前途多難々
スマホにBluetoothで繋いだ車内スピーカーから、
呼び出し音が鳴り響く。
何度目かの呼び出し音がトド松くんの声に切り替わった。
「もしもし?あ待って、外出るから!」
どたどた、がらがら、ぴしゃん。
スマホ越しから急いで外に出る音が聞こえる。
途中、どの兄かが電話の主を問う声も聞こえたが、
トド松くんはそれに答えなかった。
「今忙しかった?」
「ううんー、ぜんっぜん!ひまひま!」
少し大げさな返事に俺は笑った。
「お兄さんたち居るとやっぱ喋りにくいの?」
「もう害しかない。」
また大げさな表現に笑う。
きっとトド松くんからしたら大げさでもないのかもしれないけど。
外は空気が冷たかった。
こんな寒さの中、トド松くんを外へ連れ出してしまったことに罪悪感を覚える。
「ところでさ、トド松くん昨日はありがと。」
「いやいや、こちらこそだよ。楽しかった!」
「ほんと?なら良かった。俺とトド松くん以外の二人はさ会社の先輩なんだけど。なんかソリ合わなくてさあ。」
「え、そうだったの!?ボク邪魔じゃなかった…?」
「トド松くんが居てくれて助かったよ。」
「ならいいけどさあ。」
「あ、今度お兄さんの中で二人選んで、トド松と俺とで四人で合コンしようよ。」
「絶対に嫌。」
凄まじい早さで拒否られる。
「はは、なんでさ。」
「あつしくんも知ってるでしょ!カス5人しかいないんだよ。」
「というか六つ子だけどあんま似てないよね、特に中身は。」
「そだねー。」
「トド松くんが6人だったら天国なのになあ。」
「えぇ?なにそれ。変なこと言うねぇ。」
自分で言っておきながら、
6人のトド松くんに囲まれる様子を妄想すると口角が最大にまで上がった。
「トド松くんがお婿に行けなかったら俺養ったげるね。」
「まじ!?助かるぅ!っていやあつしくんは結婚しちゃうでしょ!」
「んー…どうかなぁ。」
少し長めに言葉に詰まってしまいテンポを崩した。
さっきの上がった口角はみるみる下がり、
なんだか険しい顔になってしまった。
電話で良かったと思う。
「えー、あつしくんでも思い悩むことあんだね。」
突然悪くなったテンポに触れるように、
トド松くんもちょっとだけトーンを落とす。
鼻にかからなくなった真っ直ぐな声に少しドキッとした。
「そりゃあるさ。好きな子だって百発百中って訳にはいかないしね。」
「うっそだー!」
「ほんとほんと。あぁそうだ、こないだの合コンで知り合ったコがさ、駅前のカフェで働いてるんだって。ちょっとサービスしてくれるらしいから今度行こうよ。」
「え!行きたーい!!ボクいつでも暇だから!!楽しみぃ〜!!」
デートに誘うまでは、
どんな女の子よりも簡単なのに。
それ以降がひたすらに難しい。
きっと何も気づいてないトド松くんだからこそ、
こうやって一緒にどこかへ出かけてくれるのは分かっているが、
それ以上でもそれ以下でもないのがもどかしい。
「電話してると会って話したくなっちゃった。」
「んぇ?ボクと?」
「うん。てかまだ外?寒いでしょ。」
「めっちゃ寒い〜!!」
「ちょっと待ってね。」
そう答えた直後、
前方にトド松くんが見えた。
しゃがみこんでいたのを立ち上がり、
端によってこちらを見ている。
き、と目の前に車を止めるとトド松くんは目を丸くしていた。
「迎えに来ちゃった。」
「えぇ!?フットワーク軽すぎ!!」
「寒いでしょ、乗って。」
トド松くんは助手席に座った。
その頬に触れるとキンキンに冷えていた。
「ぬくい!!」
「冷たいねぇトド松くん。ごめんね、こんな薄着で長電話させちゃって。」
「ううん、兄さんたちが存在してるからこんなことになるんだよ。あつしくんは気にしないで。」
