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第2章

*scene 4 クルスの疑問、リサの気まぐれ*

「それじゃ、ヴィルさんはロイさんたちと軍のシャトルで帰ってきたって事ですか?……ごじゅーーろく…」

ソファーに両足を掛け、床で腹筋運動中のクルスはぼやいた。

食後の運動と称し、ほぼ日課である筋トレの真っ最中だ。

軍人たる者、武器の整備はもちろんの事、基礎体力作りも欠かすことはできない。

がしかし、いくら調子が良いとはいえ、安静中の身で筋トレをするのはクルスぐらいだろう。

「そうよ。」

クルスが足掛けにしているソファーに座ったリサが雑誌片手に口を開いた。

ヴィルの姿はない。

スタリオンの整備か…、あるいはロイのところへ行っているのだろう。

「…そういえば、ヴィルさんとロイさんって知り合いなんですか?」

今朝のロイの言葉で旧友と言われていた事を思い出したのか、クルスは首を傾げた。

それもそのはず、非戦闘員である生物班の室長を務めるロイとヴィルとでは接点が思い当たらない。

この2人が友人であるという事実が、クルスには不思議でならないのだ。


「………57。はい、続けて。」

そんなクルスの疑問には答える気がないのか、雑誌に目を落としたままのリサが言ったのは、彼の腹筋運動の回数だ。

もちろんリサの事だ。軍の…特に自分の部下の情報ともなれば知らないはずはない。答えないのは、単なる気まぐれだろう。

そんなリサの気まぐれにも多少慣れてきたのか、軽く肩を竦めると、クルスも敢えて追及する事なく腹筋運動を再開した。

「…ごじゅーーは…ち…ッ」

まだ若干左肩が疼くのか、起き上がりに珍しく顔を歪める。

「………痛いならやめなよ?」

そんなクルスの様子に気付いたのか、雑誌を閉じたリサが言った。

「一応まだ安静中でしょ?」

「あ……でも、今やめるのは中途半端だし…」

軽く左肩をおさえたままで疼きを堪えているのか、苦笑いを浮かべるクルス。

中途半端が嫌いなクルスのこと、きちんと自分で課したノルマの100回まで止める気はないのだろう。

そんなクルスにやれやれと吐息すると、テーブルに雑誌を置きながら、リサはぼやいた。

「やめたらさっきの質問に答えてあげてもいいよ?」

「え?」

リサの言葉にきょとんとするクルスだが、すぐに意味を理解してリサを振り返る。

さっきの質問…もちろんヴィルとロイの関係についてである。

答えないのが気まぐれなら、答えるのもまた気まぐれなのだろう。

「トレーニングで身体壊されても困るしね。」

いつものPCの電源を入れると、リサは軽く肩を竦めた。

何だかんだ言っても、リサなりにクルスを気遣っているのだろう。

当然返す言葉もないクルスは頬を掻いてソファーに腰を下ろした。

いくらクルスが体力に自信があるとはいえ、安静中に筋トレをして身体を壊さないという保障はないのだから。

まぁ、もちろんヴィルとロイの関係についても聞いてみたかったに違いないだろうが。

「あの2人はね、昔、同じ小隊に所属してたらしいのよ。」

クルスが向かい側に座ったのを確認すると、リサは口を開いた。

ポケットから取り出した眼鏡をかけて、カタカタ…とキーボードを弾き、複数のファイルを読み込み始める。

「………え?でも、ロイさんは…」

「以前は、第1特効部隊に所属してたみたいね。」

頭の中で情報を整理しながら首を傾げるクルスの疑問に、さらっと答えるとリサは軽く肩を竦めた。

「つまり、彼はあなた達同様に軍の訓練施設で戦術・戦闘訓練を受けた戦闘員だった…ってワケ。」

どうでもよさそうに言い終わると、PCに向き直りキーボードに指を走らせる。

「…はぁ…、そー…だったんですか。」

リサから聞かされた意外な2人の繋がりに、驚くというよりは寧ろ妙に納得したようにクルスはぼやいた。

どこか並の友人にはみられない信頼という絆を感じる2人の関係も頷ける。

「はいっ、この話はこれでおしまい。」

しみじみと頷くクルスを他所に早々に話を打ち切ると、リサは小さく息をついた。

どうやらこれ以上は話すつもりはないらしい。

そもそも彼ら2人の関係がどうであろうが、リサにとってはどうでもいい事であるから、尚更なのだろう。

左手で頬杖をつきながらモニターを見据えるリサに肩を竦めると、クルスは立ち上がった。

仕事を始めたリサにコーヒーでも入れるつもりなのだろう。

「…んー…、思ったより酷くやられちゃってるなぁ…」

カタカタとキーボードを弾きながらリサは眉を寄せた。

モニターに表示されているのは、このリネットの防衛システムにリンクした内部構造の図形。

Aブロックから順に拡大してみたのだが、その異常ヵ所の多さはリサの予想を上まっていたようだ。

持参している交換パーツには限りがある。早目に修理して、これ以上の破損は回避したいところだ。

「おれ、何か手伝いましょうか?」

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リサのぼやきが聞こえたのか、コーヒーの注がれたカップを差し出しながらクルスが言った。

「遠慮します。」

サクッと即答しながら、カップに手を伸ばすリサ。

理由は言うまでもないだろう。

「即答しなくても…」

少しばかりムッとしながらもソファーに腰を下ろすと、自分の分のコーヒーに手を伸ばした。

「仕事増やしたくないから」

「どーいう意味です?」

「言葉通りよ」

「余計にわかんないんですけど?」

いつものやり取りの後、異常ヵ所をチェックし終えたリサが深々と溜息をつきながらぼやいた。

「…ったく、ヴィル遅いわね。」

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