第1章
*scene 9 警報③*
「まさか徹夜で探すとは思わなかったなぁ。」
「大丈夫? 目が血走ってるよ。」
一晩明けたスクリーンの前にはすっかりやつれたクルスの姿があった。
今更心配されてもうれしくもなんともない。
すでに何杯目なのかわからないコーヒーを飲みながら、残り1ページになった一覧表に視線を戻した。
「そーいう二人は、ぐっすりでしたね。」
「…さて、朝メシ、朝メシ…っと。」
クルスの言葉は聞こえないふりして、ヴィルはいそいそと扉へ向かう。
「あたし、朝はトマトジュースなんだけど、あるかなぁ…。」
リサもヴィルの後を追う。
「ちょ…、ちょっと二人とも、今のおれ見て心が痛まないんですか?」
訴えて聞くような人たちなら最初から徹夜などしてないはずだが…。
「あぁ、もうっ!!おれも行くから待って下さいよっ!」
案の定、訴えを無視されたクルスは、とりあえず二人の後に続いた。
「食った、食った。」
たらふく食って、満足しきったヴィルがどさっとソファーに腰を下ろす。
「…朝っぱらから良く食べれるね、ヴィル。」
「胃にブラックホールでもあるんじゃないですか?」
リサ、クルス…と続けて部屋に入ってくる。
「そーいうクルスはあんまり食べてなかったね。」
ヴィルの向かいに腰を下ろしながらリサが言った。
「徹夜して食欲ないんです。」
答えてクルスは、残り少なくなったミュータントリストの前に座る。
「いかんなぁー、若者が。」
「そーだね。朝食は一日のエネルギー源だよ。しっかり食べなきゃ。」
言いながら、ハハハッ…と無責任に笑うヴィルとリサ。
「誰のせいですかっ!誰のっ!!」
それは言わずと知れたこと。
……ガガガ… ピーッ、ピーッ、ピーッ…
《ミュータント襲撃……ミュータント襲撃……リネット『南門』ヲ襲撃。直チニ防衛体制ニ入ル……。》
ウィィ ──── ン……
ピーッ、ピーッ、ピーッ………
「……やっぱり来たね。昨日、リネットの襲撃に失敗してるから来るとは思ってたけど…。」
メインシステムのモニターにアクセスしながら、胸ポケットから眼鏡を取り出したリサが言った。
ぱっ…と、システムの構図が写し出される。
『南門』付近が赤く点滅しているのを見ながら、顔をしかめた。
「昨日の奇襲でかなりダメージ受けてる…。」
ある程度のレベルまでは堪えられるシステムだが、再度続けての襲撃にどこまで堪えられるのか…、リサにも判り兼ねる。
「…二人とも聞いて。もしかしたらシステムが…」
ブーッブーッブーッブーッ…
《『南門』防衛システム……Aブロック破損……自己修復不可…》
ブーッブーッブーッブーッ…
「もたなかったみたいだな。」
早朝に届いた荷物の中から、フルオートのライフルを取り出したヴィルが呑気に言った。
「………うん。」
リサもぽそっと言う。
「誰の手落ちだろうなぁ。」
「………いじわる。」
誰のせい…とすればこの場合、昨夜のうちにシステムをチェックしなかったリサの責任ということになる。
「二人とも、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないですよっ!!」
いつの間にか戦闘服に着替えたクルスが、あわてて自分のライフルを取り出す。
「……ったく、朝っぱらからやってくれる。」
クルスとおなじく戦闘服の上着に袖を通し始めてヴィルがぼやいた。
手早く腰にライフルを据え付けて、グローブをはめる。
「ねぇ、ヴィル。あのね…」
「NOだ。」
言いかけたリサの言葉に、きっぱりとヴィルは答えた。
「そんな余裕はない。それに専門外だ。」
まだ何も言ってないのに…とリサ。
「ヴィルさんっ、早くっ!! やっぱりデスクワークより、こっちの方が燃えるぜ。」
勝手に熱くなっているクルスを横目でチラッと見ながら、リサは溜め息をついた。
「何です? チーフ。」
「ん、別に…。」
端からクルスにだけはシステムの修理を頼む気はない。
頼む前から即答してきたヴィルに恨めしそうな目をやり、眼鏡を外す。
