ロビクリ短編(全年齢)
ひるさがり
行軍中に立ち寄った村で、久しぶりに休暇が与えられた。クリフは宿屋の裏手に丁度いい木陰を見つけて、一人読書に耽っていた。
ソフィア城の書庫から持ち出した本だが、新しい本を手に入れる機会がなかなか無いのでもう何度も読み返している本だ。
風が気持ちよく髪を撫で、ページをめくる紙の音が耳に心地いい。クリフは、つい眠くなってしまいそうになるのを堪えながら、本を読み進めた。昼寝をするには、まだ早いと思った。
しばらくして、葉ずれの音に混ざって誰かの足音が聞こえてきた。
顔を上げると、栗色の瞳が優しくこちらを見下ろしていた。
ロビンだ。どこにいても、ロビンは必ずクリフがいる場所を探し当ててくる。
「ここにいたんだな」
そう言って、ロビンはクリフの隣に腰掛けて、木の幹にもたれた。一人で静かに読書をしていたかったクリフは、肩を竦める。
「ロビン」
「読書の邪魔はしないって」
窘めようとしたら、そう遮られた。ロビンはクリフの隣で、風に揺れる木の枝を眺めながら、背負っていた弓の整備を始めた。
本当に邪魔をする気な無いようなので、クリフは読書を再開する。
ロビンが隣にいることは嫌ではないので、好きにさせてやることにした。
……嫌ではないどころか、実は少し嬉しかった。ロビンが側にいてくれると、不思議と安心感がある。
風と一緒に、ロビンの匂いや体温が感じられて心地いい。
こんなことを、本人に言ってやる気は毛頭もないのだが。
しばらく、クリフがページをめくる音と、ロビンが弓をしならせる音、弦を引っ張る音だけが交互に聞こえていた。クリフはロビンのその手際の良さそうな音を聞きながら、意外と器用なのだなと感心しつつ、目線は本の文字を追う。
そしていつの間にか、ロビンが弓を整備する、その音が止んだ。
「クリフ」
弓の整備は終わったのだろうか。そう思った時、名前を呼ばれた。顔を上げてロビンの方を見ると、思ったよりロビンの顔が近くにあって、そして、それが近づいてきていることに気付いた。
気付いた時には、唇に柔らかなものが触れていた。それがロビンの唇だと気づいた時には既に言葉を奪われていた。少しだけ掛けられた体重をさりげなく支えるような形になりながら、クリフはロビンにキスを返した。
少しの熱をクリフに灯して、触れるだけで離れて行った唇が少し名残惜しい。
思わず閉じていた目を開けると、その名残惜しさを満たすようなロビンの笑顔があった。
クリフはかぁっと頬を染めて、目を逸らす。
「……邪魔しないって言ったくせに」
「こいつの手入れが終わるまで」
悪戯っぽい表情で、ロビンは足元の弓をつま先で軽く蹴る。いつの間にか距離を詰められていて、お互いの肩が触れ合う距離に、ロビンがいた。
「退屈だからさ、構ってくれよ」
まるで子どもみたいなことを言うロビンに、クリフは口元だけで笑った。
本当に、この人の笑顔には邪気を抜かれると思った。
「じゃあ……」
クリフは持っていた本を閉じて膝に置いて、隣にあるロビンの肩に、頭をのせてもたれた。
「昼寝するから、肩かして」
甘えるように額を肩に押し付けてくるクリフに、ロビンは笑う。
「そりゃいい考えだ」
眠るために既に静かになったクリフの柔らかな髪にもたれて、ロビンも目を閉じた。
二人は、お互いの体温を感じながら肩を寄せ合って眠った。
それは戦いの合間に与えられた、二人の穏やかな昼下がりだった。
おわり
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