このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

西へ

「いーちまーつにーいさんっ」

おれが居間で遠くを見つめていると、ぴょこりと入口のふすまの隙間からトド松が顔を出した。
ん、と返事をするとトド松はおれの横に正座した。

「大阪の話。色々決めたから聞いて!」
「あぁ、ありがとう。」
「まずね、大阪に行く日はこの日!ちょっと疲れちゃうかもだけど夜行バスで行って夜行バスで帰ってこよう。どうせボクたちニートだから帰ってきた日はゆーっくりすればいいし。」
「うん、だね。」
「この日ね!あのポッドキャストの芸人さん、18時からこことー、20時からここで見れるんだって。だからこの2つ、チケット取るね!」
「おぉ、すごい。1日に2回も見れるんだ。」
「そう!すごいよねー大阪!で、バイトの話だけど、明後日から5日間で時給1000円5時間のとこがあって。」
「ほぅ。」
「イベント系なんだけど、一松兄さんは看板持ちのバイトとかならできるかな?」
「あーあの、交差点とかでずーっと座ってるやつ?できんじゃない?わかんないけど。」
「そうそう。ボクは同じ管轄のイベントスタッフの方応募するね。」
「おっけー。」
「時間は13時から18時の5時間ね!これで5日間全うできたら1人2万5千円だよ〜!」
「なるほど。結構カツカツ?」
「ううん!チケット代と夜行バス代抜いても1人一万円以上は残るからちょっとした観光もできるねぇ!ふふ!」
「完璧じゃん。天才かよトッティ。」
「まあね〜!じゃ、ボクこれからでかけるから。」
「あ、そ。いってらっしゃい。」
「行ってきまーす。」

がらがら、ぴしゃり。
家中がしん、と静まり返る。
上に誰もいないのか。ま、どうでもいいけど。
そのままおれは机の上に突っ伏し、さっきのトド松のマシンガンのような話を咀嚼することにした。
えっと。
とりあえず目先の目標はバイト5日間。
トド松と同じ場所だけど役割が違う、のか。
ということはついていけば大丈夫だな。
何が目標かわからない労働より、ハッキリとした目的がある労働は少しだけやる気が出る。
やる気を出してどうという仕事内容じゃなさそうだけど、とりあえずバイトへ行こうという気になっている。
で、お金が貯まったら、大阪。
夜行バス、乗ったことがない。
結構疲れるのだろうか。
てかアイツは乗ったことあるの?
ありそうだったよね?
え、いつ?
ドライモンスターこわい。

…まあ、今心の中は戒めたほうがいいじゃないかってくらい浮足立ってるんだけど。
夜行バスで行って帰ってくるとなると、泊まりは無しか。
二人で泊まってみたかったな、なんて。
でもなんか変に気張って空回りしそうだし、おれ。
それに多分お金の面でキツくなるし。
いいや。ふふ、楽しみだな。
また何故か勝手に上がる口角が恥ずかしくなって、
机の上に顔面を押し付けたのだった。
2/10ページ
スキ