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第2章

*scene 3 平穏*

「ヴィルさんが帰ってきてるって本当なんですか!?」

部屋に入るなり、きょろきょろと室内を見回しながらクルスが言った。


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「……まぁね。」

答えるリサはまだ不機嫌だが、おそらくクルスは気付いてないだろう。

「無事なんですか!?」

「無事なんじゃない?」

ムスッとしたリサの視線の先、クルスの死角にあるソファーの端から、寝転がっていると思われる見慣れた長い足が覗く。言わずと知れたヴィルの足だ。

「ヴィルさん!!」

「よぅ。」

ソファーを覗き込んだクルスに軽く片手を挙げてヴィルは答えた。

「もぉーっ!!居るなら返事くらいしてくださいよぉっ!!」

文句を言いつつも、ヴィルの姿を見付けて心なしかホッとするクルス。

なにしろ、昨日の今日だ。

たとえヴィルが敏腕であるにしても無事に帰還するとは考え難い。

さらに、いつまでも連絡がないということで、クルスがどれだけ心配したかは計り知れない。

「何だってこんなに遅いんですか?!…っていうか、無事なら無事で連絡くらい…」

ヴィルに詰め寄り、そこまで言ったところで、その隣にいる男…ロイに気が付くと、クルスは口ごもった。

それもそのはず、クルスとロイは初対面なのだから。

「え…っと、あの…、…チーフぅ…」

困ったようにリサを見るが不機嫌なリサは答えてくれない。

ヴィルはヴィルで、読みかけの雑誌に視線を戻してたりする。

上司と先輩の2人に放置され、おろおろするクルスを見かねたのか、ロイは口を開いた。

「リベール軍・生物班のロイ・グラッドストンだ。」

「あ…じゃ、捕獲ミュータントを回収に来た軍の人っていうのは…」

「俺のことだろうね。」

答えてロイは眼鏡の縁を押さえた。

「お…お疲れ様ですっ。あ…、おれクルスって言います。クルス・カスケードです。」

名乗り遅れたクルスが、慌てて自己紹介を始める。

「えっと、特殊派遣部隊所属で、認識番号は…」

「いいよ。君の事なら聞いている。」

「へ?」

自己紹介の最中に口を挟まれ、拍子抜けしたクルスの声が響く。

「あのね……」

そんなやり取りを遠目で見ていたリサが苛々口調で更に口を挟んだ。

「そんな事はどーでもいいのよ。」

「いや、大事ですってば。」

「あたしが知りたいのは、あなたの滞在理由なワケよ。」

途中に聞こえたクルスの言葉は例によって無視し、リサは続ける。

「隠す必要がないなら、早いトコ答えてくれないかしらね。」

言い終わって腕組みをし、ロイを見据えるリサ。

「…チーフ、何か機嫌悪くないですか?」

「さぁな。」

ぼそっと耳打ちしてくるクルスに応えるヴィルには、どうやら自覚がないようだ。

まぁ、リサの不機嫌はヴィルだけのせいではないのだが。

「まぁ、個人的な理由だよ。」

リサの問いに短く答えて、ロイはPCの電源を切った。

「ここまで来たついでに、久しぶりに旧友と話でも…と、思ってね。」

言いながらヴィルに目をやる。

「良い機会だし、溜まってた有休も消化しておかないとね。」

眼鏡をはずし軽く目頭を押さえ、また掛けなおし。

「まぁ、ウチのスタッフたちは優秀だから俺が直接関わらなくても問題ない。その点は、心配無用だ。」

さらっと言うとロイは立ち上がった。

どうやら必要データの確認は終わったようだ。

「いちいち言うことがムカつくんですけど。」

上着をはおるロイを横目で見るリサはやはり不機嫌だ。

「そうだな…、1週間もあれば新種のデータはあがるだろう。」

右手をポケットに突っ込むと、ロイは残りの3人を振り返った。

ラフな服装に白衣。

これがロイのいつものスタイルらしい。

「仕事の邪魔にならないうちに、部外者は退散するとしよう」

言いながら、リサ…それからクルスに視線を向ける。

目が合ったクルスが軽く会釈し、リサはどうでもよさそうに頬杖をついた。

軽く肩を竦めるとロイは出入口へと足を向け、


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「じゃ、後でな。」

ドアの手前で、振り返ることなく放たれた言葉は、もちろんヴィルに向けられたものだ。

「おう。」

雑誌を読みながらの短い返答は聞こえていたのか、ロイはそのまま部屋を後にした。

「さてと……」

いつもの3人に戻ったところで、クルスもソファーに腰をおろす。

「おれにも、そろそろ教えてもらえませんかね。」

当然の主張という感じに言うと、腕組みをした。

「その前に…」

1人除け者にされたような複雑な顔をしたクルスの横で、ようやく不機嫌の原因が消えたリサが、ポンッと両手を叩いた。

「朝ごはんにしましょ」

すくっと立ち上がり、いそいそと食堂に向かうリサの後に、ヴィルも続く。

1人、ミーティングルームに残されたクルスは腕組みしたまま、ぼやいた。

「…おれ、チームの一員だよなぁ…?」


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