喫煙児
2階、子ども部屋のふすまを開けると、そこにはタバコの匂いが充満していた。
窓は開いているのに、犯人は窓際ではないところでタバコを吸っていたからだ。
「ちょ、最悪。」
顔をしかめてぱたぱたと顔の前で手のひらを振りながら、犯人をひっ捕まえた。
脇を抱えてずるずると窓際に移動させる。
「へへ、」
「もう辞めてって。ちゃんと煙は外に吐いて。」
実は同じようなやり取りをもう5回はしたことがある。
ボクはこれがなんなのか少しだけ分かっていた。
きっと、おそ松兄さんなりの試し行動だ。
部屋の中の煙の量からして、別に長時間煙を部屋に吐いていたわけじゃない。
誰かが帰ってきた音、もしくは階段を上がる音に反応してこいつはこんなことをやってるのだろう。
ちゃんと叱ってくれることを、期待して試しているのだろう。
ボクは窓際でぷかぷかやってるかまってちゃんから離れて、ソファに深く腰をおろした。
「兄さんそれ、他の兄さんにもやってんの。」
「んー?どれ。」
「わざと部屋の中でタバコ吸うやつ。」
おそ松兄さんはニッと口角をあげ、トントンと灰を灰皿へ落とすと、また吸い口を咥えて息を吸った。
ふー、と多めの息とともに吐いた煙は夕方のオレンジ色の空気へ緩やかに混ざる。
「トッティだけ。」
「下からボクの声聞こえた?」
「うん。あと足音でなんとなくわかるよ。」
少し気色が悪いが、まあこれだけ一緒に住んでいたらそういうこともあるかと納得し、ふーんとだけ返事をした。
タバコもよく見るとまだまだ長い。
ボクが帰ってきたと同時に吸い始めた可能性もある。
…そもそも、この男はそんなに頻繁にタバコを吸わない。
「ねえトド松ぅー、そっちいっていい?」
「だめ。たばこ吸い切ってから。」
「んえー、まだこんなにあるぅ。」
本当はタバコなんて美味しくないのだろう。
もったいないとボヤきつつも、それなりの勢いで灰皿にタバコの先端を押し付けた。
「はい、お兄ちゃんはそっちいきまーす。」
ニタニタしながら立ち上がり、ニタニタしながらこちらへ寄ってきた。
そのままどかりとボクの横へ座る。
「ふぃー」
座った勢いでかなり強めのタバコの香りが漂ってくる。
おそ松兄さんは後頭部を背もたれに添わせながら、ボクの肩へ頭を乗せた。
「ねぇトド松。」
「なに。」
「ちゅーしたい。」
「臭いからやだ。」
ええー、と言いながら頭をグイグイ押し付けてくる。
そのまま顔をボクの方へ向けると、ボクの首筋をくんと嗅いだ。
「トッティはいい匂い。」
「知ってる。」
つれないボクを見て、おそ松兄さんは目を細めて笑った。
頭が離れたかと思うと、膝をソファの上に立て、くるりと回りボクの前に来た。
ソファは膝が食い込むたびにギ、と音が鳴る。
膝の上をおそ松兄さんが膝立ちのまま跨ぐような形で、おでこ同士をこつんとぶつけた。
「まあ、するけど。ちゅー。」
ボクの返事も待たずにおそ松兄さんはボクの唇の上に唇を合わせた。
ボクは5秒くらい、目を瞑っていた。
その間、ボクの鼻の奥は麻痺するくらいにタバコの匂いで充満していた。
唇が離れたのを見計らって目を開け、しばらくしてピントが合うと、そこにはまたヘラヘラしているおそ松兄さんの顔があった。
「にひ、しちゃった。」
「いつもするじゃん。ヤダって言ってんのに。」
「臭いから?」
「…うん。」
理由が臭いからってだけなのが恥ずかしくなって、目線を外しながら返事をした。
おそ松兄さんはソファから降り、床に膝立ちになってボクの膝の間に潜り込んできた。
「ちょ」
そのまま腰に手を回して顔面をボクのお腹に押し付けたのだった。
「うーーーー。」
「…なに。」
「んーん。」
へへへ、とボクのお腹から笑い声が聞こえた。
お腹に埋まったおそ松兄さんの頭頂部を見つめていると、おそ松兄さんはボクの手を取り、自分の頭の上へ乗せた。
う。ちょっと胸のあたりがきゅっとなる。
愛おしい、とか、いじらしい、とか。
そういう類の何かが脳みそをちくちく刺激してくる。
強制的に頭の上へ乗せられた手を、ゆっくりと後頭部の方へ動かす。
黒くて太めのつるっとした髪。
手入れこそされていないけど、ダメージも少ない少年のような質感。
また手を上の方へ戻し、ゆっくりと下へ撫でる。
ときに手櫛でさらさらと解いてみたりもする。
無心で長男の頭をこねくり回していると、お腹から不意に名前を呼ばれた。
「ん。どうしたの。」
おそ松兄さんはゆっくりと立ち上がり、ボクの頬を柔く両手で挟んだ。
そのまま、何かを思う間もなくキスをした。
おそ松兄さんがボクの唇を舐めると、ボクは拒むことなく薄く唇を開く。
舌が侵入した瞬間、咥内から鼻へタバコの匂いが駆け抜けた。
今の今まで、その香りに慣れていたことを思い知らされたのだった。
部屋はいつの間にか暗く青くなっていた。
