喫煙児
スマホの画面に映る時刻は23時を少し過ぎている。
繁華街の雑踏を足早に歩きながら、ボクは駅を目指していた。
女の子とデートをして、今日こそはと意気込んだものの、結局健全に解散して終わり。
そもそも交渉もできなかった。そういう空気にならなかった。
最後までにこにこしながら自分の乗る線とは違う線の駅へ送って、終わり。
よくできました。
でも次は無いのでしょう。
はあ、と小さくため息をつくと、ふわりとタバコの匂いが鼻先をかすめた。
一瞬心臓がずくんと跳ねる。
ボクの脳裏には、鮮明にあの日のことがフラッシュバックしてきたのだった。
散々咥内を貪りあったあと、薄暗い部屋の中おそ松兄さんの顔をまっすぐ見た。
恍惚とも絶望とも取れる、変な顔をしていた。
お互い目を合わせたまま、時が止まったかのような感覚に陥っていた。
先に動いたのはおそ松兄さんで、ボクの頭を抱えるように腕に包んだ。
脳みそが勝手にそこまでのシーンを再生したとき、鼻の奥にあのときと同じ香りが沸き立った。
こそばゆくて、くん、と鼻を鳴らしたがすぐには消えてくれない。
ボクはあのとき、どんな顔をしていたのだろうか。
せめておそ松兄さんが納得のいくような、変じゃない顔だったらいいのだけども。
そういえば、なんでおそ松兄さんはわざわざタバコを吸うのだろう。
お酒みたいに酔うわけでもないから、勢いで、なんて話ではないだろうに。
ただの口実なら、別にタバコでなくていい。
いつもタバコを部屋の中で吸って、ボクに叱られて、甘えてきて、キスをして。
そのシナリオしか思いつかないからだろうか。
…あ。もしかして。
そこまで考えて、ボクはさっきの鼻の奥の感覚を振り返る。
もしボクの思いついたことが本当なら、なんて長男らしくないんだろう。
でも、それをボクにしかやっていないのだとしたら、それはなんて、ああ。
胸が締め付けられる。
口角が自然とあがりそうになるのを必死で耐える。
ねぇ兄さん。ボクに思い出してほしいの?
タバコの匂いで、ボクに忘れないでいてほしいの?
目に痛いほどの駅の明かりの中、時計を見るとまだ終電には余裕で間に合う時間だった。
電車を待つ間、帰路に思いを馳せる。
もう今日遊んだ女の子のことなんて微塵も頭になかった。
帰ったら、おそ松兄さんのこと、いっぱいぎゅってしてあげよう。
きっと、甘えただな末っ子は、なんて言ってくるだろうけど、本当は兄さんのほうが甘えただってことは、ボクの中だけの秘密にしておいてあげるのだ。
繁華街の雑踏を足早に歩きながら、ボクは駅を目指していた。
女の子とデートをして、今日こそはと意気込んだものの、結局健全に解散して終わり。
そもそも交渉もできなかった。そういう空気にならなかった。
最後までにこにこしながら自分の乗る線とは違う線の駅へ送って、終わり。
よくできました。
でも次は無いのでしょう。
はあ、と小さくため息をつくと、ふわりとタバコの匂いが鼻先をかすめた。
一瞬心臓がずくんと跳ねる。
ボクの脳裏には、鮮明にあの日のことがフラッシュバックしてきたのだった。
散々咥内を貪りあったあと、薄暗い部屋の中おそ松兄さんの顔をまっすぐ見た。
恍惚とも絶望とも取れる、変な顔をしていた。
お互い目を合わせたまま、時が止まったかのような感覚に陥っていた。
先に動いたのはおそ松兄さんで、ボクの頭を抱えるように腕に包んだ。
脳みそが勝手にそこまでのシーンを再生したとき、鼻の奥にあのときと同じ香りが沸き立った。
こそばゆくて、くん、と鼻を鳴らしたがすぐには消えてくれない。
ボクはあのとき、どんな顔をしていたのだろうか。
せめておそ松兄さんが納得のいくような、変じゃない顔だったらいいのだけども。
そういえば、なんでおそ松兄さんはわざわざタバコを吸うのだろう。
お酒みたいに酔うわけでもないから、勢いで、なんて話ではないだろうに。
ただの口実なら、別にタバコでなくていい。
いつもタバコを部屋の中で吸って、ボクに叱られて、甘えてきて、キスをして。
そのシナリオしか思いつかないからだろうか。
…あ。もしかして。
そこまで考えて、ボクはさっきの鼻の奥の感覚を振り返る。
もしボクの思いついたことが本当なら、なんて長男らしくないんだろう。
でも、それをボクにしかやっていないのだとしたら、それはなんて、ああ。
胸が締め付けられる。
口角が自然とあがりそうになるのを必死で耐える。
ねぇ兄さん。ボクに思い出してほしいの?
タバコの匂いで、ボクに忘れないでいてほしいの?
目に痛いほどの駅の明かりの中、時計を見るとまだ終電には余裕で間に合う時間だった。
電車を待つ間、帰路に思いを馳せる。
もう今日遊んだ女の子のことなんて微塵も頭になかった。
帰ったら、おそ松兄さんのこと、いっぱいぎゅってしてあげよう。
きっと、甘えただな末っ子は、なんて言ってくるだろうけど、本当は兄さんのほうが甘えただってことは、ボクの中だけの秘密にしておいてあげるのだ。
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