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第1章

*scene 15 出会いと襲撃*

「これで全部だな。」

集めた積み荷を固く結び付けながら、彼女は言った。

一列に縛り上げられた運び屋のリーダーらしき男が首を振る。

「隠しても無駄だぞ。」

今度は彼女の脇から大きな男が口を開く。

「やめな。」

「だけど、ユイ…」

言いかけた大男を睨んで黙らせ、彼女…ユイは続けた。

「あたしたちが用があるのはその積荷だけ。あんたたちの命には興味ないよ。ただね…」

胸元から、何か光るモノを取り出す。

珍しい形の小型ナイフだ。

「あたしたちの邪魔するなら…、どうなるかわからないな。」

言って、ユイはにっこり笑った。

20人…、いや、30人を越える男たちが、凄みのある顔でライフルを構える。

「……ハズレだな。」

ぼそ…と背後から聞こえた声に、ユイは身構えた。

男の声だが聞き覚えがない。

「んー、トラブルって…コレだったのかもね。」

今度は女の声だ。

「二人とも何を落ちついてるんですか!? これって、盗賊じゃないですか!!」

最後にまた別の男の声がして、ユイはようやく振り返る。

「何だ、お前らは。」

大男が言って凄むが、男はひるむ事なく銃口を向ける。

「さぁ…何だろうな。」

どこかバカにしたような笑みを浮かべて。

もちろんヴィルだ。

「てめぇ…」

「ザック、やめ…」

止める間もなく、大男…ザックの手からライフルは落ちた。

「だめよ、ヴィル。無闇に発砲しちゃ。」

「オレは至って平和的な行為だと思うが?」

「そうかなぁ…。おれは違うと思いますけど…。」

ユイは三人をそれぞれ見る。

まだ、20代前半の顔ぶれだ。

「何しやがるっ」

ライフルを失った手で、ヴィルに殴りかかろうとしたその時。

「やめとけ。」

盗賊の間から、声がした。

声の主は、ゆっくりと落ちたライフルを拾う。

「若…。」

盗賊が口々に囁く。

彼らの若頭だ。

「若、だけどあいつ…」

「死にたいのか?」

だったら、とめないけどな…と続け、ザックにライフルを投げた。

「…シオン。いつからいた?」

おもしろくなさそうにユイが尋ねる。

シオン…若のことだ。

「さぁな。それより、オレに無断で仕事するなっていってるだろ。」

金髪碧眼が、ユイの黒髪黒瞳と対照的で目立つ。

今の時代には珍しい純血の人間だ。

「いいじゃない。別に…」

おもしろくなさそうに答えて、ユイはヴィルに向き直った。

同じくシオンも。

軽く一瞥したあと、短く言った。

「今日は引く。」

「帰るっての?」

今度は意外そうにユイが言った。

「ああ。ここに来る前に見てきたが、ヤツらがいない。」

シオンは遠目に自分の来た方を眺め、バイクに跨がる。

「…そ…れって、まさか…」

「まさかだよ。絶対来る。」

シオンの言葉にザックを含む男たちは、一斉に車…バイクに飛び乗る。

高い唸りをあげ、走り出す。

「ユイ。早く乗れ。」

「…わかったよ。」

やっぱり、おもしろくなさそうに言って、ユイが乗るとバイクは走り出した。

盗賊の去った後。

「…ヴィルさん。」

「静かにしろ。」

ようやく口を開いたクルスに、ヴィルは冷たく言い放つ。

腑に落ちないクルスだが、とりあえず一列に縛られている運び屋たちの縄を切り、解放した。

「助かったよ。」

運び屋リーダーの言葉に、リサは首を振った。

「そうでもないわ。」

「え……?」

状況が呑み込めないリーダーとクルスが顔を見合わせる。

そんなことにはお構いなしで、ヴィルが軽く舌打ちし、リサは嘆息した。

おそらく、おかれている状況を理解しているのは二人だけだろう。

「下がってろ。」

言いながら、ヴィルはライフルを持ち替えた。

「………わかった。」

運び屋のリーダーが短く答えて、仲間たちに目配りをする。

リーダーとしての長年の勘が、危険を感じ取ったのだろう。

軍人ではない彼等には、戦いどころか自衛すら間々ならない。

数人ずつに分かれ、それぞれがジープ・輸送トラックへ乗り込んでいく。

「リサ、おまえも……」

「わかってる。」

言われるまでもなく、自らが乗ってきた軍のジープに乗り込み、エンジンをかけるリサ。

この状況下においての自分の役割くらいは心得ている。

「……今回は、分が悪いわね。あたしたちだけならともかく……」

全体で15台の輸送トラックと5台のジープに乗り込む運び屋を見、リサの表情が曇った。

「…だな。」

スタリオンに跨り、エンジンをかけるヴィル。

「まぁ、…何とかするさ。」

短く息をついて、ゴーグルを装着した。

今日は少しばかり風が強い。

乾いた黄砂が巻き上がり、視界も悪く、射撃には向かない天候だ。

「何なんです? 一体…」

一人状況が飲み込めないクルスも、ヴィルにつられてライフルを手に取る。

「来たぞ。あいつらが引いた原因がな。」

遠くで巻き上がる黄砂の中に、複数の影を見つけ、ヴィルがあごで指した。

ゆらゆら動くその影は、こちらへ近付いて来る。

それが何の影であるのか気づくのにそう時間はかからなかった。

「ミュータント………」

数回に亘り、リネット周辺でトラブルを起こしていた原因でもあるそれは、前回戦った時の2~3倍も上回る数だった。

微かに舌打ちをしたヴィルの奥で、ジープの上からリサが声を張る。

「2人とも、今回は彼らの安全を最優先に考えて。」

元より、盗賊に追い詰められていた運び屋たちの後方は岩層に阻まれており、逃げ場はない。

ヴィル…クルス…と、順に見ながら、リサは続けた。

「うまく引き付けて、退路の確保をお願い。」

実戦経験の浅いクルスには酷な指示だが、ヴィルも否定しない。

この状況を打破するには、正面突破する以外に方法は残されていないからだ。

「クルス、おまえは手前でヤツらを引き付けろ。オレが脇から退路を開く。できるな?」

「はい!」

力強く答えて、ライフルの安全装置を解除するクルス。

「気張れよ。今日はオレもおまえのフォローはできないからな。」

いつになく真顔なヴィル。

「わかってます。」

答えてクルスは、深く息を吸い込んだ。

ゆっくりと吐き出しながら、呼吸を整える。


──── パシューンッッ…


ヴィルの構えたライフルから響く銃声と共に、先頭を駆けるミュータントの1体が大きく転倒し、群れの動きが乱れた。

「いくぞ。」

「はい!」

ゴーグル越しに向けられた視線を合図に、2人はそれぞれ左右に分かれ、ヴィルは、運び屋の手前…クルスは、ミュータントの群れへ走り出した。











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