序、父の訪問
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潮騒の音が聞こえる。少女は小舟に身を任せ、縁に突っ伏しながら水平線を眺めていた。オールはないが、それはたしかに彼女の帰るべき場所へと向かっている。ふと、カモメの声がする方向を向くと、進行方向にある砂浜に誰かがいる。その誰かは少女に気がつくと濡れることも気にせず、海に入ってきた。その様子を見た彼女は安心して眠りに落ちる─────
エステルは喧騒で目を覚ました。それはいつもは静かな宿屋の主人の罵声だった。
「金を返せ!この海賊野郎!」
「ちゃんと払うさ。でも今はちょいと別のところに用事があるんでね。でだ。俺の娘を返して欲しい」
エステルは起こされたことに対しての不満を顕にしながら、流れるように美しい黒髪をまとめると、勢いよく扉を開けた。
「…………安眠妨害するようなやつを父に持った覚えはないわ」
「エステル〜!!久しぶりだな!覚えてるか?父さんのこと!」
自分のことを父と称しているのは、どこか彼女と雰囲気がそっくりな海賊、キャプテン・ジャック・スパロウだった。エステルはため息をつくと、ジャックに瓶入りのラム酒を渡した。
「………何の用?" お 父 様 "」
彼女はお父様という部分を嫌味ったらしく強調すると、整った顔を少しだけ歪めて前髪をかき上げた。ジャックは周りに誰もいないことを確かめると、声を潜めて話し始めた。
「───契約期限が切れた」
「………何の?借金ならじぶんで何とかして」
彼は慌てて首を横に振った。だが、すぐにまた縦に振った。
「違……ああ。ま、そんなところだな」
相変わらず騒がしい人だと失笑しながら、エステルはラム酒を注いでジャックに渡した。するとジャックは前後の説明も省いて、頭の飾りをいじりながら提案し始めた。エステルはそれが言いにくいことを頼む時によくする、父の癖であることを知っていた。
「それでだなぁ………」
「何よ」
「…………ついてきて欲しいんだ。その、返済の手伝いに」
エステルはため息をつくと、椅子から立ち上がった。それから一言彼に言った。
「───自分で何とかして欲しいんだけど?」
それは、ジャックにしか分からない彼女の了承の合図だった。
暫く世話になった宿屋の主人に礼を告げると、エステルはブラック・パール号に乗船した。ふと見渡すと、見覚えのある男たちが何人か出迎えてくれる。
「エステル!大きくなったな!」
「ギブスさん!久しぶりね」
幼いときによく面倒を見てもらった、一等航海士であるギブスだった。エステルは懐かしさのあまり、口許を綻ばせた。すると更に、そこへピンテルとラゲッティがやって来る。
「嬢ちゃん、綺麗になったね」
「ピンテル。お前が言うと、何でそんなに不潔感が増すんだ?」
「うるせぇ!」
いつも通りのやり取りに失笑しながら、エステルはマストに手をかけて船の縁に登った。出港の合図と共に、頬を潮風が掠めていく。
やはり海の男の娘は、海から逃れることはできない。彼女はつくづくそう感じていた。そんな娘を横目でみながら、ジャックは例のコンパスを持っている。
「行き先は、どうします?」
「海に出ちまったんだ。もう、行くしかない」
ギブスはそれだけで指示を理解したらしく、水夫たちに命令を出し始めた。ジャックは心ここに非ずのような面持ちで、水平線の彼方へ消えていくまで陸を眺め続けるのだった。
エステルは喧騒で目を覚ました。それはいつもは静かな宿屋の主人の罵声だった。
「金を返せ!この海賊野郎!」
「ちゃんと払うさ。でも今はちょいと別のところに用事があるんでね。でだ。俺の娘を返して欲しい」
エステルは起こされたことに対しての不満を顕にしながら、流れるように美しい黒髪をまとめると、勢いよく扉を開けた。
「…………安眠妨害するようなやつを父に持った覚えはないわ」
「エステル〜!!久しぶりだな!覚えてるか?父さんのこと!」
自分のことを父と称しているのは、どこか彼女と雰囲気がそっくりな海賊、キャプテン・ジャック・スパロウだった。エステルはため息をつくと、ジャックに瓶入りのラム酒を渡した。
「………何の用?" お 父 様 "」
彼女はお父様という部分を嫌味ったらしく強調すると、整った顔を少しだけ歪めて前髪をかき上げた。ジャックは周りに誰もいないことを確かめると、声を潜めて話し始めた。
「───契約期限が切れた」
「………何の?借金ならじぶんで何とかして」
彼は慌てて首を横に振った。だが、すぐにまた縦に振った。
「違……ああ。ま、そんなところだな」
相変わらず騒がしい人だと失笑しながら、エステルはラム酒を注いでジャックに渡した。するとジャックは前後の説明も省いて、頭の飾りをいじりながら提案し始めた。エステルはそれが言いにくいことを頼む時によくする、父の癖であることを知っていた。
「それでだなぁ………」
「何よ」
「…………ついてきて欲しいんだ。その、返済の手伝いに」
エステルはため息をつくと、椅子から立ち上がった。それから一言彼に言った。
「───自分で何とかして欲しいんだけど?」
それは、ジャックにしか分からない彼女の了承の合図だった。
暫く世話になった宿屋の主人に礼を告げると、エステルはブラック・パール号に乗船した。ふと見渡すと、見覚えのある男たちが何人か出迎えてくれる。
「エステル!大きくなったな!」
「ギブスさん!久しぶりね」
幼いときによく面倒を見てもらった、一等航海士であるギブスだった。エステルは懐かしさのあまり、口許を綻ばせた。すると更に、そこへピンテルとラゲッティがやって来る。
「嬢ちゃん、綺麗になったね」
「ピンテル。お前が言うと、何でそんなに不潔感が増すんだ?」
「うるせぇ!」
いつも通りのやり取りに失笑しながら、エステルはマストに手をかけて船の縁に登った。出港の合図と共に、頬を潮風が掠めていく。
やはり海の男の娘は、海から逃れることはできない。彼女はつくづくそう感じていた。そんな娘を横目でみながら、ジャックは例のコンパスを持っている。
「行き先は、どうします?」
「海に出ちまったんだ。もう、行くしかない」
ギブスはそれだけで指示を理解したらしく、水夫たちに命令を出し始めた。ジャックは心ここに非ずのような面持ちで、水平線の彼方へ消えていくまで陸を眺め続けるのだった。