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第1章

*scene 1 顔合わせ*

あらかじめ言っておくが、彼はとても時間に厳しい。

「…遅い。これだから【街】の人間は気にくわん。」

先程から時計を見ては、ブツブツと言っている。

見たところ50代前後のわりに、がっしりとした身体の持ち主である彼は、【街】を遥かに離れた、この小さな【村】の村長だったりする。

そして、その彼が先程から何をしているか…というと、防衛軍の新チームとの初顔合わせのハズだった。

「全く…15分も人を待たせて…」

ブツブツと言う、そのイライラはかなりなものだ。

重ねて言うが、彼はとても時間に厳しい…というか、うるさい。

「遅い…、遅い…、遅すぎるッ!」

どうやら彼のイライラが頂点に達したらしい。

何度も言うが、彼はとても時間に厳しい…というか、横暴である。

散々ブツブツ言った後、今度は自分の下で働いている人の良さそうな若者に八つ当たりをするという暴挙にでた。

カチャ…と、ドアが開かれる。

「遅れてすみません。」

澄んだ声が部屋に入る。
 
どうやら相手が来たようだ。3人ばかりが部屋に入ってきた。


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「お初にお目にかかります、リバートン村長。」

前に進み出た1人の女性が穏やかな口調で言った。

年の頃は、20代中頃だろうか。面持ちは落ち着き、クールに見える。

彼女が、連邦防衛軍が誇る才女であり、そのIQは未知数である。

「リベール軍特殊派遣部隊でチーフを任されているリサ・マックスウェルです。特派は今期新設されたばかりの部隊の為、本所属は別にありますが、こちらでお見知り置き願います。この度は、遅れてしまい大変申し訳ありません。」

言って、深々と頭を下げる。

村長…リバートンは、喉まで来ていた言葉をひとまず飲み込み、彼らをそれぞれ見遣るが、不機嫌な顔は変わらない。

「…では、チームスタッフを紹介します。彼がヴィルヴィクス。」

リサと共に部屋に入ってきたうちの1人が前に出る。

「連邦内でも群を抜く腕利き隊員です。実力はSクラス、彼も本所属の第一特攻部隊との兼任となりますが、暫くは特派で行動します。」

ヴィルヴィクス…通称ヴィルは、軽く頭を下げた後、さも面倒臭いといった面持ちで視線を流す。

Sクラスでも、その性格には問題がありそうだ。

年齢は20代後半…と、いったところだろう。

「それから、彼はクルス・カスケードです。」

呼ばれて前に出たもう1人の彼…クルスは、まだまだ少年の面影が残る19歳。

チームでは最年少だ。

「彼は、今期訓練を終えたばかりの新人で、クラス・ランクはまだついていませんが、軍内でも優秀な指導教官の推薦により特例で特派所属となりました。」

「よろしくお願いしますっ。」

紹介されて深々と頭を下げる。

実にさわやかな光景である。

彼は、こよなく正義を愛する熱血漢らしい。

「今件では、私たちが軍の窓口となります。…では、さっそく本題に入らせていただきますね。まずは現状の整理から…」

一通りの紹介が済む頃には、やや毒気を抜かれたのか、気の抜けた息をつくリバートン。

付き従う若者へ目線を送ると、察したように頷いた若者がリサたちにソファへと着座を促した。

一礼してリサが腰を下ろすと、ヴィルとクルスはその傍らに控える。

「既に軍部から通達を受けていると思いますが、ここ数ヶ月程、北部地域で起こるトラブルの大半が、この【村】…リネット周辺地域に集中しています。トラブルの痕跡から、概ねミュータント絡みであると予想はされていますが、残念ながら今のところ軍部でも詳細はわかっていません。北部支部の方でトラブルの対応に当たっていますが、このままでは何れこのリネットへも被害が及ぶ恐れもある為、本部の判断で私たちが派遣されました。」

確かに自身へと向けられているはずのリサの視線に、どこか違和感を覚えたのだろうか。リバートンが訝しげに眉を寄せるが、リサの言葉は途切れることなく続く。

「北部支部とは別働隊となりますが、ざっくり言ってしまえば、私たちが【村】の防衛任務に就きます。その間、リネットは一時的に軍本部の管理下になってしまいますが、ご了承ください。……これを。」

淡々と言ってリサが差し出したものは小型の装置だった。

リバートンは受け取って、それをいろいろ角度をかえながら眺める。

「それは、リネットの面積・人口・その他あらゆるデータを元に開発した、最新鋭の防衛装置のバックアップです。追って届く予定のメインシステムにプログラムして下さい。危険を察知すると、防衛システムが自動的に作動しますので、特別に何かをする必要はありません。」

まずはリネットの防衛から取り掛かる為の前準備を整えるよう指示を出していく。

「補足になりますが、防衛システムが働いている間は、当然の事ながら『外』へ出ることは不可能です。勿論、【村】へも入れませんが、まず『外』に出る方はいないと思いますから大丈夫でしょう。」

さらりと説明される内容で、およそは理解することができると思うが、一言でいって『外』は危険である。

世界には、幾つかの主要都市【街】と、多数の【町】、そしてリネットのような小規模の【村】が無数に存在し、それぞれ生活している。

それ以外の地域は『外』と呼ばれ、植物の姿は殆ど見られず、割れた大地と黄砂で埋め尽くされた荒野となっており、いわゆる砂漠と似ている。

違うところといえば、大気が有毒ガスによって汚染されていて、足を踏みいれる事さえ難しい場所もあるというところだ。

おまけに、過去に幾度となく繰り返された遺伝子操作がトリガーとなり、獰猛な突然変異を来たした動物が時代を経て幾種も存在している。それらは総じてミュータントと称され、これまでにも人々に甚大な危害を与えてきたのだ。

そんな人類の危機ともいえる状況を回避すべく、お偉い様方が集まり作り上げたのが連邦防衛軍というワケで、彼ら…リサ、ヴィル、クルスは、いうまでもなくその一員である。

「今のところは、リネットまでミュータントの被害は無いという事ですし、この防衛システムで対応させていただきますが、何かあれば呼び出して頂いても構いません。こちらもお知らせすることができた時は、また連絡差し上げます。何か、質問されたい事はないですか?」

新設チームの顔合わせから入り、現状の整理と把握、防衛の前準備…と、順序よく進めていた会話も終盤に入ったようだ。

確認の意味を込めた問いで締めて、リサはにこりと微笑んた。

「……軍の管理下というのが、気に入らないが仕方ない。普段から軍に納めている対価分はしっかり護ってもらわないとな。まずはこの防衛装置とやらがどれだけ役に立つものだか試させて貰うことにしておく。」

こちらも早々に切り辞めたいのか、若干揶揄したような口振りで紡ぐと、傍らの若者へ装置のバックアップを渡した。

そんなリバートンに、微笑みを崩すことなく静かに腰を上げたリサは、ヴィルとクルスへと目線を送る。

退出の合図なのだろう。

「それでは、私たちはこれで失礼します。」
 
軽く一礼をして彼らは、部屋を後にした。






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