ブーッブーッブーッブーッ…
《『南門』防衛システム……Dブロック破損……自己修復不可…》
ブーッブーッブーッブーッ…
「…おい。これって、ちょっとやばいんじゃないか?」
モニターを眺めながら、ヴィルが言った。
「ちょっとなもんかっっ!!」
バンッ!…と、勢いよくドアを開けリバートンが乗り込んできた。
「一体どうなるんだっ!? 早くなんとかしてくれっ!」
警報が聞こえる度、居ても立ってもいられないのが、ここにも一人。
リネットの事を何より考えるリバートンがその人だ。
「……リバートンさん、落ち着いて下さい。まだ、2ブロックが破損しただけです。」
リサは言いながら、自分も小形ライフルを身に付け始める。
「何だ…? 壊れたんじゃないのかね?」
機械とは無縁のリバートンは、全くわからないため機嫌が悪い。
「ええ。今のところ、B・C・Eブロックが無事なので。ですが、それもどのくらいもつのか…」
長い髪を後ろで一つに束ね、リサも戦闘服に袖通す。
動きやすく作られた戦闘服は、その軽さに反して耐久性に優れており、直接的な攻撃から身を守るだけでなく、耐熱遮断の効をも持ち合わせる防衛軍独自のものであり、黄砂の広がる『外』へ出るためには必要不可欠なもの。
『外』には常に熱気が立ち込めており、生身では体力の消耗も早く疲労も激しいからだ。
「今回は、私も行きます。プログラムを組み替えれば、少しは持つでしょう。大まかな事はミュータント撃退後、行います。」
言って、パソコンとディスクを詰め込んだ。
「それで、大丈夫なのかね?」
リバートンが不満そうに口を開く。
「もちろんです。Sクラス級の実力者が二人もそろってますから。」
にっこりと微笑んだリサからは、不安は全く感じられない。
不満そうなリバートンの後ろには、心配そうなマリナの姿があった。
「大丈夫。約束は守るから。」
小さく言ってリサは、ヴィル・クルスと共に部屋を後にした。
「まさか徹夜で探すとは思わなかったなぁ。」
「大丈夫? 目が血走ってるよ。」
一晩明けたスクリーンの前にはすっかりやつれたクルスの姿があった。
今更心配されてもうれしくもなんともない。
すでに何杯目なのかわからないコーヒーを飲みながら、残り1ページになった一覧表に視線を戻した。
「そーいう二人は、ぐっすりでしたね。」
「…さて、朝メシ、朝メシ…っと。」
クルスの言葉は聞こえないふりして、ヴィルはいそいそと扉へ向かう。
「あたし、朝はトマトジュースなんだけど、あるかなぁ…。」
リサもヴィルの後を追う。
「ちょ…、ちょっと二人とも、今のおれ見て心が痛まないんですか?」
訴えて聞くような人たちなら最初から徹夜などしてないはずだが…。
「あぁ、もうっ!!おれも行くから待って下さいよっ!」
案の定、訴えを無視されたクルスは、とりあえず二人の後に続いた。
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「食った、食った。」
たらふく食って、満足しきったヴィルがどさっとソファーに腰を下ろす。
「…朝っぱらから良く食べれるね、ヴィル。」
「胃にブラックホールでもあるんじゃないですか?」
リサ、クルス…と続けて部屋に入ってくる。
「そーいうクルスはあんまり食べてなかったね。」
ヴィルの向かいに腰を下ろしながらリサが言った。
「徹夜して食欲ないんです。」
答えてクルスは、残り少なくなったミュータントリストの前に座る。
「いかんなぁー、若者が。」
「そーだね。朝食は一日のエネルギー源だよ。しっかり食べなきゃ。」
言いながら、ハハハッ…と無責任に笑うヴィルとリサ。
「誰のせいですかっ!誰のっ!!」
それは言わずと知れたこと。
……ガガガ… ピーッ、ピーッ、ピーッ…
《ミュータント襲撃……ミュータント襲撃……リネット『南門』ヲ襲撃。直チニ防衛体制ニ入ル……。》
ウィィ ──── ン……
ピーッ、ピーッ、ピーッ………
