うちの末弟、また勝手にこんなことしてました。
にゃーちゃんが少しの間ライブをお休みするとのことで、
それに合わせてトト子ちゃんも休むらしく、
完全に時間とお金を持て余し始めた僕は前々から気になっていたとあるコンセプトカフェへ出向くことにした。
出かける直前、
部屋には一松が居たため一応声をかけた。
「いや興味無いんで」
「大体お前と出かけるとかなんか気遣うわ」
とかなんとか言ってたのだが、
気付けば少し後ろをいつもの猫背でついてきていた。
「いや実はさ、ちょっと遠いんだけど。前に行ったことあるコンカフェの系列店らしくてさー。でも初めての店に一人で行くのまあまあ恥ずかしいからさ、ついてきてくれて助かったよ。」
「うるさ。」
「はあ?」
沈黙も変な感じなので主に僕がベラベラと話しながらついたコンセプトカフェは、
「SIREne」というお店だった。
「しれね…って読むのかな。」
「ね、どういう意味だろ。」
外装は割と古風で、
あまりキラキラとはしていないゴシックな感じだった。
店前には「祝 開店」の花と、
黒板の看板に書かれたメニュー表が置いてあった。
「ふーん、1時間1500円か。」
「高くない?猫ならタダだよ。」
「安いほうだと思うよ。てか猫も同じでしょ、猫カフェとか。」
「あー。…ちょっと待って、」
急に顔が強張る一松。
「なに?」
「こ、これ…」
メニュー表の上にデカデカと書かれた、
「女装男子」の文字。
一松は絶句していたが僕は知っていた。
前々から、こういうの気になってたんだよね。
「知ってるよ。」
「まじか。」
「じゃ、入ろうか。」
「まじか…」
ブツブツと何かを唱えながら、
それでも店の中へ入る僕についてくる一松。
確実にさっきよりかは足取りが重いが。
店内に入ると、
長めのスカートを履いたメイドさんが迎えてくれた。
萌えに全振りしておらず、
由緒正しきな感じが逆にそそる。
「おかえりなさいませ、ご主人さま。」
いつもこういうところで聞くよりかは低めの声で挨拶をされた。
「お、おとこだ…」
「おい、失礼だろ。」
小さい声で言い争っていると、
あれよあれよという間に席に案内された。
アンティーク調のソファに机、
雰囲気がとても良い。
そしてメイドさんたちもニコニコしていて、
とても可愛い。
骨格や仕草など、ところどころに男ぽさも見え隠れするがそれがまた良い。
「いいね、かわいいね。」
「いやめっちゃ男じゃん。男にかわいいとかないわー。」
また失礼なことを言う一松をたしなめ、
コーヒーを2つ頼み、待つ。
すんなり入れたので気にはしていなかったが、
店内は8割程度埋まっているようだった。
「お待たせしました〜。コーヒーです!」
さっき案内をしてくれたメイドさんとは違うメイドさんがコーヒーを持ってきてくれた。
2つくくりをしており、可愛らしい系だ。
満面の笑みに思わずこちらも頬が綻ぶ。
「瑠璃と言います♡」
「瑠璃ちゃーん!」
「すげぇなお前…」
「ふふ、今日はご主人さまたちの弟がご奉仕しているのでご帰宅されたんですかぁ?」
「「え?」」
時間が止まる。
さっき緩んだ頬が一気に硬直した。
どういう意味か分からない。
そもそも僕たちが兄弟ってバレるのも分からない。
いや顔が同じだからバレたのか?
うん?
