このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

初期短編

絶妙にすることがなく、それでも何かをしようという気にはなれないような昼下がりに、一松は何もないところを見ていた。
猫との約束はどうやらまだらしい。
隣ではトド松がパシャリパシャリとシャッター音を轟かせていた。

「トッティ、そんなに何枚も同じ顔撮ってどうすんの。」
「同じ顔じゃなあい!んも、どうせ分かんないんだから口挟まないでよ。」
「…ふーん。見せて。」

いつもは大して興味を示さない一松だったが、
今日はなんとなく「違い」とやらを解明したくなった。
トド松はそんな一松に少し気味悪さを感じながらも、
スマホ画面を一松の方へ傾ける。

「ほらさ、これとこれ。全然ちがうっしょ?」
「うーん?」
「わかんないかなぁ、ちょっとこっちのが幼く見えてかわいくない?逆にこっちは目鼻立ちくっきりして見える気がする。」
「…同じだ。」
「えー?じゃあもうわかんないよ一松兄さんには!」

トド松はスマホ画面を元の位置に戻した。
一松は結局解明できなかった静止画たちを思い出しながら、また難しい顔でスマホを見始めたトド松を見た。

「俺ね、やっぱホンモノが一番良いわ。」

少し力の入ったトド松の頬に人差し指の第二関節を押し当てる。
ゆっくりと沈む感覚にどうしようもない愛しさを覚え、思わず力を入れて押し付け捻った。

「んんん痛い痛い、知ってるからホンモノが一番いいのはー!どうせあれでしょ、一松兄さんって画像より動画じゃないと抜けない人でしょ!」
「いや俺弟のことそんな目で見てないから。」
「…それもそうか。」

少し気持ちの悪い例えをしてしまったと反省したトド松は、まだなにか言いたげな一松を無視し己の顔面の選別に集中した。
1/5ページ
スキ