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ジュースのおかわり

今日、ボクはいつもと同じようにチョロ松兄さんにジュースを強請っていた。
そしてチョロ松兄さんは半分キレながら拒否し続けている。
そうそう、これはいつものやつ。
そして次は。

「ブラザー!今からオレはコンビニへ行くんだ。ついでにジュース、買ってきてやろうか?」

ふふ、いつものいつもの。
ボクとチョロ松兄さんの喧騒を聞きつけ、
カラ松兄さんがやってくる。
コンビニなんて行く予定なくても、
ジュースを買いに行ってくれるのだ。
この間はこの優しさに漬け込みすぎて、
カラ松兄さん自体が爆発しちゃったけど、
今はそこの塩梅もうまくやってる。
買ってきてくれたジュースは3口くらいはあげてるし、
買ってきてくれたその日はもう何も頼まない。
他の兄さんたちがカラ松兄さんを頼るのをなるべく阻止して、
見返りを求められたら3割程度の気持ちで返してる。
これが完璧なるボクのカラ松兄さんパシリメソッド。

ただ今日はちょっとだけ予定が狂った。

「おいトド松、お前僕のこと当て馬にしてるよな?」

三男、チョロ松。
まーじでめんどい。
自分は買いに行かないでいいんだから黙っといてほしい。

「当て馬?何の話??」
「いやいや、カラ松に買いに行かせるためにわざと1回僕に言いに来てるよね?絶対買いに行かないの分かってて。」
「そんなことないよー、ボクはチョロ松兄さん買いに行ってくれるかなーって、毎回思って聞いてるんだよ?」
「思ってないだろ。」
「思ってるって!チョロ松兄さん優しいしお願い聞いてくれるかなってー。」
「…トド松、お前本当はチョロ松に買いに行ってほしいのか…?」

ん…?
なんかカラ松兄さんも変なこと言い出したんだけど。
誰に買いに行ってほしいとかないんだけど。
ジュース買ってきてくれたら誰でもいいんだけど。
まじで。

「えー!どういう意味ー!?そりゃあ優しいお二人に買ってきていただけたら嬉しいなーって、」
「オレじゃなくてもか…?」

は?うん。
お前じゃなくてもいいよ。全然いい。
というのを飲み込み、なんとかこの場を収めようと頭をフル回転させた。

「いつもチョロ松兄さんとこうやってるとカラ松兄さん来てくれるじゃん?ボクちょっと甘えちゃってたかも、みたいな…?」
「じゃあやっぱり僕のこと当て馬にしてるよね??」

あーーーーー!!!
めんっどくせぇなあーーー!?!?
当て馬ってなんだよ!?
なに!?本当はジュース買いに行きたかったのお前!?
じゃあ行け!!今すぐ行け!!!!

「ご、ごめんなんか…今日はボク自分で買ってくるから!!じゃあね!!」
「待て。」

パーカーのフードを捕らえられ、首が締まる。
なんなのもう…。

「ジュースはオレが買いに行く。そのかわり、」

そのかわり…?

「キス、してくれないか…?」

カラ松兄さんは少し照れながら、
それでもまっすぐボクの目を見て言い放ったのだった。

「いや無、」
「なにそれ?じゃあボクもしてもらえる権利あるよね?キス。弟と?罰ゲームじゃない?」

チョロ松兄さんは序盤こそ怪しかったが、
後半正気を取り戻したみたいだった。
ただこいつが喋りだしたせいで「無理」の言葉は、
カラ松兄さんには届かなかった。
恥ずかしそうに、でも期待を盛りだくさんに含んだ目でボクのことを見ている。
はあ、どうしよう。
断ればいいんだけどやっぱこういうのは少しでも期待に添えたほうが今後にも役に立つ。
やっぱり3割、どんな形でも応えたほうが…。

「カラ松兄さん、わかったよ。ちょっと考えさせて。まずジュース、買ってきて。」

時間を稼ごう。
幸いなことにカラ松兄さんはすこぶる素直に出かけていった。

「で、本当にキスするの?カラ松と。」
「…今考えてるから。」
「僕とは?」
「いや罰ゲームがどうとか言ってたじゃん!したくないでしょ!?」
「倫理的にさ、なんかやばいじゃん?兄弟とキスしたいとか。」
「うん。」
「僕はその辺わきまえてるっていうか。」
「うん。」
「でもそれはそれとして、キスはしたい。」
「したいんだ…。」

したいんだ…じゃねーや。
チョロ松兄さんは正気だったと思ったのに。
正気が元々おかしいのか。そっか。
そもそもキスって言っただけで、
別にマウストゥマウスとは言ってない。
ほっぺならマウストゥマウスの3割くらいか…いや無理。お互いいい大人だよ?無理。
じゃあほっぺちゅーの3割くらいなら?
間接キスくらい??うん、それならまあ普段意識せずにしてるだろうし。
まあ、まあ、いいでしょう。
よし。

ぺちゃくちゃなにかを言ってくるチョロ松兄さんをフル無視していると、
しばらくしてカラ松兄さんが帰ってきた。
え、スキップしてない?
大丈夫そう?

「トッティ!ジュース買ってきたぞ!」
「う、うん、ありがと。」

差し出された冷え冷えのジュースを受け取る。
キラキラしたカラ松兄さんの目をよそに、
ボクはプルタブを立てて倒した。
そのままぐいっと一口。沁みる。

「ふぅ…カラ松兄さん。さっきの話なんだけど。」
「あぁ!」
「やっぱボク恥ずかしいから…これ。」

ジュースを差し出す。

「飲んで。」

カラ松兄さんは少し不思議そうな顔をしながらもジュースを一口、口に含んだ。

「?美味しいな?」
「…間接キスだよ、兄さん。」

微笑みながら上目遣いでちょっと顔を逸らし、照れたように目だけをまっすぐ見る。
不思議な顔をしたままのカラ松兄さんの頬が徐々に赤らんでいく。
いやー我ながら。我兄ながら。ちょっろいわー。
いつもジュースあげてんだから、いつもしてるだろうに!

「か、かんせ、、」
「うん、間接キス。キスはキスでしょ?」
「そ、そうか、そうだな。意識すると…なんだか恥ずかしいな!」
「ふふ。ボクもちょっと恥ずかしいや。」
「ちょーーーーーっとまてごらぁ!?!?」

ちゃんちゃんと締めくくろうとしたところに、
毎度おなじみチョロ松兄さんがやってきた。
というかずっとそこにいた。
忘れてた。

「あ、ごめんねチョロ松兄さん。はいこれ。」

カラ松兄さんから缶を受け取り、
そのままチョロ松兄さんへ渡す。

「ちょちょちょとまて、それではチョロ松と間接キスになってしまう!」
「ナメるのもいい加減にしろ!」
「もー、いい感じにまとめられそうだったのに。」
「そんなんで僕は騙されないからな!」

チョロ松兄さんの指がまっすぐボクを指す。
またでかい声で「騙されないからなああ!!」と言って、走ってどこかへ行ってしまった。
ボクは手に持ったジュースを一口飲んだ。
まだ冷えてる。やるねぇ。
チラリとカラ松兄さんを見ると、
またなんか赤くなっていた。
…はあ、なんだこいつら。
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