「あ、アレ。」
止まった時を一松が進めた。
瑠璃ちゃんの後ろの奥の方でこちらを見てカタカタしているメイドさんがいた。
黒髪ボブでヘッドドレスをつけている。
が、顔をよく見たら見覚えのある顔をしている。
「内緒でご帰宅だったですか!?ごめんなさい〜!」
「いや僕らが内緒っていうか。」
「あいつが内緒っていうか。」
瑠璃ちゃんは首を傾げる。
その後ろには黒髪ボブメイド、
もといトド松が顔面蒼白で立っていた。
「瑠璃ちゃん、なんで知ってるの…?」
「さっきウサギちゃんが言ってたの聞いちゃったぁ。」
「あぁ…それは仕方ないね…。」
「トッティのことなんて?うさぎ?」
「ヘッドドレス派手じゃない?顔に自信ないから?」
「チッ。とりあえず瑠璃ちゃん、担当変わろ。ボク今どこもついてないから。」
「えーん、瑠璃も担当無くなっちゃうぅ。」
トド松に引きずられながら、
瑠璃ちゃんは店の奥へ消えた。
「やばいね。」
「いいもん見たね。」
二人ともおもしろいおもちゃを手に入れたことによるニヤつきが顔に張り付いたまま、
ずずずとコーヒーを飲み干した。
するとタイミングを見計らったかのように、
メイドさん、もといトド松が帰ってきた。
顔は完全に接客モードだった。
「ご主人さま、お飲み物どうされますか?」
「いやよく普通に接客できるね!?…僕これ。」
「じゃあココアで。」
「かしこまりましたぁ!」
いつもよりかなり高めで鼻にかけた声で、
元気よく返事をするトド松。
ぱたぱたとキッチンの方へ駆けていく。
いやなんでだよ。
どういう精神状態なんだよ?
女装カフェでアルバイトしているところを実の兄に、
しかも同時に二人にも見られて、
客として来てるのにあんなに普通にできる?
僕だったら死ぬ。
「ていうか普通に馴染んでるのが腹立つ。」
「わかる。」
一松も思った以上に平静を装われたことにムカついているのか、
少しムッとしていた。
「一番ブスとかじゃないし。」
「もはや一番可愛いまである。」
「いやそれはない。」
弟を捕まえて可愛いだのなんだの、
僕らのこれはなんの時間なんだ。
不毛すぎる会話の中、
トド松はドリンクを持って帰ってきた。
「ご主人さま、お待たせしました!抹茶ソーダと、ココアです。」
「さんきゅ。」
「お前も普通にお礼言ってんの変じゃない?トド松、なんか言うことないの?」
「ウサギと申します。」
「…ウサギちゃん。」
「はい!ご主人さま。」
輝くくらいニコニコしている。
僕らの知らない顔を僕らに見せていることが、
尻の付け根あたりがむずむずするような感じで居心地悪かった。
「え、今どんな気持ちなの?てか僕らもどういう状況?金払って弟に接客してもらってんの?」
「おとうと…?なんのことでしょうかご主人さま…?」
「瑠璃ちゃんは?」
「申し訳ございませんご主人さま、瑠璃は少し体調を崩しまして。代わりにこの私めが精一杯ご奉仕しますので!」
「ウサギちゃんドリンク飲む?」
「え!いいんですかご主人さま!わたしいちごソーダがいいです!」
「いいよ。こいつの金だし。」
「アッおいてめぇ。」
トド松はいちごソーダいただきますねっ、とまた奥へ消えた。
振り返る瞬間にスカートがふわりと空気を妊み広がる。
「ねぇどういうつもり?あいつにドリンクとかあげて。」
「なんかドリンクあげると飲み終わるまで席に居てくれるぽい。てかトッティ、仕事全うしようとしてるよね。」
「うん…プロだな。これはトド松を追求するというよりウサギちゃんから色々聞き出したほうが良さそうだな。」
「確かに。」
いちごソーダを抱えて戻ってきたトド松は、
また最大級の笑顔で、
