marriage~シンさんの理想の奥さんになるために~
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「おはようございますシンさん!」
シンさんの瞳が朝陽によって開いた時、私はシンさんの腕の中にいた。
そう…初めて腕枕で目覚めることができた。
この幸せを噛みしめようとしばらくシンさんの端正な寝顔を眺めていたのに。
「…朝からニヤけたマヌケ面のアップを見せるな」
むにっとぽっぺをつねられる。
「ひ、ひどい…初めてのバッチリ腕枕の目覚めで喜んでいただけなのに」
「病人の腕を枕にするとはいい度胸だな」
「あっ!ごめんなさい!」
慌てて起き上がると、
「冗談だ。嘘みてーにすっかり良くなってる。背中の傷の痛みもないしな」
そうだよね。
昨日の夜のシンさんは傷を負っていたのが嘘みたいに情熱的だった。
怪我してますしとわずかに抵抗した私を優しく激しく…
「おい。かなり気持ち悪い顔になってるぞ」
「き、気持ち悪いってっ」
「クックッ…お前はすぐムキになる」
「…昨日の夜は優しかったのに」
「さあ、何のことだ?」
やっぱりカボチャの馬車みたいに甘いシンさんは消えている。
でもそれが、実はすごくテレ屋なシンさんらしい。
「…ったく、さっきから顔が緩みすぎだ」
ぴしっ
「うっ…」
シンさんの軽いデコピンに私のニヤけた頬は少しだけ締まりを取り戻した。
「しかし、よろず草がここまで効くとはな。船に持って帰ったらドクターが喜びそうだ」
「そうですね。もっと生えてるといいんですけど」
「かなり珍しい薬草だから、そうそう生えちゃいねーだろ」
よろず草の話になって、ふと思い出した。
「あれ?シンさんは私がこの山に入ったって誰に聞いたんですか?」
「店屋の前で出会った女から聞かされた。何か言いたげに俺を見ているから聞けば、お前が山に入って行くのを見たと言うからな」
彼女はシンさんと親しいように言っていたけれど、シンさんの言い方は全く知らない人に思える。
「同い年くらいの綺麗な女の子ですよね?小さい頃、よくシンさんと遊んだって言ってましたけど…」
「そんな記憶はない。もしかして大勢のなかに居た女なのかもしれないが印象に残ってないな。それよりどうやってお前はよろず草がこの山にあるって知ったんだ?」
「その人に教えてもらって、ですけど」
「俺が後を追って山へ入ろうとすると、クマが出ると有名な山だから気をつけろと言われた。お前にも伝えたが、それでも山へ行くと言ったらしいな?」
え?そんな危ない山だったの?!
そんなこと一言も…
「クマが出ることを知らなかったのか?」
「…はい」
「あの女、何を企んでるんだ?村に戻ったら問い詰めて…」
「ま、待ってくださいっ」
ふと、彼女のことを私は思い出した。
どこかで見たことがあると思っていたけれど…
もしかして―
「シンさん、前にここを訪れた時、みなさんが婚約パーティーを開いてくれましたよね。皆で踊って…」
「ああ。お前がロイとくっついて踊ってネックレスを無くした時だろ?」
「シンさんは村の女の子たちに囲まれて、順番に踊ってましたよね?シンさんってモテるんだなぁって思ったんですけど…」
「当たり前だ」
「あの時、ただ一人だけ列には並ばないで、シンさんを遠くから見つめていた女の子がいたんです」
「よく覚えていたな、そんなこと」
「だって、私も…もし私もね、シリウスに乗ることがなくて、普通にこの村に住んでいたとしたら、シンさんと踊りたいって言えるかな、あの列に並ぶことができるのかなって思ったから印象に残ってるんです」
「どういうことだ?」
「シンさんって綺麗だし、あっ、男の人に綺麗って変かもしれませんけど…でも見とれちゃうくらい綺麗で。頭も良いし、ちょっと冷たい感じがするけどそれが素敵で…だ、だから緊張するし、手を繋いで踊れたら、そりゃあ嬉しいですけど…。本気の気持ちであればあるほど、他の子達と同じようにあの列に並ぶことができなかったんじゃないかなって思ったんです」
あの子はきっと、シンさんのことが好きだったんだ。
小さい頃からずっと…
でも遠目に見ているしかできなくて。
シンさんが突然私を連れてここに戻って来たから、
ついあんなことを―
「だからといってお前を危ない目に合わせるのは見当違いだ。尚更謝らせるべきだろう」
「ダメですっ」
きっと私が山に登ったあと、すごく後悔したんだと思う。
だからシンさんに、ずっと声をかけることが出来なかったシンさんに、勇気を出して伝えてくれたんだと思うから。
