ピンクの流れ星
周りが寝静まった頃、
俺は隣の違和感に気付く。
違和感というか、そもそも居なくなっていた。
トド松が。
眠い目をこすり、他のみんなを起こさないようゆっくりと布団を抜け出す。
窓の外にトド松はいた。
三角座りをして月しかない真っ暗な空を見つめていた。
俺は窓に近づき、そろそろと窓を開けた。
「トド松。」
「ん、おそ松兄さん。」
トド松は声色も普段のままで返事をする。
何事もないかのように。
俺も窓の外に出て、隣に腰掛けた。
音を立てないように窓を閉めて。
「どしたの。」
「なんか眠れなくて。」
月を見つめたままトド松は答えた。
青白い月の灯は、儚ない印象を与えるかのようにトド松を照らしていた。
俺はそれ以上何も言わず、言えず、しばらく黙って隣りにいた。
トド松は急にハッとしたようにやっと俺の方を見て、
申し訳無さそうな顔をした。
「あ、ごめん、もしかして起こしちゃった?」
「いや俺もちゃんとは寝てなかったと思うし。」
もう一度、ごめんね、とだけ言ってまた空を見上げたのだった。
しんと静まり返った街は、
まるで俺たち二人しかいないような感覚にさせてくる。
街頭の明かりもぽつぽつ、
住宅街の家々には点いてる明かりなどほとんどない。
みんな健康的な生活を送っているのだ。
「なあ。」
「ん?」
「手繋いでいい?」
「え?」
驚いたような顔でトド松はこちらを向く。
返事は待たずに俺はトド松の手の甲に手を重ねた。
「…いいけど。」
トド松はなんで?と聞きたそうに首を傾げる。
それでもくるりと手のひらを回し、
俺の手のひらと合わさるように向きを変えた。
それを俺はキュッと握って、体も少し近づけた。
トド松はいつの間にかまた、月を見ていた。
「なんかあった?」
「んーん。」
「お兄ちゃんにも言えないこと?」
「ほんとに何もないよ、おそ松兄さん。」
また少し体を近づけ、
繋いでいない方の手でトド松の頭をぽんぽんと撫でる。
「月、見て楽しい?」
「綺麗だなって。でもなんか、ボク独りでここにいるみたいな感覚になってさ。ちょっとこわくなっちゃった。」
「俺がいるじゃん。」
「うん、だから来てくれて安心した。ありがと、おそ松兄さん。」
「へへん。」
時々、末っ子がフッと消えてしまいそうで不安になるときがある。
なんにも一人でできなかったくせに、
いつの間にかなんでも一人でできるようになって。
俺たち兄のことも邪魔になってしまうんだろうなって思うと、
どうしても手放したくなくなってしまうのだった。
トド松の頭に置いていた手をおろし、
また体を少し近づけた。
ここでキスしようとしたら軽蔑される?
顔を覗き込んでみる。
トド松と目が合う。
「ちょっと寒くなってきちゃった。もう入ろうかな、中。」
「そう?」
トド松は立ち上がる。
繋いでた手もはらりと離れてしまった。
俺はふいに腕を掴み、動きを静止した。
トド松は驚いたようにこちらを見た。
「おいで。」
「えー。」
俺は膝を立てたまま足を広げて内ももをぱたぱたと叩く。
トド松は困ったように笑い、
あったかいかもしれないけど、と文句を言いながらも俺の足の間に腰を落とした。
すっぽり収まったトド松の体を後ろから抱く。
「ふふ、あったかい。」
「だろ?」
首筋に鼻を埋めると、甘い匂いがする。
トド松の元々の香りと混ざって、なんとなく切ない気持ちになる。
この末っ子はどういう気持ちで俺の腕の中で大人しくしてるんだろう。
きっと今のことなんか明日起きた頃には忘れるんだろう。
忘れなかったとしても、
他の兄弟や、ましてや女友達とかになんて絶対話さないんだろう。
だから今だけは。
たまたま起きたのが俺だったんじゃなくて、
お前が起こした、そういうことにして。
ふと空を見ると、サッと光る何かが滑っていった。
「トド松。」
「なに?」
「…なんもない。」
体全身で包んだトド松の気配だけが、
今は現実なんだから。
少しだけ腕の力を強めたりしたのだった。
俺は隣の違和感に気付く。