少し首もかしげて、
ありがとうございます!と述べた。
僕らはさっきの作戦を始めることにした。
「ウサギちゃんはここでお給仕してどれくらいなの?」
「えーっとですね、ここがオープンしてからなのでもうすぐ1か月になります。」
「オープンキャストなんだね。」
「頭のやつ似合ってんね、自分で選んだの?」
「わ、ありがとうございますぅ!好きなんですヘッドドレス。」
「好きなんだ…。」
「好きになる機会があったんだろうか…。」
「なんでお給仕始めたの?」
「ふふ、ご主人様とお会いするためですよ。」
「ビジネスぅ〜!」
トド松は言葉の合間合間で器用にいちごソーダを口に含む。
もうあと半分くらいになっていた。
「どれくらいの頻度で出勤してんの?」
「お給仕はですね、不定期なんです。ツイッターでお給仕の日告知してるので良かったら見てくださいね!」
「こいつ、僕らスマホ持ってないの知ってるくせに。」
「まあウサギちゃんだからね。おれらのことなんて知らないから。」
この後もダラダラと、トド松、もといウサギちゃんと他愛の無い話をしていたらいちごソーダは空になっていた。
作戦はなかなかうまく行かなかった。
絶妙に、所謂トド松の事情に触れられないまま、
抹茶ソーダもココアも空になっていた。
すかさずドリンクを聞かれる。
「おれいちごソーダ。ウサギちゃんと同じやつ〜。」
「ぁ?…じゃあ僕これ。」
「いちごソーダとキウイメロンジュースですね!お待ちください〜。」
器用にグラスを3つ持ち、
ウサギちゃんはまた奥へ消えた。
時間的にもラストドリンクだ。
弟に払う2時間目の金はない。
「てかお前、ちょっとウサギちゃん気に入ってない?」
「そんなことないよ。まあ女の子だと緊張するけど男だし気楽にいけるよね。しかも弟だし。」
「まあそうだね。他のコがついてたらその子のこと気に入ってただろうしね。」
「そゆこと。」
「だったら弟ってめっちゃ損じゃない?」
「お前の金だからおれは別に。」
へらへらしている一松を尻目にため息をついた。
またウサギちゃんがドリンクを持って帰ってきた。
「お待たせしました、いちごソーダとキウイメロンジュースです!」
「ありがとう。」
「では私は少し別のお仕事をしてまいりますので、また何かあったらそこのベルでお呼びくださいね!」
「はーい。」
ドリンクを入れないとそんなすぐどっか行くんだ、
と少し寂しくなった。
二人して頬杖をついて、
ウサギちゃんの行く末を見守る。
「弟なんだからもうちょっといてくれてもいいのにね。」
「いや弟にいられてもでしょ。」
「…そうか。」
「…チェキ撮る?」
「…撮ろう。」
リンゴーン
ベルを押すと思いの外厳かな音が店内に響いた。
すぐにウサギちゃんが飛んできた。
「はい、ご主人さま、どうされました?」
「チェキ撮ろ。」
「ギ、わーい!嬉しいですぅ。」
言葉の頭にノイズが混じったのを聞き逃さなかった。
チェキは形に残る。
持って帰られて、他に兄に見せびらかされることまで考えたのだろう。
ただ今はトド松ではなくウサギちゃんである。
ご奉仕をやり遂げなければならない。
その決意がヒシヒシと伝わってきた。
「どんな感じで撮りましょう?」
「ウサギちゃん真ん中で二人で挟もうか。」
「いいじゃん。」
二人でウサギちゃんを真ん中に迎えた。
「ハートしよハート。」
「慣れてますねぇ兄さん。」
かしこまりました、とウサギちゃんは、
手をクロスさせハートの片割れを2つ作った。
僕と一松はそれに合わせてハートを完成させた。
パシャリ。
証拠が撮られた。
滞りなくチェキが渡される。
まだ写真の画は出てきていない。
