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第1章

*scene 3 警報*

リサが会議から戻って来たのは、16時を10分ばかり過ぎた頃だった。

「…何してるの? クルス。」

戻る途中で購入したと思われる携帯食を食べながら、リサが言った。

そういえば、昼食を満足に食べていないはずである。

「何…って、見たままですよ。」

物凄く不機嫌そうな表情したクルスは、答えてスパナを置いた。

scene 3 ①


文句を言いつつも、ヴィルから言われた事を律義にやっていたのである。ヴィルの方はおそらく眠りの佳境に入っているところだろう。

「もしかして、直してる…とか。」

「…他に何してるように見えるんですか。」

「分解…あ、いや…破壊かなぁ…。」

右手の人差し指を顎に当て、リサが答える。

「どーいうイミですかっ。」

『機械の天敵』…、クルスをそう呼ぶ者は、数知れない。

一体、どれだけの人間を泣かせて来たことか…、この機械おんちは…。

「こんな旧式のバイクくらい、おれにだって直せますよ。」

両手を腰に当てて、やや不満げにクルスは言った。

「旧式って、バカにするとヴィルが怒るよ。」

傍にあるイスを引き寄せてリサが腰を下ろす。

「……前から思ってたんですけど、ヴィルさんは何だってこんな旧式のバイクを、いつまでも使ってんですかね。」

と、視線をバイクに移す。

旧式のバイク…ヴィル命名『スタリオン』は、軍に入る前から乗っているオフロードバイクである。現在に至っては、高性能のエア・バイクが主流になり、軍部のバイクもこれに準ずるが、どういう訳かヴィルはこのスタリオンを手放そうとしないのだ。

「旧式で悪かったな。」

寝起きのヴィルがあくびをしながら登場。

「なんだ…ヴィル、寝てたの?」

「…心の具合は、もう良んですか。」

工具を片付けながら、やや皮肉まじりにクルスは言った。

「寝たらなおった。」

「あーそうですか。ずいぶんと便利な心ですね。」

「そーだな。」

精一杯の皮肉だが、ヴィルが気にも留めないので、とても悔しいクルス。行き場のない感情を深いため息と共に吐き出す。

「ちょーど良かった。実はね、さっきの会議で決まった事なんだけど……」

「ちょっと待て、何か聞こえる。」

割と重要な筈のリサの言葉は中断され、ヴィルが耳をすました。

釣られてクルスが、リサが耳をすます。


 チロチロリロリン… チャランチャチャラララン…


「……おい。何だ、このふざけた曲は。」

物凄く不愉快そうにヴィルが問う。

「知りませんよ、そんな事。」

クルスが答える。

「えぇー…こんなに早く引っかかるなんてちょっと想定外。」

こちらでも不満げにリサがぼやくが、

「さてと…2人とも、何ぼーっとしてるの?仕事よ。お仕事。」

パンパンと手を叩いて促した後は、てきぱきと仕度を始めた。

「仕事?」

クルスとヴィルの声が重なる。

「まさか、このふざけた曲はおまえじゃないだろーな。」

さらに不愉快そうにヴィルが問う。

「あ、これ? リネットに置いてきた防衛装置の警報なの。可愛いでしょ。」

scene 3 ②


短時間でこんなの造るなんて、あたしってばホント天才よね…と、リサ。

「こんなもん造るヒマがあるんなら、もっと有意義に時間を使え。」

ヴィルには言われたくない言葉である。

クルスもまた、溜め息をつきながら、

「チーフぅ…、警報を造るなら造るで、もう少し形式に則ったもの造って下さいよぉー。」

と、ぼやく。

確かに、おもいっきり緊張感のない警報だ。

「えー、可愛いと思ったのになぁ。」

本気で思っているらしい。

「そうだっ! こんなこと言ってる場合じゃないですよっ。早くバネットに行かなくちゃっ! 会議の話は、その後ききます!」

バネットではなく、リネットなのだが…。

初仕事で、妙に気合いが入っているクルス…いや、ただ単にワクワクしているだけなのだろう。力いっぱい興奮しているようだ。

「…そうね、原因も知りたいし。じゃー、早いトコ行きましょ、ヴィル。」

リサがヴィルを促す。一足先にクルスは出ていった。

「わかった。わかった…けどな、リサ。」

「何?」

きょとんと聞き返す。

「戻ったら、あのふざけた警報とりかえとけよ。」

かなり不愉快そうにヴィルは言って、クルスの後に続いた。

「…いいと思ったんだけどなぁ…、あの警報。」

本当にそう思っているトコロがおそろしい。

ぽそっと言いながら、リサは彼らの後を追った。








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