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第1章

*scene 4 警報②*

「…全く、あんたたちは何度、人を待たせたら気が済むんだ。」

あらためて言うが、彼は時間に厳しい。

例の警報から6時間近く経ったころ、リネットに着いた3人は、リバートンの前にいた。

防衛装置からの情報で、その警報の原因が懸念していたミュータントの襲撃に拠るものであったことは、リネットへ向かう間に把握出来てはいたのだが……

リネットに着くなり何度も残された映像を確認するリサへ、リバートンの小言は続く。

「防衛装置で対応するにしても、呼び出しにこんなに時間がかかるなら、それこそ北部支部だとかに応援要請するとか、他にも方法はあっただろうに。いいか?こっちは安心が欲しいわけだ。今回はまぁ、あの防衛装置のおかげで何とか助かったが、今後こういう事があるのは困る。あんたたちは、この【村】を保護すると言ったんだ。言った事はちゃんと守ってもらわんと、こっちも黙って管理されるワケにはいかん。」

実にクドクドと説教をたれるリバートンだが、左腕に負傷が見られる。

村長として、【村】を守るために受けた名誉の負傷らしいが、実のところは突然の警報に慌て驚き『外』を確認しようとして防衛装置に弾き飛ばされて出来たという、誰にも言えない傷だったりする。

当然の事ながら、後半部分は抹消されているが…。

前回リサの口から説明されたが、リネットを護る防衛システムは、作動している間【村】の出入りは不可能である。

だがしかし、弾き飛ばされるとまでは思っていなかったらしい。

「村長としては、あんたたちの…」

「その件に関しましては、心配無用です。」

放っておけばいつまでも続くだろうリバートンの小言を一旦切って、リサは彼に向き直る。

「先の会議で、調査も兼ねて私たちはリネット周辺が落ち着くまでの間、ここに滞在することになりました。」

胸ポケットから取り出した眼鏡のレンズを指で擦りながら、リサは続けた。

どうやら先程の会議の報告とは、この事だったようだ。

リサの後ろで、ヴィルとクルスが口々に叫ぶ。

「ちょ…ちょっと待て、初耳だぞ!」

「おれも、そんなのきいてませんよっ!!」

無論、彼らが知っているはずがない。

「だから、今言っているでしょう。」

肩越しに振り返るリサの表情は、いつものリサではなく、リーダーのそれである。

「上の決定は絶対よ。勿論、わかっているでしょう?」

言うなり、ふいっとリバートンに向きなおる。

何も言えなくなったヴィルは、そっぽ向き不本意を顕にするが、クルスはしばらく頭を抱え込んだ後は『正義を貫くためだ。』と、妙な納得をして腕を組んだ。

「…それが軍の方針なのか?わざわざここに留まらんでも、近くの北部支部でも良くないか?」

リバートンが、迷惑そうに顔を歪めた。

「本部の判断ですが、何か不都合でも?」

「………。」

今度は、迷惑そのものといった顔で、黙りこくる。

「北部支部とは情報を共有しますが、あくまでも別働隊となる為、あちらはリネット保護には関与しません。もし、私たちだけで不足だとお考えでしたら、本部から第一特攻部隊の派遣も要請できますが…」

にっこりとリサは続ける。

「どうします?」

「冗談じゃない。」

ぶんぶんと首を横に振る。

そもそも、リバートンは軍隊というものを好まない。自衛の術を持たない【村】への常駐は有難いとは思うが、軍人か横行するのはどうも耐え難いのだろう。

『第一特攻部隊』とは、S~Aクラスの隊員20名で構成されており、幾つかの小隊に分けられてはいるが、基本的には集団行動が常である。

来るとなればそれなりの人員で来るに違いない。

あきらめたように溜め息をついて、リバートンが続ける。

「…あんたたちだけでいい。この家で、好きにしてくれ。」

「ご協力、ありがとうございます。村民の方々の為にも、最善を尽くさせていただきます。」

軽く敬礼をする。話はついたようだ。

「…ただし、」

まだ何かあるのか…、部屋を出かけた三人を呼び止めるようにリバートンが言う。

「何でしょうか?」

リサが尋ねる。

「時間は厳守してもらう。あんたたちは、ちょっとどころか…かなり時間にルーズらしいが、そういうのは物凄く嫌いなんでね。」

リバートンの言葉には、かなりトゲがある。

しつこいようだが、リバートンは時間にうるさいのである。


 ……ガガガ……ピーッ、ピーッ、ピーッ…
 

《ミュータント襲撃。ミュータント襲撃。リネット『南門』ヲ襲撃中。直チニ防衛体勢ニ入ル……》

ウィィ ──── ン……

ピーッ、ピーッ、ピーッ………


「これは…!?」

突然の警報に、全員が顔を見合わせた。

「ヴィル、クルス。仕事よ。」

リサが言って、ようやくクルスが瞳を輝かせてつぶやいた。

「よかった。ここの警報はまともだ。」

「あのふざけた警報に比べるんなら、大抵の警報はまともだろ。」

ヴィルも言う。

そこまで言われながらも、今だ考えは変わらないリサは(顔にこそださないが)首をかしげる。

「何呑気な事言ってるんだっ。警報がなってるだろう、はやく何とかしてくれ!!」

リバートンの言葉で、はっと事の重大さに気付いたクルスは、

「よっしゃぁっーっ!! おれが正義の鉄拳を食らわせてやるっ!!」

叫んで、部屋を飛び出して行った。

「おーおー、ご苦労なこった。」

その背中を見送って、ヴィルが言った。

「何言ってるの。あなたも行くのよ。」

「あ、やっぱり?」

言わなかったら、本当に行かないつもりだっただろうな…ヴィルは。

「5分で準備してクルスの後を追いなさい。私はここに残り、あなたたちが南門に着いたら防衛システムを一時的に解除します。 その間に『外』へ出て、ミュータントを撃退すること。通信回路は[011]を使って……」
 
細部までとはいかないが、いろいろと指示するリサからは普段の姿は想像もつかない。

「…それから、くれぐれもいっておくけど、あまり深追いはしないでね。今回はミュータントの系統を確認することに重点を置いて。」

先程何度も再生した映像からは、巻き上がる砂塵の影響もあり、ミュータントの系統やその総数、その他諸々の特定には至らず、防衛対策への収穫はゼロに等しい。

言い終わって、リサはリバートンに視線を戻した。

「という訳なので、あなたはおとなしく傷を癒して下さい。」

邪魔はするな…と、いうことなのだろう。

リバートンは、バツが悪そうに目を逸らし、そっと左腕を隠した。

「…んじゃ、まぁ…行ってくるか。」

かったるそうに前髪をかきあげながら、ヴィルは部屋を後にした。

部屋にはリバートンとリサの二人。

「大丈夫。リネットは私たちが護ります。」

にこりと微笑んでリサが言った。



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