「……やっぱり来たね。昨日、リネットの襲撃に失敗してるから来るとは思ってたけど…。」
メインシステムのモニターにアクセスしながら、胸ポケットから眼鏡を取り出したリサが言った。
ぱっ…と、システムの構図が写し出される。
『南門』付近が赤く点滅しているのを見ながら、顔をしかめた。
「昨日の奇襲でかなりダメージ受けてる…。」
ある程度のレベルまでは堪えられるシステムだが、再度続けての襲撃にどこまで堪えられるのか…、リサにも判り兼ねる。
「…二人とも聞いて。もしかしたらシステムが…」
ブーッブーッブーッブーッ…
《『南門』防衛システム……Aブロック破損……自己修復不可…》
ブーッブーッブーッブーッ…
「もたなかったみたいだな。」
早朝に届いた荷物の中から、フルオートのライフルを取り出したヴィルが呑気に言った。
「………うん。」
リサもぽそっと言う。
「誰の手落ちだろうなぁ。」
「………いじわる。」
誰のせい…とすればこの場合、昨夜のうちにシステムをチェックしなかったリサの責任ということになる。
「二人とも、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないですよっ!!」
いつの間にか戦闘服に着替えたクルスが、あわてて自分のライフルを取り出す。
「……ったく、朝っぱらからやってくれる。」
クルスとおなじく戦闘服の上着に袖を通し始めてヴィルがぼやいた。
手早く腰にライフルを据え付けて、グローブをはめる。
「ねぇ、ヴィル。あのね…」
「NOだ。」
言いかけたリサの言葉に、きっぱりとヴィルは答えた。
「そんな余裕はない。それに専門外だ。」
まだ何も言ってないのに…とリサ。
「ヴィルさんっ、早くっ!! やっぱりデスクワークより、こっちの方が燃えるぜ。」
勝手に熱くなっているクルスを横目でチラッと見ながら、リサは溜め息をついた。
「何です? チーフ。」
「ん、別に…。」
端からクルスにだけはシステムの修理を頼む気はない。
頼む前から即答してきたヴィルに恨めしそうな目をやり、眼鏡を外す。
ブーッブーッブーッブーッ…
《『南門』防衛システム……Dブロック破損……自己修復不可…》
ブーッブーッブーッブーッ…
「…おい。これって、ちょっとやばいんじゃないか?」
モニターを眺めながら、ヴィルが言った。
「ちょっとなもんかっっ!!」
バンッ!…と、勢いよくドアを開けリバートンが乗り込んできた。
「一体どうなるんだっ!? 早くなんとかしてくれっ!」
警報が聞こえる度、居ても立ってもいられないのが、ここにも一人。
リネットの事を何より考えるリバートンがその人だ。
「……リバートンさん、落ち着いて下さい。まだ、2ブロックが破損しただけです。」
リサは言いながら、自分も小形ライフルを身に付け始める。
「何だ…? 壊れたんじゃないのかね?」
機械とは無縁のリバートンは、全くわからないため機嫌が悪い。
「ええ。今のところ、B・C・Eブロックが無事なので。ですが、それもどのくらいもつのか…」
長い髪を後ろで一つに束ね、リサも戦闘服に袖通す。
動きやすく作られた戦闘服は、その軽さに反して耐久性に優れており、直接的な攻撃から身を守るだけでなく、耐熱遮断の効をも持ち合わせる防衛軍独自のものであり、黄砂の広がる『外』へ出るためには必要不可欠なもの。
『外』には常に熱気が立ち込めており、生身では体力の消耗も早く疲労も激しいからだ。
「今回は、私も行きます。プログラムを組み替えれば、少しは持つでしょう。大まかな事はミュータント撃退後、行います。」
言って、パソコンとディスクを詰め込んだ。
「それで、大丈夫なのかね?」
リバートンが不満そうに口を開く。
「もちろんです。Sクラス級の実力者が二人もそろってますから。」
にっこりと微笑んだリサからは、不安は全く感じられない。
不満そうなリバートンの後ろには、心配そうなマリナの姿があった。
「大丈夫。約束は守るから。」
小さく言ってリサは、ヴィル・クルスと共に部屋を後にした。