西へ
「じゃ、行ってきまーす!」
「行ってきます。」
「はいはい。気をつけてね。」
母さんが見送る中、おれとトド松は玄関を出た。
他の兄さんたちには結局直前にバレて、ぶーぶー言ってたのを、土産を買ってくることを約束に振りほどいてきた。
母さんは、おれたちが旅行のためとはいえ自分で働いてお金を作ったことにより機嫌が良かった。
なので他の兄さんたちのお土産代は母さんから少しいただけたのだった。
「いやーそれにしてもやっぱうるさかったねー。」
「出る直前に言って正解だったね。」
「ほんとほんと。でも母さんからちょっと小遣い貰えたのはラッキーだった!」
「うん。」
特に星も見えない夜道を歩き進める。
途中、飲み物を買うためにコンビニへ寄る。
道中ずっと他愛もない話をし続けた。
「そろそろ着くよ。」
「あ、駅なんだ。」
「うん、駅の横のバス停に来るんだって。」
結構な夜更けなのに駅付近はまあまあの人がいる。
あんまこんな時間に駅まで来ないから知らなかった。
トド松はそんな人たちをうまく避けながら迷うことなくバス停へ向かう。
はあ、やっぱあいつ初めてじゃないんだな。
「ここここ。」
「お前、夜行バス乗ったことあるの?」
「ん?あるよー。一回だけね!」
「どこに何しに行ったの。」
「なに尋問ー?名古屋に観光だよ、行きは日中のバス乗って、帰りは夜行バス乗って帰ってきたの。」
「へぇ…そんな日あったんだ。」
「うん、気づかなかった?」
「不本意ながら。」
なにそれーとトド松が笑う。
いやほんとにいつだ。
おれって結構周り見てないんだな。
少しだけショックを覚えていると、
目の前に大きなバスがつけた。
「あ、これだね。」
トド松は鞄からこの前コンビニで錬成した紙切れを取り出すと、受付らしきスーツのおじさんに手渡した。
「席はFの3,4です。」
「はーい、ありがとうございます!」
「うす。」
狭い通路に気を使いながら、言われた席へ向かう。
「ここだ。一松兄さん窓側と廊下側どっちがいい?」
「うーん。おれトイレ行きたくなるのこわいから廊下側にするわ。」
「おっけーい。」
先にトド松が座席の方へ入る。
続いておれが座席へ入り、座った。
足元は意外と広々しており、フットレストもついている。
腰の部分にはクッションなんかあって、
寝やすい工夫がなされていた。
「寝て起きたら大阪だね。」
「うん。」
乗客が全員乗ったらしい。
車内アナウンスが始まり、車内も一層しんとした。
あまり頭に入ってこない車内アナウンスが終わり、座席を倒す案内が流れる。
「背もたれ倒すの気を使わないでいいの、いいね。」
「そうだよね。夜行バスも色々考えてくれてるんだよ。」
トド松とおれを隔てるカーテンがあったが、それは兄弟だからいいんじゃないと開けておいた。
消灯。
車内が真っ暗になる。
遠足の前日の小学生のような気分だ。
うまく眠れない。
ふと横を見るとトド松はもう目を瞑っていた。
少し丸い鼻に長めのまつ毛。
つんととがる上唇に上向きの口角。
暗闇に慣れた目でゆっくりゆっくりとトド松の横顔をなぞった。
寝顔もあざといな、なんて。
いや、かわいい。
かわいいんだこれ。
ほとんど同じ顔のはずなのに、
少しだけ違う、少しだけの個性が、
おれの脳みその真ん中の真ん中をくすぐっていた。
とりあえず、目を瞑って。
おやすみ、トド松。
「行ってきます。」
「はいはい。気をつけてね。」
母さんが見送る中、おれとトド松は玄関を出た。
他の兄さんたちには結局直前にバレて、ぶーぶー言ってたのを、土産を買ってくることを約束に振りほどいてきた。
母さんは、おれたちが旅行のためとはいえ自分で働いてお金を作ったことにより機嫌が良かった。
なので他の兄さんたちのお土産代は母さんから少しいただけたのだった。
「いやーそれにしてもやっぱうるさかったねー。」
「出る直前に言って正解だったね。」
「ほんとほんと。でも母さんからちょっと小遣い貰えたのはラッキーだった!」
「うん。」
特に星も見えない夜道を歩き進める。
途中、飲み物を買うためにコンビニへ寄る。
道中ずっと他愛もない話をし続けた。
「そろそろ着くよ。」
「あ、駅なんだ。」
「うん、駅の横のバス停に来るんだって。」
結構な夜更けなのに駅付近はまあまあの人がいる。
あんまこんな時間に駅まで来ないから知らなかった。
トド松はそんな人たちをうまく避けながら迷うことなくバス停へ向かう。
はあ、やっぱあいつ初めてじゃないんだな。
「ここここ。」
「お前、夜行バス乗ったことあるの?」
「ん?あるよー。一回だけね!」
「どこに何しに行ったの。」
「なに尋問ー?名古屋に観光だよ、行きは日中のバス乗って、帰りは夜行バス乗って帰ってきたの。」
「へぇ…そんな日あったんだ。」
「うん、気づかなかった?」
「不本意ながら。」
なにそれーとトド松が笑う。
いやほんとにいつだ。
おれって結構周り見てないんだな。
少しだけショックを覚えていると、
目の前に大きなバスがつけた。
「あ、これだね。」
トド松は鞄からこの前コンビニで錬成した紙切れを取り出すと、受付らしきスーツのおじさんに手渡した。
「席はFの3,4です。」
「はーい、ありがとうございます!」
「うす。」
狭い通路に気を使いながら、言われた席へ向かう。
「ここだ。一松兄さん窓側と廊下側どっちがいい?」
「うーん。おれトイレ行きたくなるのこわいから廊下側にするわ。」
「おっけーい。」
先にトド松が座席の方へ入る。
続いておれが座席へ入り、座った。
足元は意外と広々しており、フットレストもついている。
腰の部分にはクッションなんかあって、
寝やすい工夫がなされていた。
「寝て起きたら大阪だね。」
「うん。」
乗客が全員乗ったらしい。
車内アナウンスが始まり、車内も一層しんとした。
あまり頭に入ってこない車内アナウンスが終わり、座席を倒す案内が流れる。
「背もたれ倒すの気を使わないでいいの、いいね。」
「そうだよね。夜行バスも色々考えてくれてるんだよ。」
トド松とおれを隔てるカーテンがあったが、それは兄弟だからいいんじゃないと開けておいた。
消灯。
車内が真っ暗になる。
遠足の前日の小学生のような気分だ。
うまく眠れない。
ふと横を見るとトド松はもう目を瞑っていた。
少し丸い鼻に長めのまつ毛。
つんととがる上唇に上向きの口角。
暗闇に慣れた目でゆっくりゆっくりとトド松の横顔をなぞった。
寝顔もあざといな、なんて。
いや、かわいい。
かわいいんだこれ。
ほとんど同じ顔のはずなのに、
少しだけ違う、少しだけの個性が、
おれの脳みその真ん中の真ん中をくすぐっていた。
とりあえず、目を瞑って。
おやすみ、トド松。