「俺んちで一緒に住む?」
「あーーーーー悪くないなぁ!なんちゃって。」
六つ子からわざわざ家を出て男友達と同居なんて、
多分夢のまた夢だ。
叶わなかったものの意外に肯定的な返事に、
少し胸が踊った。
「…風邪引かないでね。」
「バカは風邪引かないって言うじゃん?」
「トド松くんはバカじゃないよー。」
「えー、ありがと!へへへ」
住宅街から広い道路へ出た。
街頭が明るく、車内をバラバラと照らしている。
このまま一生こうやって二人で走っていたい。
「あー帰したくないな!」
なんちゃって。
自分でもびっくりするくらいの声が出てしまった。
「ん!?どした!?」
トド松くんの驚いた顔を横目で確認した。
ちょっとダサすぎたかもしれない。
「ごめん。なんか思ったより声出ちゃった。」
「あつしくんもそんなことあんだね!」
相変わらずのスルースキル。
なんで追求してこないのか怖くなるくらい。
でも今回はダサさに耐えられないので、
せっかくのスルースキルに便乗して話を変える。
「よくあるよ。話変わるけど次の土曜日空いてる?」
「余裕〜。ニート舐めないで。」
「はは、じゃあさっき言ってたカフェ行って、俺んち来る?」
「あつしくん家!?めっちゃデートみたいじゃん!!」
みたいじゃなくてデートだよ、なんて言うのは野暮か。
紛れもないデートのつもりだったけど、
やっぱりトド松くんは気付かない。
それでも家には来てくれる。
ただその事実に今は小躍りしていよう。
「じゃ、そろそろ送ってくね。お兄さんたち心配するでしょ。」
「ふふ、楽しかった、ありがとうあつしくん。兄さんたちはどうでもいいけど!」
そんな喜んじゃって。
作り笑顔だとしても良くできた綻んだ顔。
どうしようもなく胸がくすぐったくなる。
はあ。一体ここからどうすればいいんだろう?
呼び出し音が鳴り響く。
何度目かの呼び出し音がトド松くんの声に切り替わった。
「もしもし?あ待って、外出るから!」
どたどた、がらがら、ぴしゃん。
スマホ越しから急いで外に出る音が聞こえる。
途中、どの兄かが電話の主を問う声も聞こえたが、
トド松くんはそれに答えなかった。
「今忙しかった?」
「ううんー、ぜんっぜん!ひまひま!」
少し大げさな返事に俺は笑った。
「お兄さんたち居るとやっぱ喋りにくいの?」
「もう害しかない。」
また大げさな表現に笑う。
きっとトド松くんからしたら大げさでもないのかもしれないけど。
外は空気が冷たかった。
こんな寒さの中、トド松くんを外へ連れ出してしまったことに罪悪感を覚える。
「ところでさ、トド松くん昨日はありがと。」
「いやいや、こちらこそだよ。楽しかった!」
「ほんと?なら良かった。俺とトド松くん以外の二人はさ会社の先輩なんだけど。なんかソリ合わなくてさあ。」
「え、そうだったの!?ボク邪魔じゃなかった…?」
「トド松くんが居てくれて助かったよ。」
「ならいいけどさあ。」
「あ、今度お兄さんの中で二人選んで、トド松と俺とで四人で合コンしようよ。」
「絶対に嫌。」
凄まじい早さで拒否られる。
「はは、なんでさ。」
「あつしくんも知ってるでしょ!カス5人しかいないんだよ。」
「というか六つ子だけどあんま似てないよね、特に中身は。」
「そだねー。」
「トド松くんが6人だったら天国なのになあ。」
「えぇ?なにそれ。変なこと言うねぇ。」
自分で言っておきながら、
6人のトド松くんに囲まれる様子を妄想すると口角が最大にまで上がった。
「トド松くんがお婿に行けなかったら俺養ったげるね。」
「まじ!?助かるぅ!っていやあつしくんは結婚しちゃうでしょ!」
「んー…どうかなぁ。」
少し長めに言葉に詰まってしまいテンポを崩した。
