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西へ

「兄さんバスこわかったの?」

朝、手は解けていた。
寂しくて繋ぎなおそうか考えたが、妙に明るくなった車内では恥ずかしくて辞めた。

「いやこわくないけど。」
「えっじゃあボクこわくもない人の手握ってあげてたの?意味分かんない〜こわい〜。」
「ふひひ、安心してよーく眠れました。」
「んもう、よかったね。」

行きとは違う、明るい帰路。
お互いに疲れた顔を見合わせながら、ああ現実に戻ってしまう、などと嘆き歩いた。

「はぁー、シャワーして即ゴロゴロしよーっと。」
「一緒に入る?」
「入んないよっ。待ってて!ボクが先!」
「えー。」

まあまあ、乱入するとしよう。
おれもはやくシャワー浴びたいし。
はやく寝転んでゴロゴロしたいし。
目と鼻の先に家がある。
もうすぐだ。
目の端にヒラヒラとトド松の手のひらがチラついた。
腕を伸ばす。
手をのばす。
指を伸ばす。

「ん?」

ギリギリ触れただけの指。
振り向くトド松。
元通りの位置に戻ったおれの手。

「ううん。」

家の玄関が見えた。
ああ、眠い。
眠いなあ。
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