「お前は人が良すぎるんだ。俺なら絶対に許さないけどな」
「そうじゃないんです。わかるから、もういいんです」
彼女の本気の気持ちがとてもわかるから。
私と同じようにシンさんを大好きなのが、
わかるから。
だからこれ以上、彼女をシンさんに近づけたくない。
それが正直な気持ちだった。
「私…樽に入って本当に良かった!シンさんに好きになってもらって幸せです!」
「何だ?突然…」
「ずっと思ってたことです!だからもっともっと…世界一シンさんを幸せにしなきゃ!」
「馬鹿か、お前。それは俺のセリフだろ」
シンさんが照れたようにそっぽを向いて、
それから思い切り、微笑んでくれる。
この笑顔を手離したくない…
誰かを手離したくないって思う気持ちって、
時々人を臆病にさせてズルくする。
そして強くさせて成長させる。
恋なんて知らなかったシリウスに乗った頃と違って、
シンさんに恋をした今の私にはよくわかる。
「あっ、シンさん!あそこ、よろず草じゃないですか?」
「ん?」
ふと見ると、洞窟の端に昨日まで無かった白いハートの草が数本生えていた。
「クマも好んで食べるくらい甘い薬草でしたもんね!お土産に持って帰りましょう!これって、ケガの…ええと確かケガのコウメイ?」
「アホ。コウミョウ、だろ。確かにな」
シンさんがふぅっと大きくため息をついた。
「お前は充分、俺に必要な奥さんだって痛感したしな」
「理想の、じゃなくてですか?」
「調子に乗るな」
フンッと笑ったシンさんにまた、むにっとほっぺをつねられる。
シンさんの理想の奥さんには私は程遠いのかもしれない。
でもいつかそうなれるように、これからもずっとシンさんの側で冒険を続けたい。
私を必要だって、言ってくれるシンさんを信じ続けながら―
徘徊病すら直したというよろず草は、
私の寝相に少しだけは効いたのかもしれない。
落ちる寸前に目が覚めるようになったから、
ベッドから落ちたりはしなくなった。
けれど―
「おい、起きろ!俺に足をあげて寝るとはいい度胸だ。ったく、クマの爪痕すら一晩で治したよろず草が効かねーとは最強の寝相だな」
シリウス号のベッドの上で縦横無尽に暴れる私を、
今日も呆れたシンさんの声が目覚めさせてくれる。
シンさんの瞳が朝陽によって開いた時、私はシンさんの腕の中にいた。
そう…初めて腕枕で目覚めることができた。
この幸せを噛みしめようとしばらくシンさんの端正な寝顔を眺めていたのに。
「…朝からニヤけたマヌケ面のアップを見せるな」
むにっとぽっぺをつねられる。
「ひ、ひどい…初めてのバッチリ腕枕の目覚めで喜んでいただけなのに」
「病人の腕を枕にするとはいい度胸だな」
「あっ!ごめんなさい!」
慌てて起き上がると、
「冗談だ。嘘みてーにすっかり良くなってる。背中の傷の痛みもないしな」
そうだよね。
昨日の夜のシンさんは傷を負っていたのが嘘みたいに情熱的だった。
怪我してますしとわずかに抵抗した私を優しく激しく…
「おい。かなり気持ち悪い顔になってるぞ」
「き、気持ち悪いってっ」
「クックッ…お前はすぐムキになる」
「…昨日の夜は優しかったのに」
「さあ、何のことだ?」
やっぱりカボチャの馬車みたいに甘いシンさんは消えている。
でもそれが、実はすごくテレ屋なシンさんらしい。
「…ったく、さっきから顔が緩みすぎだ」
ぴしっ
「うっ…」
シンさんの軽いデコピンに私のニヤけた頬は少しだけ締まりを取り戻した。
「しかし、よろず草がここまで効くとはな。船に持って帰ったらドクターが喜びそうだ」
「そうですね。もっと生えてるといいんですけど」
「かなり珍しい薬草だから、そうそう生えちゃいねーだろ」
よろず草の話になって、ふと思い出した。
「あれ?シンさんは私がこの山に入ったって誰に聞いたんですか?」
「店屋の前で出会った女から聞かされた。何か言いたげに俺を見ているから聞けば、お前が山に入って行くのを見たと言うからな」
彼女はシンさんと親しいように言っていたけれど、シンさんの言い方は全く知らない人に思える。
「同い年くらいの綺麗な女の子ですよね?小さい頃、よくシンさんと遊んだって言ってましたけど…」
「そんな記憶はない。もしかして大勢のなかに居た女なのかもしれないが印象に残ってないな。それよりどうやってお前はよろず草がこの山にあるって知ったんだ?」
「その人に教えてもらって、ですけど」
「俺が後を追って山へ入ろうとすると、クマが出ると有名な山だから気をつけろと言われた。お前にも伝えたが、それでも山へ行くと言ったらしいな?」
え?そんな危ない山だったの?!