窓は開いているのに、犯人は窓際ではないところでタバコを吸っていたからだ。
「ちょ、最悪。」
顔をしかめてぱたぱたと顔の前で手のひらを振りながら、犯人をひっ捕まえた。
脇を抱えてずるずると窓際に移動させる。
「へへ、」
「もう辞めてって。ちゃんと煙は外に吐いて。」
実は同じようなやり取りをもう5回はしたことがある。
ボクはこれがなんなのか少しだけ分かっていた。
きっと、おそ松兄さんなりの試し行動だ。
部屋の中の煙の量からして、別に長時間煙を部屋に吐いていたわけじゃない。
誰かが帰ってきた音、もしくは階段を上がる音に反応してこいつはこんなことをやってるのだろう。
ちゃんと叱ってくれることを、期待して試しているのだろう。
ボクは窓際でぷかぷかやってるかまってちゃんから離れて、ソファに深く腰をおろした。
「兄さんそれ、他の兄さんにもやってんの。」
「んー?どれ。」
「わざと部屋の中でタバコ吸うやつ。」
おそ松兄さんはニッと口角をあげ、トントンと灰を灰皿へ落とすと、また吸い口を咥えて息を吸った。
ふー、と多めの息とともに吐いた煙は夕方のオレンジ色の空気へ緩やかに混ざる。
「トッティだけ。」
「下からボクの声聞こえた?」
「うん。あと足音でなんとなくわかるよ。」
少し気色が悪いが、まあこれだけ一緒に住んでいたらそういうこともあるかと納得し、ふーんとだけ返事をした。
タバコもよく見るとまだまだ長い。
ボクが帰ってきたと同時に吸い始めた可能性もある。
…そもそも、この男はそんなに頻繁にタバコを吸わない。
「ねえトド松ぅー、そっちいっていい?」
「だめ。たばこ吸い切ってから。」
「んえー、まだこんなにあるぅ。」
本当はタバコなんて美味しくないのだろう。
もったいないとボヤきつつも、それなりの勢いで灰皿にタバコの先端を押し付けた。
「はい、お兄ちゃんはそっちいきまーす。」
ニタニタしながら立ち上がり、ニタニタしながらこちらへ寄ってきた。
そのままどかりとボクの横へ座る。
「ふぃー」
座った勢いでかなり強めのタバコの香りが漂ってくる。
おそ松兄さんは後頭部を背もたれに添わせながら、ボクの肩へ頭を乗せた。
「ねぇトド松。」
「なに。」
「ちゅーしたい。」
「臭いからやだ。」
ええー、と言いながら頭をグイグイ押し付けてくる。
そのまま顔をボクの方へ向けると、ボクの首筋をくんと嗅いだ。
「トッティはいい匂い。」
「知ってる。」
つれないボクを見て、おそ松兄さんは目を細めて笑った。
頭が離れたかと思うと、膝をソファの上に立て、くるりと回りボクの前に来た。
ソファは膝が食い込むたびにギ、と音が鳴る。
膝の上をおそ松兄さんが膝立ちのまま跨ぐような形で、おでこ同士をこつんとぶつけた。
「まあ、するけど。ちゅー。」
ボクの返事も待たずにおそ松兄さんはボクの唇の上に唇を合わせた。
ボクは5秒くらい、目を瞑っていた。
その間、ボクの鼻の奥は麻痺するくらいにタバコの匂いで充満していた。
唇が離れたのを見計らって目を開け、しばらくしてピントが合うと、そこにはまたヘラヘラしているおそ松兄さんの顔があった。
「にひ、しちゃった。」
「いつもするじゃん。ヤダって言ってんのに。」
「臭いから?」
「…うん。」
理由が臭いからってだけなのが恥ずかしくなって、目線を外しながら返事をした。
おそ松兄さんはソファから降り、床に膝立ちになってボクの膝の間に潜り込んできた。
「ちょ」
そのまま腰に手を回して顔面をボクのお腹に押し付けたのだった。
「うーーーー。」
「…なに。」
「んーん。」
へへへ、とボクのお腹から笑い声が聞こえた。
お腹に埋まったおそ松兄さんの頭頂部を見つめていると、おそ松兄さんはボクの手を取り、自分の頭の上へ乗せた。
う。ちょっと胸のあたりがきゅっとなる。
愛おしい、とか、いじらしい、とか。
そういう類の何かが脳みそをちくちく刺激してくる。
強制的に頭の上へ乗せられた手を、ゆっくりと後頭部の方へ動かす。
黒くて太めのつるっとした髪。
手入れこそされていないけど、ダメージも少ない少年のような質感。
また手を上の方へ戻し、ゆっくりと下へ撫でる。
ときに手櫛でさらさらと解いてみたりもする。
無心で長男の頭をこねくり回していると、お腹から不意に名前を呼ばれた。
「ん。どうしたの。」
おそ松兄さんはゆっくりと立ち上がり、ボクの頬を柔く両手で挟んだ。
そのまま、何かを思う間もなくキスをした。
おそ松兄さんがボクの唇を舐めると、ボクは拒むことなく薄く唇を開く。
舌が侵入した瞬間、咥内から鼻へタバコの匂いが駆け抜けた。
今の今まで、その香りに慣れていたことを思い知らされたのだった。
部屋はいつの間にか暗く青くなっていた。
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