第1章
*scene 18 傍観者*
「なかなかやるな。」
幾重にもなる砂層によりできた砂の丘で、先程からの攻防を眺め、彼…シオンは微かに笑みを漏らした。
乾いた風が、生臭い血の臭いを運んでくる。
「帰るんじゃなかったんだ?」
おもしろくなさ気に言ったのは、ユイだ。
「まぁな。」
答えて、シオンは振り返った。
風に流れる金色の髪が、太陽の光でキラキラと輝く。
彼らは、この北部地域をテリトリーとする盗賊団『ゼィトル』だ。
奪うのは積荷だけの義賊としてその名を馳せ、【殺さずのゼィトル】といえば、この辺りで知らない者はいない。
他の盗賊団と違い、命までは奪われない事から、北部を主要ルートに選ぶ未報告の運び屋も多い。
「あいつら、やっぱり軍の人間みたいだしな。」
獰猛なミュータントを前に、踏み止まり闘うことが出来るのは、特別に訓練を受けた者…軍人に他ならないからだ。
言いながら、再び双眼鏡を覗き込む。
レンズ越しの視線の先には、ヴィルの姿。
周りに散らばるミュータントの残骸の中で、まだ微かに動きのあるミュータントに縄をかけているところだった。
「へぇ、あの状況で捕獲か。…やりあわないで正解だな。」
『外』を自由に動き回るシオンたちだからこそ、ミュータントの恐ろしさはよく知っている。
もちろん、遭遇しても闘えるだけの戦力の備えはあるが、訓練を受けている軍人との力量の差は抗えない。
逃げるが勝ち。
それが、彼らのモットーである。
常に先を見、危険を回避する。
それが出来るからこそ、ミュータントの蔓延る『外』で、生き残ることが出来ているのだ。
「若っ、また次のヤツらがそこまで来てますぜ。」
ユイのとなりでザックが指した先には、数十体のミュータントの群れ。
「あいつ…、今度こそ終わりだな。」
双眼鏡を片手にザックがぼやいた。
もちろんヴィルのことだ。
仲間を逃がすため止まったヴィルだが、その手にあるライフルも残弾に余裕はないはずだ。
「……調度いい。この状況を利用するか。」
ニヤっと笑ったシオンをやっぱりおもしろくなさそうに見て、ユイは嘆息した。
「シオン、あの件ならもう別に…」
「いいから、俺に任せろって。」
気乗りしないユイにかまわず、シオンはライフルを手に取る。
「ザック。20人ばかり連れてついて来い。」
双眼鏡をユイに放り、ゴーグルに手を伸ばした。
「助けるんですかい?」
ザックの問いに軽く答えて、ゴーグルを装着するシオン。
「軍人に貸しを作っておいて、損はないからな。」
言いながら、口元を布で覆った。舞い上がる砂埃を防ぐためだ。
「あたしも行く!」
放られた双眼鏡をさらに下の団員に放り、ユイはシオンの前に立ちはだかった。
その黒い瞳は、引くことを知らない。
「…わかった。好きにしろ。」
短く嘆息し、シオンはバイクに跨った。
「準備はいいな?」
「いつでも行けますぜ、若。」
ザックの後ろには、20人前後の男たちが待機しているようだ。
エンジンをかけたシオンのバイクの後ろにユイが飛び乗り、ザックたちを振り返る。
「行くぞ!」
シオンの掛け声と共に男たちは動き出した。
「なかなかやるな。」
幾重にもなる砂層によりできた砂の丘で、先程からの攻防を眺め、彼…シオンは微かに笑みを漏らした。
乾いた風が、生臭い血の臭いを運んでくる。
「帰るんじゃなかったんだ?」
おもしろくなさ気に言ったのは、ユイだ。
「まぁな。」
答えて、シオンは振り返った。
風に流れる金色の髪が、太陽の光でキラキラと輝く。
彼らは、この北部地域をテリトリーとする盗賊団『ゼィトル』だ。
奪うのは積荷だけの義賊としてその名を馳せ、【殺さずのゼィトル】といえば、この辺りで知らない者はいない。
他の盗賊団と違い、命までは奪われない事から、北部を主要ルートに選ぶ未報告の運び屋も多い。
「あいつら、やっぱり軍の人間みたいだしな。」
獰猛なミュータントを前に、踏み止まり闘うことが出来るのは、特別に訓練を受けた者…軍人に他ならないからだ。
言いながら、再び双眼鏡を覗き込む。
レンズ越しの視線の先には、ヴィルの姿。
周りに散らばるミュータントの残骸の中で、まだ微かに動きのあるミュータントに縄をかけているところだった。
「へぇ、あの状況で捕獲か。…やりあわないで正解だな。」
『外』を自由に動き回るシオンたちだからこそ、ミュータントの恐ろしさはよく知っている。
もちろん、遭遇しても闘えるだけの戦力の備えはあるが、訓練を受けている軍人との力量の差は抗えない。
逃げるが勝ち。
それが、彼らのモットーである。
常に先を見、危険を回避する。
それが出来るからこそ、ミュータントの蔓延る『外』で、生き残ることが出来ているのだ。
「若っ、また次のヤツらがそこまで来てますぜ。」
ユイのとなりでザックが指した先には、数十体のミュータントの群れ。
「あいつ…、今度こそ終わりだな。」
双眼鏡を片手にザックがぼやいた。
もちろんヴィルのことだ。
仲間を逃がすため止まったヴィルだが、その手にあるライフルも残弾に余裕はないはずだ。
「……調度いい。この状況を利用するか。」
ニヤっと笑ったシオンをやっぱりおもしろくなさそうに見て、ユイは嘆息した。
「シオン、あの件ならもう別に…」
「いいから、俺に任せろって。」
気乗りしないユイにかまわず、シオンはライフルを手に取る。
「ザック。20人ばかり連れてついて来い。」
双眼鏡をユイに放り、ゴーグルに手を伸ばした。
「助けるんですかい?」
ザックの問いに軽く答えて、ゴーグルを装着するシオン。
「軍人に貸しを作っておいて、損はないからな。」
言いながら、口元を布で覆った。舞い上がる砂埃を防ぐためだ。
「あたしも行く!」
放られた双眼鏡をさらに下の団員に放り、ユイはシオンの前に立ちはだかった。
その黒い瞳は、引くことを知らない。
「…わかった。好きにしろ。」
短く嘆息し、シオンはバイクに跨った。
「準備はいいな?」
「いつでも行けますぜ、若。」
ザックの後ろには、20人前後の男たちが待機しているようだ。
エンジンをかけたシオンのバイクの後ろにユイが飛び乗り、ザックたちを振り返る。
「行くぞ!」
シオンの掛け声と共に男たちは動き出した。