そんなこと一言も…
「クマが出ることを知らなかったのか?」
「…はい」
「あの女、何を企んでるんだ?村に戻ったら問い詰めて…」
「ま、待ってくださいっ」
ふと、彼女のことを私は思い出した。
どこかで見たことがあると思っていたけれど…
もしかして―
「シンさん、前にここを訪れた時、みなさんが婚約パーティーを開いてくれましたよね。皆で踊って…」
「ああ。お前がロイとくっついて踊ってネックレスを無くした時だろ?」
「シンさんは村の女の子たちに囲まれて、順番に踊ってましたよね?シンさんってモテるんだなぁって思ったんですけど…」
「当たり前だ」
「あの時、ただ一人だけ列には並ばないで、シンさんを遠くから見つめていた女の子がいたんです」
「よく覚えていたな、そんなこと」
「だって、私も…もし私もね、シリウスに乗ることがなくて、普通にこの村に住んでいたとしたら、シンさんと踊りたいって言えるかな、あの列に並ぶことができるのかなって思ったから印象に残ってるんです」
「どういうことだ?」
「シンさんって綺麗だし、あっ、男の人に綺麗って変かもしれませんけど…でも見とれちゃうくらい綺麗で。頭も良いし、ちょっと冷たい感じがするけどそれが素敵で…だ、だから緊張するし、手を繋いで踊れたら、そりゃあ嬉しいですけど…。本気の気持ちであればあるほど、他の子達と同じようにあの列に並ぶことができなかったんじゃないかなって思ったんです」
あの子はきっと、シンさんのことが好きだったんだ。
小さい頃からずっと…
でも遠目に見ているしかできなくて。
シンさんが突然私を連れてここに戻って来たから、
ついあんなことを―
「だからといってお前を危ない目に合わせるのは見当違いだ。尚更謝らせるべきだろう」
「ダメですっ」
きっと私が山に登ったあと、すごく後悔したんだと思う。
だからシンさんに、ずっと声をかけることが出来なかったシンさんに、勇気を出して伝えてくれたんだと思うから。
「お前は人が良すぎるんだ。俺なら絶対に許さないけどな」
「そうじゃないんです。わかるから、もういいんです」
彼女の本気の気持ちがとてもわかるから。
私と同じようにシンさんを大好きなのが、
わかるから。
だからこれ以上、彼女をシンさんに近づけたくない。
それが正直な気持ちだった。
「私…樽に入って本当に良かった!シンさんに好きになってもらって幸せです!」
「何だ?突然…」
「ずっと思ってたことです!だからもっともっと…世界一シンさんを幸せにしなきゃ!」
「馬鹿か、お前。それは俺のセリフだろ」
シンさんが照れたようにそっぽを向いて、
それから思い切り、微笑んでくれる。
この笑顔を手離したくない…
誰かを手離したくないって思う気持ちって、
時々人を臆病にさせてズルくする。
そして強くさせて成長させる。
恋なんて知らなかったシリウスに乗った頃と違って、
シンさんに恋をした今の私にはよくわかる。
「あっ、シンさん!あそこ、よろず草じゃないですか?」
「ん?」
ふと見ると、洞窟の端に昨日まで無かった白いハートの草が数本生えていた。
「クマも好んで食べるくらい甘い薬草でしたもんね!お土産に持って帰りましょう!これって、ケガの…ええと確かケガのコウメイ?」
「アホ。コウミョウ、だろ。確かにな」
シンさんがふぅっと大きくため息をついた。
「お前は充分、俺に必要な奥さんだって痛感したしな」
「理想の、じゃなくてですか?」
「調子に乗るな」
フンッと笑ったシンさんにまた、むにっとほっぺをつねられる。
シンさんの理想の奥さんには私は程遠いのかもしれない。
でもいつかそうなれるように、これからもずっとシンさんの側で冒険を続けたい。
私を必要だって、言ってくれるシンさんを信じ続けながら―
徘徊病すら直したというよろず草は、
私の寝相に少しだけは効いたのかもしれない。
落ちる寸前に目が覚めるようになったから、
ベッドから落ちたりはしなくなった。
けれど―
「おい、起きろ!俺に足をあげて寝るとはいい度胸だ。ったく、クマの爪痕すら一晩で治したよろず草が効かねーとは最強の寝相だな」
シリウス号のベッドの上で縦横無尽に暴れる私を、
今日も呆れたシンさんの声が目覚めさせてくれる。
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