ロビクリ短編(全年齢)
図書館で待ち合わせ
放課後は毎日図書館に寄る事にしている。
丁度通学路のすぐ側の位置にある、町一番の大きな図書館がクリフのお気に入りの場所だった。特に部活等に所属していないクリフは、放課後の時間をここで過ごす事が多い。
どうせ真っ直ぐ帰宅したところで、自宅には誰もいないのだ。
本棚と本棚の間にいると落ち着く。手に取った本のページを指で手繰っていると時間を忘れる。無数に並ぶ本の数だけ、自分の知らない物語や知識があると思うと、気分が高揚した。
一冊手に取った本の目次を眺め、本棚に戻し、またもう一冊選んで中身を確かめる。今日はどれを借りていこうか。考えているうちに、随分時間が経ってしまったようだった。
「お、いたいた。お待たせクリフ」
図書館では静かに、という注意はもうとっくに諦めていた。彼にしては控えめな声で呼ばれ、クリフは本から顔を上げて振り返る。
茶髪の少年が、図書館にはあまり似合わないスポーツバッグを提げて小走りで近寄ってくる。
「ロビン。早かったね」
クリフはもう一度本に視線を戻した。まだ、本を選んでいる途中だった。
「別に普通だぜ。今日は片づけは一年の当番だからさっさと抜けてきた」
「そう……」
それだけ返事をしてまた本を選び始めるクリフに、ロビンは肩を竦めた。
自分が部活を終えてここに来るまでの間、こうして本を読んで待っていてくれるクリフ。せっかく迎えに来ても、こうして本に夢中になられては帰るに帰れない。
「帰らねえの?」
先ほどまで運動をしていたロビンはそろそろ空腹だった。図書館の静かな空間に腹の虫が響く前に帰りたいのだが、目の前にいる年下の恋人は、自分が迎えに来た事よりも本のほうに気を取られているようだ。
「まだ今日借りるもの決めてないんだ。……退屈なら雑誌でも見ててよ」
そう言ってクリフは、また黙ってしまった。
空気を含んでふわりと膨らむ、短くて白い髪。その前髪から覗く淡い梅色の瞳は、本の文字を目で追っていた。
ロビンは小さくため息をついて、しょうがねえなあ、と唇の動きだけで呟く。
持っていた学生鞄とスポーツバッグを床に置くと、本を持つクリフの白い手を掴んだ。
「ちょっと、何……っ」
読書の邪魔をされたクリフが抗議の声をあげようとしたが、唇を塞がれてそれ以上何も言えなくなっていた。
目の前にロビンの顔があるが近すぎて焦点が合わない。唇を塞いでいるのがロビンのそれだと理解すると、途端に心臓が跳ね上がり、身体が熱くなる。
「んっ…ぅ……」
思わず目を閉じると、唇をそっと舐められたのが分かった。
本ごと掴まれた腕から力が抜けて、本を取り落しそうになると、ロビンにそのまま本を取り上げられた。しばらくされるがまま、啄むようなキスを繰り返され、やっと解放された時には、クリフは少し息が上がっていた。
「な、何す……」
「しーっ」
ロビンは今まで重なっていた唇の前に人差し指を当てて、悪戯っぽく笑った。取り上げた本を目の前でひらひらと振る。
「退屈だから帰ろうぜ。今日借りる本はこれ」
かああっとクリフの顔が真っ赤に染まる。その顔を見られたくなくて、クリフは目を逸らして乱暴にロビンから本を奪った。
「そういうとこ、ほんと嫌」
「そんな顔で言ってもなー」
「……うるさいな」
クリフはその一冊の本だけをカウンターへと持って行って、貸出の手続きをした。
ロビンと一緒に図書館を出て、やっと家路へとつく。
二人はこうしていつも、図書館で待ち合わせをしているのだ。
「じゃ、帰ろうぜ」
ロビンはクリフの一歩前を歩いて、クリフを振り返る。クリフの目の前に、手のひらを見せた。クリフは、ロビンの手のひらとその表情を、交互に見て、そのまま足を速めてロビンを追い抜いた。
「繋ぐわけないでしょ……」
「あ、おい待てよクリフ!」
ロビンは笑いながら、クリフの横に並びなおした。
それから二人は、他愛のない話をしながら歩く。学校であったこと、友達の話。時々ロビンがクリフに触れようとして、クリフが逃げるように別の話題を振る。ロビンが笑って諦めてその話題に応じる。それを繰り返しながら、二人の後ろ姿は道の向こうへと消えて行った。
並んで帰り道を歩くこの時間が、二人にとって大切な、二人だけの時間。明日も明後日も、ロビンは部活が終わると、図書館で待つクリフを迎えに来るのだ。
おわり
放課後は毎日図書館に寄る事にしている。