「ありがとうございます!大事にしてくださいね。」
席に戻ると、良い時間になってたのでお会計をお願いした。
これも特に問題なく進む。
残ったドリンクを飲み干すと、店を出た。
「はあ。」
「ちょっと疲れたね。」
「でもトド松が帰ってくんの楽しみじゃない?」
「…かなりね。」
画が出てきたチェキを見ながら帰路を歩く。
僕らもちょっと嬉しそうな顔をしているし、
トド松はちょっと可愛かった。
それに合わせてトト子ちゃんも休むらしく、
完全に時間とお金を持て余し始めた僕は前々から気になっていたとあるコンセプトカフェへ出向くことにした。
出かける直前、
部屋には一松が居たため一応声をかけた。
「いや興味無いんで」
「大体お前と出かけるとかなんか気遣うわ」
とかなんとか言ってたのだが、
気付けば少し後ろをいつもの猫背でついてきていた。
「いや実はさ、ちょっと遠いんだけど。前に行ったことあるコンカフェの系列店らしくてさー。でも初めての店に一人で行くのまあまあ恥ずかしいからさ、ついてきてくれて助かったよ。」
「うるさ。」
「はあ?」
沈黙も変な感じなので主に僕がベラベラと話しながらついたコンセプトカフェは、
「SIREne」というお店だった。
「しれね…って読むのかな。」
「ね、どういう意味だろ。」
外装は割と古風で、
あまりキラキラとはしていないゴシックな感じだった。
店前には「祝 開店」の花と、
黒板の看板に書かれたメニュー表が置いてあった。
「ふーん、1時間1500円か。」
「高くない?猫ならタダだよ。」
「安いほうだと思うよ。てか猫も同じでしょ、猫カフェとか。」
「あー。…ちょっと待って、」
急に顔が強張る一松。
「なに?」
「こ、これ…」
メニュー表の上にデカデカと書かれた、
「女装男子」の文字。
一松は絶句していたが僕は知っていた。
前々から、こういうの気になってたんだよね。
「知ってるよ。」
「まじか。」
「じゃ、入ろうか。」
「まじか…」
ブツブツと何かを唱えながら、
それでも店の中へ入る僕についてくる一松。
確実にさっきよりかは足取りが重いが。
店内に入ると、
長めのスカートを履いたメイドさんが迎えてくれた。
萌えに全振りしておらず、
由緒正しきな感じが逆にそそる。
「おかえりなさいませ、ご主人さま。」
いつもこういうところで聞くよりかは低めの声で挨拶をされた。
「お、おとこだ…」
「おい、失礼だろ。」
小さい声で言い争っていると、
あれよあれよという間に席に案内された。
アンティーク調のソファに机、
雰囲気がとても良い。
そしてメイドさんたちもニコニコしていて、
とても可愛い。
骨格や仕草など、ところどころに男ぽさも見え隠れするがそれがまた良い。
「いいね、かわいいね。」
「いやめっちゃ男じゃん。男にかわいいとかないわー。」
また失礼なことを言う一松をたしなめ、
コーヒーを2つ頼み、待つ。
すんなり入れたので気にはしていなかったが、
店内は8割程度埋まっているようだった。
「お待たせしました〜。コーヒーです!」
さっき案内をしてくれたメイドさんとは違うメイドさんがコーヒーを持ってきてくれた。
2つくくりをしており、可愛らしい系だ。
満面の笑みに思わずこちらも頬が綻ぶ。
「瑠璃と言います♡」
「瑠璃ちゃーん!」
「すげぇなお前…」
「ふふ、今日はご主人さまたちの弟がご奉仕しているのでご帰宅されたんですかぁ?」
「「え?」」
時間が止まる。
さっき緩んだ頬が一気に硬直した。
どういう意味か分からない。
そもそも僕たちが兄弟ってバレるのも分からない。
いや顔が同じだからバレたのか?
うん?