さっきの上がった口角はみるみる下がり、
なんだか険しい顔になってしまった。
電話で良かったと思う。
「えー、あつしくんでも思い悩むことあんだね。」
突然悪くなったテンポに触れるように、
トド松くんもちょっとだけトーンを落とす。
鼻にかからなくなった真っ直ぐな声に少しドキッとした。
「そりゃあるさ。好きな子だって百発百中って訳にはいかないしね。」
「うっそだー!」
「ほんとほんと。あぁそうだ、こないだの合コンで知り合ったコがさ、駅前のカフェで働いてるんだって。ちょっとサービスしてくれるらしいから今度行こうよ。」
「え!行きたーい!!ボクいつでも暇だから!!楽しみぃ〜!!」
デートに誘うまでは、
どんな女の子よりも簡単なのに。
それ以降がひたすらに難しい。
きっと何も気づいてないトド松くんだからこそ、
こうやって一緒にどこかへ出かけてくれるのは分かっているが、
それ以上でもそれ以下でもないのがもどかしい。
「電話してると会って話したくなっちゃった。」
「んぇ?ボクと?」
「うん。てかまだ外?寒いでしょ。」
「めっちゃ寒い〜!!」
「ちょっと待ってね。」
そう答えた直後、
前方にトド松くんが見えた。
しゃがみこんでいたのを立ち上がり、
端によってこちらを見ている。
き、と目の前に車を止めるとトド松くんは目を丸くしていた。
「迎えに来ちゃった。」
「えぇ!?フットワーク軽すぎ!!」
「寒いでしょ、乗って。」
トド松くんは助手席に座った。
その頬に触れるとキンキンに冷えていた。
「ぬくい!!」
「冷たいねぇトド松くん。ごめんね、こんな薄着で長電話させちゃって。」
「ううん、兄さんたちが存在してるからこんなことになるんだよ。あつしくんは気にしないで。」
「俺んちで一緒に住む?」
「あーーーーー悪くないなぁ!なんちゃって。」
六つ子からわざわざ家を出て男友達と同居なんて、
多分夢のまた夢だ。
叶わなかったものの意外に肯定的な返事に、
少し胸が踊った。
「…風邪引かないでね。」
「バカは風邪引かないって言うじゃん?」
「トド松くんはバカじゃないよー。」
「えー、ありがと!へへへ」
住宅街から広い道路へ出た。
街頭が明るく、車内をバラバラと照らしている。
このまま一生こうやって二人で走っていたい。
「あー帰したくないな!」
なんちゃって。
自分でもびっくりするくらいの声が出てしまった。
「ん!?どした!?」
トド松くんの驚いた顔を横目で確認した。
ちょっとダサすぎたかもしれない。
「ごめん。なんか思ったより声出ちゃった。」
「あつしくんもそんなことあんだね!」
相変わらずのスルースキル。
なんで追求してこないのか怖くなるくらい。
でも今回はダサさに耐えられないので、
せっかくのスルースキルに便乗して話を変える。
「よくあるよ。話変わるけど次の土曜日空いてる?」
「余裕〜。ニート舐めないで。」
「はは、じゃあさっき言ってたカフェ行って、俺んち来る?」
「あつしくん家!?めっちゃデートみたいじゃん!!」
みたいじゃなくてデートだよ、なんて言うのは野暮か。
紛れもないデートのつもりだったけど、
やっぱりトド松くんは気付かない。
それでも家には来てくれる。
ただその事実に今は小躍りしていよう。
「じゃ、そろそろ送ってくね。お兄さんたち心配するでしょ。」
「ふふ、楽しかった、ありがとうあつしくん。兄さんたちはどうでもいいけど!」
そんな喜んじゃって。
作り笑顔だとしても良くできた綻んだ顔。
どうしようもなく胸がくすぐったくなる。
はあ。一体ここからどうすればいいんだろう?
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