違和感というか、そもそも居なくなっていた。
トド松が。
眠い目をこすり、他のみんなを起こさないようゆっくりと布団を抜け出す。
窓の外にトド松はいた。
三角座りをして月しかない真っ暗な空を見つめていた。
俺は窓に近づき、そろそろと窓を開けた。
「トド松。」
「ん、おそ松兄さん。」
トド松は声色も普段のままで返事をする。
何事もないかのように。
俺も窓の外に出て、隣に腰掛けた。
音を立てないように窓を閉めて。
「どしたの。」
「なんか眠れなくて。」
月を見つめたままトド松は答えた。
青白い月の灯は、儚ない印象を与えるかのようにトド松を照らしていた。
俺はそれ以上何も言わず、言えず、しばらく黙って隣りにいた。
トド松は急にハッとしたようにやっと俺の方を見て、
申し訳無さそうな顔をした。
「あ、ごめん、もしかして起こしちゃった?」
「いや俺もちゃんとは寝てなかったと思うし。」
もう一度、ごめんね、とだけ言ってまた空を見上げたのだった。
しんと静まり返った街は、
まるで俺たち二人しかいないような感覚にさせてくる。
街頭の明かりもぽつぽつ、
住宅街の家々には点いてる明かりなどほとんどない。
みんな健康的な生活を送っているのだ。
「なあ。」
「ん?」
「手繋いでいい?」
「え?」
驚いたような顔でトド松はこちらを向く。
返事は待たずに俺はトド松の手の甲に手を重ねた。
「…いいけど。」
トド松はなんで?と聞きたそうに首を傾げる。
それでもくるりと手のひらを回し、
俺の手のひらと合わさるように向きを変えた。
それを俺はキュッと握って、体も少し近づけた。
トド松はいつの間にかまた、月を見ていた。
「なんかあった?」
「んーん。」
「お兄ちゃんにも言えないこと?」
「ほんとに何もないよ、おそ松兄さん。」
また少し体を近づけ、
繋いでいない方の手でトド松の頭をぽんぽんと撫でる。
「月、見て楽しい?」
「綺麗だなって。でもなんか、ボク独りでここにいるみたいな感覚になってさ。ちょっとこわくなっちゃった。」
「俺がいるじゃん。」
「うん、だから来てくれて安心した。ありがと、おそ松兄さん。」
「へへん。」
時々、末っ子がフッと消えてしまいそうで不安になるときがある。
なんにも一人でできなかったくせに、
いつの間にかなんでも一人でできるようになって。
俺たち兄のことも邪魔になってしまうんだろうなって思うと、
どうしても手放したくなくなってしまうのだった。
トド松の頭に置いていた手をおろし、
また体を少し近づけた。
ここでキスしようとしたら軽蔑される?
顔を覗き込んでみる。
トド松と目が合う。
「ちょっと寒くなってきちゃった。もう入ろうかな、中。」
「そう?」
トド松は立ち上がる。
繋いでた手もはらりと離れてしまった。
俺はふいに腕を掴み、動きを静止した。
トド松は驚いたようにこちらを見た。
「おいで。」
「えー。」
俺は膝を立てたまま足を広げて内ももをぱたぱたと叩く。
トド松は困ったように笑い、
あったかいかもしれないけど、と文句を言いながらも俺の足の間に腰を落とした。
すっぽり収まったトド松の体を後ろから抱く。
「ふふ、あったかい。」
「だろ?」
首筋に鼻を埋めると、甘い匂いがする。
トド松の元々の香りと混ざって、なんとなく切ない気持ちになる。
この末っ子はどういう気持ちで俺の腕の中で大人しくしてるんだろう。
きっと今のことなんか明日起きた頃には忘れるんだろう。
忘れなかったとしても、
他の兄弟や、ましてや女友達とかになんて絶対話さないんだろう。
だから今だけは。
たまたま起きたのが俺だったんじゃなくて、
お前が起こした、そういうことにして。
ふと空を見ると、サッと光る何かが滑っていった。
「トド松。」
「なに?」
「…なんもない。」
体全身で包んだトド松の気配だけが、
今は現実なんだから。
少しだけ腕の力を強めたりしたのだった。
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