このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

第1章

*scene 14 待機*

生暖かい風がふわりと肌に触れた。

「……静かだな。」

沈黙を破るようにヴィルが口を開いた。

すでに何本目なのかわからない煙草に火を付ける。

「……そうですね。」

クルスが答えて辺りを見回した。

ミュータントの来る気配はない。

乾いた空気の中、再び風が吹く。

「…どれくらいになる?」

白い煙を吐き出して、ヴィルがたずねた。

「今、13時だから…」

腕時計に目をやりながらクルス。

「かれこれ、7時間くらいですかね。」

「そうか…、7時間か。」

言ってヴィルは何とも言えないような感慨深い表情を浮かべる。
 
同じような顔してクルスもしみじみと繰り返した。

「はい。7時間です…。」

 カタカタカタ…

ジープの中、シートを下げた運転席でリサがPCのキーボードを弾く音だけが響く。

 カタカタカタ…

「……なぁ、リサ。」

スタリオンに背を預け、風になびく前髪を鬱陶しそうにかきあげながらヴィル。

「何?」

顔は向けず、声だけの返事で、リサの指は止まることはない。

「7時間だ。」

「そうみたいね。」

 カタカタカタ…

「7時間ですよ。」

「みたいね。」

 カタカタカタ…

遠くで風が砂を巻き上げるのが見える。

短くなった煙草を足で踏みつぶし、ヴィルは首をならした。

クルスも小さな溜め息を付く。

すっかり真上に位置する太陽の熱気にじわりと汗がにじむ。

 カタカタカタ…、ピィー…

「………あ。」

「どうしたんです? チーフ。」

「ううん。独り言。」

 カタカタカタ…

生暖かい風がふわりと肌に触れた。

「……静かだな。」

沈黙を破るようにヴィルが口を開いた。

すでに何本目なのかわからない煙草に火を付ける。

「……そうですね。」

クルスが答えて辺りを見回した。

ミュータントの来る気配はない。

乾いた空気の中、再び風が吹く。

「…どれくらいになる?」

白い煙を吐き出して、ヴィルがたずねる。

「おれは時計じゃないんですけど…。」

ちょっと不満そうなクルスだが、もちろんヴィルは聞いてない。

小さく溜め息をついて答えた。

「今、13時7分だから…」

腕時計に目をやりながら続ける。

「かれこれ、7時間と7分くらいですかね。」

「そうか…、7時間と7分か。」

言ってヴィルは何とも言えないような感慨深い表情を浮かべる。

同じような顔してクルスも繰り返す。

「はい。7時間と7分…、あ、8分になりました。」

 カタカタカタ…

リサがキーボードを弾く音だけが響く。

 カタカタカタ…

「……なぁ、リサ。」

風になびく前髪を鬱陶しそうにかきあげながらヴィル。

「何?」

相変わらず、顔は向けず、声だけの返事で、リサの指は止まることはない。

「7時間と8分だ。」

「そうみたいね。」

 カタカタカタ…

「7時間と8分ですよ。」

「みたいね。」

 カタカタカタ…

遠くで風が砂を巻き上げるのが見える。

短くなった煙草を放り投げ、足で砂をかけるヴィルを見ながら、クルスは小さな溜め息をついた。

 カタカタ…カタ…

じわりとにじむ汗に時折指を滑らせながら、リサの指は止まらない。

 カタカタカタ…、ピピピピピ…

「……。」

「…チーフぅ?」

「何?」

「…いえ、別に…。」

 カタカタ…カタ…

生暖かい風が彼らの髪をそっと撫でた。

「……静かだな。」

「……そうですね。」

すでに何回目になるのかわからない会話をヴィルとクルスが始めた直後のこと。

 ピピピピピピ…

リサの腕についてるアラームが鳴った。おそらくさっきの音もこのアラームだろう。

「……おかしいなぁ。」

アラームをオフにしながら、リサがぼやく。

「何がですか?」

PCにディスクを入れ替え、首をかしげるリサにクルスも首をかしげてたずねた。

「うー…んとねぇ…」

「…じゃ、行くか。」

リサが困ったように額をかくのを見て、悟ったようにヴィルが言った。

「行く…って、どこにです?」

一人、わからないクルスがヴィルとリサを交互に見る。

「決まってるだろ。」

ゴーグル片手にヴィルが答える。

「…えー…と…?」

やっぱりよくわからないクルス。

取り敢えずリサを見るが、リサは目を反らせて教えてくれない。

そんなリサの頭に肘を乗せ、意地悪そうにヴィルは続けた。

「もう一か所あっただろ? ミュータントの出現予想ポイントが。」

「え…、ああ、はい。でも、確率はここのほうが高いから、ここを本命に絞る…って、チーフが…」

「やぁね、クルス。ちゃんと向こうにも寄って来たでしょう。一応、感知センサー置いてきてるってば。ちゃんと警報も付いてるんだから。」

「あ、そうなんですか。」

三人の間をなんとなく冷たいが物理的には暖かい風が通り抜けた。

「…って、もしかしてあの音…」

「一応の警報だろ?」

ようやく気がついたクルスにヴィルが答える。

「……うん。」

困ったように笑って、リサは溜め息をついた。

「…ってことは、向こうで何かトラブルが起こった…ってことじゃないですか!?」

はっ…としたようにクルスが叫ぶ。

「そうなるな。」

「うん。」

ヴィルとリサ。

「何呑気なこと言ってんですかっ、早く行きましょーよ!!」

言いながら、クルスはバイクに駆けていった。

「熱いヤツだ。」

「うん。」

おもしろそうにクルスを見送って、ヴィルは腕時計に目を落とす。

「7時間と28分…か。」

「…さ、さて、あたしたちも行かなきゃね。」

シートの位置を戻し、エンジン始動させたジープのハンドルを握るリサを横目に、自分もスタリオンに跨ると、ヴィルはひとりごちた。

「ま、捕獲は無理だろうがな。」








14/20ページ