このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

西へ

「ふぁ、おはよ、一松兄さん。」

バスの車内が明るくなる。
朝だ。大阪についた。

「ん、おはよ、トド松。」

結局あまり眠れた気はしないが、それでもあまり眠気はない。
こりゃ夜へとへとになるパターンだな。
バスがどこかに止まった。
ぞろぞろと他の客が降りていく。
おれたちもそれに続いてバスを降りた。

「んーーー!朝だねぇ、一松兄さん眠れた?」
「んーあんま。つかケツいってぇ。」
「そっか、大丈夫?」
「うん。なんかすごい元気。」
「なにそれ不安〜。」
「ふひ、大丈夫大丈夫。」

口だけ心配してくれているトド松の背中をさすりながら、とりあえず朝ごはんを食べにファーストフード店へ向かう。

「おれ朝のコレ初かも。」
「発売してる時間に外出てご飯食べないもんね、一松兄さん。」
「え、お前はあんの。」
「うん何回か。この間はおそ松兄さんがどうしても食べたいから俺を起こして連れていけーって言われて一緒に行ったよ。」
「おれそのとき居た…?」
「寝てたよぐっすり。」

まじかよ。
こうやっておれは末っ子の人生を見逃していくんだな。
つらい。

「で、何食べる?」

おれが地味に精神的ダメージを受けてることに気付かないトド松はスマホの画面をこちらに向けた。
いつものと似てるような、でもちょっと違うメニューがずらりと並ぶ。
スマホを受け取って、すいすいと他のメニューを見ていると、あの独特な香りと中毒性のある味を思い出して胃がぎゅるりと動いた。

「ふふ、お腹すいたね。」
「…おれこれ。」
「はいはい。席いこ。」

スマホをトド松に返し、店内を見渡す。
もっとスカスカだと思ってたけど、意外と混み合っていた。
なんとか二人向い合せの席を見つける。
ふと横を見るとトド松がいた。
いやそりゃそうなんだけど。
おれはてっきり注文してきてくれるのかと思ってたから、おれが席探し担当で、と勝手に責任を持って席を探していた。

「…注文は?」
「座ったらするよ。」

ここ座ろっか、と実は先におれが見つけていた席に誘導され座る。
どういうことなのだろう。
二人して席に座ったがトド松は一向に立ち上がろうとしない。
スマホをいつまでも弄くり倒している。
本当にどういうことだ。

「トッティ人見知りなの?」
「は?何急に。」
「注文しにいくの恥ずかしい?」
「いやもうしたから。」

なに?
もうした?
一体どういうことなんだ。
半ばパニックで椅子に半分くらいしか腰をかけられていない状態のまま一人おろおろしていると、店員が来た。
飯を持って。

「おまたせいたしましたー。」
「あ、ありがとうございます。」
「…こ、これおれらの?」
「え、うん。なんで?」
「注文、した?」

トド松は怪訝そうな顔をしたがすぐにあ、と何かに気付いたように笑った。

「一松兄さん、タイムスリップしてきた人みたいだよ。今席に座ったままスマホで注文できるんだぁ。」
「は、はえー。」
「さ、食べよ食べよ。」

びっくりした。
技術の進歩というのはそこまで発展していたのか。
感心しながら昼とは違うパンに挟まれたハンバーガーを口に運ぶ。
うんま。
昼のももちろん美味いけど、
これはこれで新鮮で美味しい。

「ふふ、一松兄さんすごい顔キラキラしてる。美味しい?」
「うん。トッティと大阪来て良かった。」
「早いよ!これ地元にもあるし。今度一緒に行こうね、おそ松兄さんと3人で。」
「…うん。」

うーーーん。
二人で行きたい。
どんだけあいつは朝のこれ食べたいんだよ。
前日に長男に睡眠薬盛って起きないようにしてやろうか。
なんつって。
しょうもない我儘ゆえの計画を、口の中のものと一緒に飲み込んだ。
6/10ページ
スキ