出て行った。
彼女はシンの出て行った後をじっと見つめてから―
「は、ハヤテ…さっき私のも食べたいって言ってたよね?残りあげるっ…!」
それだけ言うと、シンの後を急いで追いかけていった。
「………先輩、行っちゃいましたね」
トワがぽつりと言った。
「ど、どーせ、シンの仕返しが怖えーから慌てて追っかけて行っただけだろ?」
ハヤテが虚勢をはったように笑った。
誰よりも●●を見つめてきたから、その視線で、仕草で、俺は理解した。
――彼女とシンの関係は…
俺は黙って目の前の飯を口に入れた。
それは途端に味のないものに変わる。
「早く食え」
震えそうになる声を必死で抑えて、もうとっくに食べ終えているハヤテとトワに、俺はマヌケなセリフを吐いた。