丁度通学路のすぐ側の位置にある、町一番の大きな図書館がクリフのお気に入りの場所だった。特に部活等に所属していないクリフは、放課後の時間をここで過ごす事が多い。
どうせ真っ直ぐ帰宅したところで、自宅には誰もいないのだ。
本棚と本棚の間にいると落ち着く。手に取った本のページを指で手繰っていると時間を忘れる。無数に並ぶ本の数だけ、自分の知らない物語や知識があると思うと、気分が高揚した。
一冊手に取った本の目次を眺め、本棚に戻し、またもう一冊選んで中身を確かめる。今日はどれを借りていこうか。考えているうちに、随分時間が経ってしまったようだった。
「お、いたいた。お待たせクリフ」
図書館では静かに、という注意はもうとっくに諦めていた。彼にしては控えめな声で呼ばれ、クリフは本から顔を上げて振り返る。
茶髪の少年が、図書館にはあまり似合わないスポーツバッグを提げて小走りで近寄ってくる。
「ロビン。早かったね」
クリフはもう一度本に視線を戻した。まだ、本を選んでいる途中だった。
「別に普通だぜ。今日は片づけは一年の当番だからさっさと抜けてきた」
「そう……」
それだけ返事をしてまた本を選び始めるクリフに、ロビンは肩を竦めた。
自分が部活を終えてここに来るまでの間、こうして本を読んで待っていてくれるクリフ。せっかく迎えに来ても、こうして本に夢中になられては帰るに帰れない。
「帰らねえの?」
先ほどまで運動をしていたロビンはそろそろ空腹だった。図書館の静かな空間に腹の虫が響く前に帰りたいのだが、目の前にいる年下の恋人は、自分が迎えに来た事よりも本のほうに気を取られているようだ。
「まだ今日借りるもの決めてないんだ。……退屈なら雑誌でも見ててよ」
そう言ってクリフは、また黙ってしまった。
空気を含んでふわりと膨らむ、短くて白い髪。その前髪から覗く淡い梅色の瞳は、本の文字を目で追っていた。
ロビンは小さくため息をついて、しょうがねえなあ、と唇の動きだけで呟く。
持っていた学生鞄とスポーツバッグを床に置くと、本を持つクリフの白い手を掴んだ。
「ちょっと、何……っ」
読書の邪魔をされたクリフが抗議の声をあげようとしたが、唇を塞がれてそれ以上何も言えなくなっていた。
目の前にロビンの顔があるが近すぎて焦点が合わない。唇を塞いでいるのがロビンのそれだと理解すると、途端に心臓が跳ね上がり、身体が熱くなる。
「んっ…ぅ……」
思わず目を閉じると、唇をそっと舐められたのが分かった。
本ごと掴まれた腕から力が抜けて、本を取り落しそうになると、ロビンにそのまま本を取り上げられた。しばらくされるがまま、啄むようなキスを繰り返され、やっと解放された時には、クリフは少し息が上がっていた。
「な、何す……」
「しーっ」
ロビンは今まで重なっていた唇の前に人差し指を当てて、悪戯っぽく笑った。取り上げた本を目の前でひらひらと振る。
「退屈だから帰ろうぜ。今日借りる本はこれ」
かああっとクリフの顔が真っ赤に染まる。その顔を見られたくなくて、クリフは目を逸らして乱暴にロビンから本を奪った。
「そういうとこ、ほんと嫌」
「そんな顔で言ってもなー」
「……うるさいな」
クリフはその一冊の本だけをカウンターへと持って行って、貸出の手続きをした。
ロビンと一緒に図書館を出て、やっと家路へとつく。
二人はこうしていつも、図書館で待ち合わせをしているのだ。
「じゃ、帰ろうぜ」
ロビンはクリフの一歩前を歩いて、クリフを振り返る。クリフの目の前に、手のひらを見せた。クリフは、ロビンの手のひらとその表情を、交互に見て、そのまま足を速めてロビンを追い抜いた。
「繋ぐわけないでしょ……」
「あ、おい待てよクリフ!」
ロビンは笑いながら、クリフの横に並びなおした。
それから二人は、他愛のない話をしながら歩く。学校であったこと、友達の話。時々ロビンがクリフに触れようとして、クリフが逃げるように別の話題を振る。ロビンが笑って諦めてその話題に応じる。それを繰り返しながら、二人の後ろ姿は道の向こうへと消えて行った。
並んで帰り道を歩くこの時間が、二人にとって大切な、二人だけの時間。明日も明後日も、ロビンは部活が終わると、図書館で待つクリフを迎えに来るのだ。
おわり
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