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西へ

「あ、トッティ。」

居間を覗くとトド松が机にもたれかかりながらスマホをイジってるのが見えた。
ふと用事があったのを思い出し、トド松の半分上の空の返事のあと話を続けた。

「あのポッドキャスト、今日更新だから今夜聞かせて。」
「んー…あぁ、アレかぁ、今聞く?しばらく誰も帰ってこないでしょ。」
「そっか、そうだね。聞こう。」
「ほーい。」

器用に手元を操作し、トド松のスマホからは成人男性二人の自己紹介が流れ出す。
この間からトド松と一緒に一週間に一度、
とあるポッドキャストを聞くのが習慣になっている。
夜な夜な収録しているおれのラジオに何度目かのゲスト出演をしてくれた際、このラジオおもしろいよ、と勧めてくれたのが始まりだった。

「ひゃー、今週もめちゃくちゃおもしろかったねー!収録前にうんこ漏らすとかヤバすぎない?兄さんもノーパンで収録しなよ、面白いかもよ〜!」
「今度やるわ。」
「うっわー楽しみー!あはは」

こうやって、二人でラジオを聞いて感想を言い合う時間が実はとても好きだった。
なんとなく笑いの趣味も合うし、聞いてたラジオの延長線のようなくだらないノリだって楽しい。

「この前さ、このポッドキャストの芸人さんがテレビでネタしててね、それもすっごく面白くて!おそ松兄さんとかにこの芸人さんのラジオ聞いてるんだよって自慢しちゃった。」
「あーわかるわ。自分だけが知ってたら言っちゃうよねそういうの。」
「でしょ。あー1回、生で見てみたいねぇお笑いとか。」
「…いいねそれ。大阪とか行っちゃう?」
「えっ…一松兄さんがそんなこと言うなんて…」
「ち、ちがった?」
「ちがくない!!行こう〜!!行きたあい!!」

トド松はおれの発言ですごくワクワクしてくれた。
わーい、と言いながら両手を突き上げてゆらゆらしたりして。
なんだか嬉しくなって口角があがる。
それが少し恥ずかしくなって三角座りした膝に顎を埋めた。

「そうと決まればお金貯めないと!一松兄さんバイトできる?大阪のために!」
「う、うん。がんばる。」
「じゃあボクいい感じのバイト探すね!うわ〜ほんと楽しみ〜!」

スマホを上をクルクルと指が駆ける。
おれには何もできることはないのでぼーっとその指を見つめていると、ふいに手が止まった。

「一松兄さん。」
「ん。」
「他の兄さんたちはどうする?」
「あぁ…置いといていいんじゃない、二人で行こう。」
「よかったー!だよねー!」

また指は忙しなく駆け出した。
ぼーっとしてる最中におれも少し思ったのだ。
普段なら他の兄弟、どころか6人全員で結局行くことになったりして。
各々二人で出掛けることはあるけれど、こんな遠出ではなおさら他の奴らもついてきたがるだろう。
なんとなく、なんとなーーーーく、今回は二人だけで行きたいな、なんて思っていた。
二人で面白いと思えるものを見て、それについて話して。
ときには全然関係ないことも話したりして。
美味しいものとかも食べれんのかな。
バイトか。がんばろう。
トド松の真剣な横顔を見つめながら、またぼーっとすることにした。
ぼーっとしてるとやってくるのは眠気。
誰かが帰ってきた声と扉の開く音で自分が眠りこけていたことに気づいたのだった。
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