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もしもね、

もしも大量の、
例えば一千万円とかのお金が手に入ったらどうする?
なんて妄想を暇つぶしのために幾度もした何度目かのある日。
たまたま部屋にいたおそ松兄さんに問いかけてみた。

「んー、トド松と二人で暮らそうかなあ。」

あまりにも不可解でらしくない回答にボクは耳を疑った。
変なからかい方をするなと咎めると、
からかってなんかないと真剣に答えられ怯んだ。

「…なんでボク?てか6人みんなで暮らそうよ。」
「一番上と一番下が他の4人の帰る場所守ってやんだよ、どう?」
「うーん。」

なんと答えるべきか迷ってると、
おそ松兄さんはへへんと笑いながら床に転がった。
おそ松兄さんとふたり暮らし。
あんまり想像もつかないけど、なんとなく、
ほんの少しだけ楽しそうだなと思ったのだった。
いつもはみんなの兄さんだけど、
そうなったら独り占めできるのかな、なんて。
気持ちよさそうに五体投地しているおそ松兄さんを見ていると、
前向きに検討したくなったりもして、
そういえばもしもの話だったことを思い出し、ふふ、と笑いが漏れた。
その笑い声につられたか、
おそ松兄さんはゴロリと体を転がし、こちらを向いた。

「あいつら4人が独り立ちしたらさー、残るは俺らだけになるじゃん?」
「えー、ボクも独り立ちするよそのときは。」
「できないしさせなーい。」
「なんで!」
「ずぅーーーっと、俺と一緒にニートすんだよ。ま、一千万あったらの話だけどな!」

わはは、と笑いながらまた、
手をほっぽりだして仰向けに戻る。
そう、これはあくまでももしもの話。
一千万なんてないし、4人が独り立ちすることもしばらくないんだろう。
ボクはゆっくり床に転がり、うつ伏せになった。
顔だけをおそ松兄さんの耳へ向ける。

「はやく弟離れしなよー?」
「お前こそ兄離れしないとな?」

顔だけこちらを向けたおそ松兄さんと目が合う。
途端少し照れくさくなって、
おそ松兄さんの投げ出された腕に頭を沿わせて、転がりながら近づいた。
変な照れ隠しな上に、
余計近くなった顔が恥ずかしくて笑ってしまった。

「おもた。」

おそ松兄さんは柔らかな悪態をつきながら、
腕の上のボクを包むように反対側の腕をボクの背中に回した。
とんとん、と背中をあやされる。
そのままおでことおでこをこつんと合わされる。
おそ松兄さんは目を伏せながら聞いてきた。

「じゃあもしもさ、生まれ変わったら何になる?」
「んー。」

生まれ変わっても兄さんたちの弟でいたい。
ニートじゃなくていいし、
童貞はもう勘弁だけど、
兄さんたちの弟。
6人そろって兄弟がいい。
なんて恥ずかしくて言えないでいると、
おそ松兄さんが目を伏せたままボクの背中に回した手を少しだけ引き寄せた。

「俺はね、他人がいい。兄弟なんかもうごめんだよ。特にお前な。」
「なにそれ、ひどくない?」
「へへ、だってさぁ、」

ちょっとひどいことを言うおそ松兄さんの顔を睨みつけていたものだから、
目を開けてこちらへきょろっと動いた黒目とバッチリ目が合ってしまった。

「これ以上はないじゃん。」

目を見合ったまま言うものだから、
妙に真剣味が増して茶化すことができなかった。
これ以上、の真意を探るべく小さく口の中で反芻する。
まあ真意なんて安易に想像したままのそれで、
上手く応えられないボクの時間稼ぎでしかないのだけれど。

「これ以上ねぇ。」
「なに?あるの?」

くす、とおそ松兄さんの口角が片方だけ上がる。
期待と諦めが入り混じった、変な顔。

「なんのことか分かんないけど、兄弟だからこそ、ここまであるんじゃない?」
「なるほど、どうだろうねぇ。」

はぐらかすようにおそ松兄さんは、今度は上を向き、
またボクを背中から引き寄せようとした。
力が弱くてやきもきする。
こんな風に抱き合ってるみたいなのも、
至近距離で見つめ合って話しているのも、
兄弟だからしてるんだよ。
だからキスもしない。
その先なんてあり得ない。
嘘、ほんとは兄弟だからって寝転んで抱き合って見つめ合ってなんかしないって、知ってるけど。
ボクが近づいたとき本当なら、普通の兄弟なら、突き飛ばすんだろうなって、知ってるけど。
結局長男のペースに巻き込まれてることを改めて思い直し、ボクはちょっと意地悪を言うことにした。

「ボクは生まれ変わっても兄さんの弟がいいな。」

生まれ変わっても恋人になんかなってやんない。
だってボクはこれがいいから。
これ以上もこれ以下もない、今の現状が心地いいから。
「仲の良い兄弟」でギリギリごまかせるラインで、
ボクはおそ松兄さんと話していたい。
頭上で不満げな声が聞こえた。
うるさいのでボクは強く引き寄せられたフリをして、
おそ松兄さんの胸に顔を埋めたのだった。
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