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ロビクリ短編(全年齢)

受け身なきみ



 たまたま同じ天幕に割り当てられたから、何かあると期待していた。
 俺たち一応、そういう関係だし、一緒に夜を過ごすわけだから、少しわくわくしていた。
 けれどクリフは、俺の恋人は、天幕に敷いた寝床に座って本を読みふけっている。
 恋人なんて呼んだらあいつは怒るだろうけど。
 でも、もう「友達」じゃいられないようなこと、いろいろしちまったし、いい加減クリフも開き直って、何か変わるのかなって思ったんだけど。
 いつも通りだ。いつものように本を読んでいる。
 狭い天幕に寝床を二人分並べて、枕元に一つずつ明かりがあるだけの空間だ。それなりに雰囲気がある。
 そんな場所でせっかく二人きりなんだから、なんかこう、何かあってもよくね? そう思ってるのは俺だけなんだろうか。
 とりあえず、夜も更けてきたし、明日も早いし、読書中に邪魔をするとクリフは一番怒るから、そっとしておいて、俺は先に寝よう。
「ロビン」
 色々期待していた事を諦めて、自分の寝床の側にある明かりを消そうとした時だった。
 クリフが俺の名前を呼ぶ。見れば、本に俯いたままのクリフが、呟いた。
「……寒い」
「もう夜中なんだから当たり前だろ。……お前もさっさと寝ろよ」
 何を言うのかと思ったらそれかよ。またお前は俺に世話焼かせようって魂胆か?
そう思って、俺はクリフの寝床の端に積んである毛布を取ってやった。
 それで、ふと思いついて、俺はクリフの寝床に横になって、読書中のクリフの背中をつっつく。
「寒いならいっしょに寝るか? ほら」
 毛布と一緒に腕を広げて、クリフを誘ってみる。クリフは俺を振り返って溜息をつくと、また読書に戻った。
「……なにそれ」
 …どうやら違ったらしい。なんだよ、ほんとに俺に毛布を取らせたかっただけなのかよ。
 そう思って、俺は仕方なく、俺の事なんかお構いなしに本に夢中のクリフの背中に、毛布をかけてようとした。
「あ」
 そのために近づいた時に、初めてクリフの手が、膝に乗せた本の上で自分の指先をさするように動いているのが分かった。
 そういえば、さっきから本のページをめくっていないような。
「クリフ?」
「……寒いって言ってるじゃん」
 クリフがもう一度そう言った。頭がさっきより俯いて、手をさする仕草を続けている。
 ああ、そうか。
 俺はやっと正解を見つけた気がして、毛布を自分の背中に被って、俺とクリフの二人ともを、毛布でくるんでみた。びくっとクリフが反応したけど、怒られなかった。
 背中から抱きしめる形になると、クリフの背中が強張った。俺は毛布の中でクリフのことを抱き寄せて、さっきからもじもじと動いている手を握る。
「うわ、クリフの手つめてえ」
「別に普通でしょ。……ちょっと、手放してよ」
 クリフの柔らかい手のひらを親指で撫でていたら怒られた。後ろからこうやって抱きついてる事には何も言わないんだな。
「ほんっと、お前は素直じゃねえなあ」
 思わず笑っちまって、クリフがなんだかかわいくて仕方がなくなって、俺は力いっぱいクリフのことを抱きしめた。
「ち、ちょっと、苦しい」
「ほら、これであったかいだろ?」
 逃げられないようにしっかり腰を抱いて、頬同士を寄せる。クリフの髪はふわふわで気持ちがいい。
「調子に、乗らないで…!」
「乗ってねーよ。こうして欲しかったなら早く言えよ~」
「違うし!ちょ、どこ触って…」
 クリフは抵抗するように動いてるけど、後ろからじゃ逃げられない。この体勢なら殴られる心配もないし。
 思わず目の前にあった耳にキスをしてみたら、急に大人しくなった。途端に、耳が真っ赤になって、クリフの身体から力が抜ける。
 なんだこいつ……すげえかわいい。
 そういえばクリフ、人に何かお願いしたり、甘えたりするの昔から下手だったんだ。
 ちょっと怖いけど俺が殴られない程度にいろいろと試してやるしかなさそうだ。
「ちょっとロビン、……だ、だめ……」
 ごそごそとクリフの身体を探っていたら、クリフの頭が嫌々と横に振られる。髪が首に当たってくすぐったい。
「なんでだよ、せっかく二人きりなんだからいちゃいちゃさせろよな」
「ば、ばか!僕は寒いって言っただけ……あっ」
 クリフが抗議のために振り返った隙をついて、俺はクリフの身体を寝床に押し倒した。俺より背が低くて体重も軽いクリフは簡単に転がった。両手首を顔の左右で押さえつけて見下ろすと、クリフがかぁっと顔を真っ赤にして目を逸らした。しばらく何も言わずに見つめていたら、消えそうなくらい小さな声で、恥ずかしそうにクリフが言う。
「……逃げないから、手…放してよ……」
 首や耳まで真っ赤にして、クリフがやっとそれだけ言った。俺が手を放してやると、クリフの両腕が、俺の首や肩に伸びてきた。
 俺はそれに応えて、クリフに覆いかぶさるようにして今度は正面から抱きしめる。そして、そのまま誘われるように、唇と唇でキスをした。クリフも嫌がらずに応えてくれた。
 ……知ってたつもりだったけど、クリフは素直になってくれるまで、ここまで時間がかかるのか。
 これは世話のし甲斐があるなあと、クリフに怒られそうなことを考えながら、俺は眠くなるまで、クリフのことをとことん甘やかしてやった。




おわり
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