「あ、アレ。」
止まった時を一松が進めた。
瑠璃ちゃんの後ろの奥の方でこちらを見てカタカタしているメイドさんがいた。
黒髪ボブでヘッドドレスをつけている。
が、顔をよく見たら見覚えのある顔をしている。
「内緒でご帰宅だったですか!?ごめんなさい〜!」
「いや僕らが内緒っていうか。」
「あいつが内緒っていうか。」
瑠璃ちゃんは首を傾げる。
その後ろには黒髪ボブメイド、
もといトド松が顔面蒼白で立っていた。
「瑠璃ちゃん、なんで知ってるの…?」
「さっきウサギちゃんが言ってたの聞いちゃったぁ。」
「あぁ…それは仕方ないね…。」
「トッティのことなんて?うさぎ?」
「ヘッドドレス派手じゃない?顔に自信ないから?」
「チッ。とりあえず瑠璃ちゃん、担当変わろ。ボク今どこもついてないから。」
「えーん、瑠璃も担当無くなっちゃうぅ。」
トド松に引きずられながら、
瑠璃ちゃんは店の奥へ消えた。
「やばいね。」
「いいもん見たね。」
二人ともおもしろいおもちゃを手に入れたことによるニヤつきが顔に張り付いたまま、
ずずずとコーヒーを飲み干した。
するとタイミングを見計らったかのように、
メイドさん、もといトド松が帰ってきた。
顔は完全に接客モードだった。
「ご主人さま、お飲み物どうされますか?」
「いやよく普通に接客できるね!?…僕これ。」
「じゃあココアで。」
「かしこまりましたぁ!」
いつもよりかなり高めで鼻にかけた声で、
元気よく返事をするトド松。
ぱたぱたとキッチンの方へ駆けていく。
いやなんでだよ。
どういう精神状態なんだよ?
女装カフェでアルバイトしているところを実の兄に、
しかも同時に二人にも見られて、
客として来てるのにあんなに普通にできる?
僕だったら死ぬ。
「ていうか普通に馴染んでるのが腹立つ。」
「わかる。」
一松も思った以上に平静を装われたことにムカついているのか、
少しムッとしていた。
「一番ブスとかじゃないし。」
「もはや一番可愛いまである。」
「いやそれはない。」
弟を捕まえて可愛いだのなんだの、
僕らのこれはなんの時間なんだ。
不毛すぎる会話の中、
トド松はドリンクを持って帰ってきた。
「ご主人さま、お待たせしました!抹茶ソーダと、ココアです。」
「さんきゅ。」
「お前も普通にお礼言ってんの変じゃない?トド松、なんか言うことないの?」
「ウサギと申します。」
「…ウサギちゃん。」
「はい!ご主人さま。」
輝くくらいニコニコしている。
僕らの知らない顔を僕らに見せていることが、
尻の付け根あたりがむずむずするような感じで居心地悪かった。
「え、今どんな気持ちなの?てか僕らもどういう状況?金払って弟に接客してもらってんの?」
「おとうと…?なんのことでしょうかご主人さま…?」
「瑠璃ちゃんは?」
「申し訳ございませんご主人さま、瑠璃は少し体調を崩しまして。代わりにこの私めが精一杯ご奉仕しますので!」
「ウサギちゃんドリンク飲む?」
「え!いいんですかご主人さま!わたしいちごソーダがいいです!」
「いいよ。こいつの金だし。」
「アッおいてめぇ。」
トド松はいちごソーダいただきますねっ、とまた奥へ消えた。
振り返る瞬間にスカートがふわりと空気を妊み広がる。
「ねぇどういうつもり?あいつにドリンクとかあげて。」
「なんかドリンクあげると飲み終わるまで席に居てくれるぽい。てかトッティ、仕事全うしようとしてるよね。」
「うん…プロだな。これはトド松を追求するというよりウサギちゃんから色々聞き出したほうが良さそうだな。」
「確かに。」
いちごソーダを抱えて戻ってきたトド松は、
また最大級の笑顔で、
少し首もかしげて、
ありがとうございます!と述べた。
僕らはさっきの作戦を始めることにした。
「ウサギちゃんはここでお給仕してどれくらいなの?」
「えーっとですね、ここがオープンしてからなのでもうすぐ1か月になります。」
「オープンキャストなんだね。」
「頭のやつ似合ってんね、自分で選んだの?」
「わ、ありがとうございますぅ!好きなんですヘッドドレス。」
「好きなんだ…。」
「好きになる機会があったんだろうか…。」
「なんでお給仕始めたの?」
「ふふ、ご主人様とお会いするためですよ。」
「ビジネスぅ〜!」
トド松は言葉の合間合間で器用にいちごソーダを口に含む。
もうあと半分くらいになっていた。
「どれくらいの頻度で出勤してんの?」
「お給仕はですね、不定期なんです。ツイッターでお給仕の日告知してるので良かったら見てくださいね!」
「こいつ、僕らスマホ持ってないの知ってるくせに。」
「まあウサギちゃんだからね。おれらのことなんて知らないから。」
この後もダラダラと、トド松、もといウサギちゃんと他愛の無い話をしていたらいちごソーダは空になっていた。
作戦はなかなかうまく行かなかった。
絶妙に、所謂トド松の事情に触れられないまま、
抹茶ソーダもココアも空になっていた。
すかさずドリンクを聞かれる。
「おれいちごソーダ。ウサギちゃんと同じやつ〜。」
「ぁ?…じゃあ僕これ。」
「いちごソーダとキウイメロンジュースですね!お待ちください〜。」
器用にグラスを3つ持ち、
ウサギちゃんはまた奥へ消えた。
時間的にもラストドリンクだ。
弟に払う2時間目の金はない。
「てかお前、ちょっとウサギちゃん気に入ってない?」
「そんなことないよ。まあ女の子だと緊張するけど男だし気楽にいけるよね。しかも弟だし。」
「まあそうだね。他のコがついてたらその子のこと気に入ってただろうしね。」
「そゆこと。」
「だったら弟ってめっちゃ損じゃない?」
「お前の金だからおれは別に。」
へらへらしている一松を尻目にため息をついた。
またウサギちゃんがドリンクを持って帰ってきた。
「お待たせしました、いちごソーダとキウイメロンジュースです!」
「ありがとう。」
「では私は少し別のお仕事をしてまいりますので、また何かあったらそこのベルでお呼びくださいね!」
「はーい。」
ドリンクを入れないとそんなすぐどっか行くんだ、
と少し寂しくなった。
二人して頬杖をついて、
ウサギちゃんの行く末を見守る。
「弟なんだからもうちょっといてくれてもいいのにね。」
「いや弟にいられてもでしょ。」
「…そうか。」
「…チェキ撮る?」
「…撮ろう。」
リンゴーン
ベルを押すと思いの外厳かな音が店内に響いた。
すぐにウサギちゃんが飛んできた。
「はい、ご主人さま、どうされました?」
「チェキ撮ろ。」
「ギ、わーい!嬉しいですぅ。」
言葉の頭にノイズが混じったのを聞き逃さなかった。
チェキは形に残る。
持って帰られて、他に兄に見せびらかされることまで考えたのだろう。
ただ今はトド松ではなくウサギちゃんである。
ご奉仕をやり遂げなければならない。
その決意がヒシヒシと伝わってきた。
「どんな感じで撮りましょう?」
「ウサギちゃん真ん中で二人で挟もうか。」
「いいじゃん。」
二人でウサギちゃんを真ん中に迎えた。
「ハートしよハート。」
「慣れてますねぇ兄さん。」
かしこまりました、とウサギちゃんは、
手をクロスさせハートの片割れを2つ作った。
僕と一松はそれに合わせてハートを完成させた。
パシャリ。
証拠が撮られた。
滞りなくチェキが渡される。
まだ写真の画は出てきていない。
「ありがとうございます!大事にしてくださいね。」
席に戻ると、良い時間になってたのでお会計をお願いした。
これも特に問題なく進む。
残ったドリンクを飲み干すと、店を出た。
「はあ。」
「ちょっと疲れたね。」
「でもトド松が帰ってくんの楽しみじゃない?」
「…かなりね。」
画が出てきたチェキを見ながら帰路を歩く。
僕らもちょっと嬉しそうな顔をしているし、
トド松はちょっと可愛かった。
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