昼夜と共に
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「お待たせいたしました。……当店自慢の深煎りコーヒーでございます。こちらがアールグレイのアイスティーでございます。どうぞごゆっくり」
音もなく現れた店主はカップをフェイタンの前へ静かに置きコースターをミユの前に置くとグラスを乗せた。
ほのかな湯気とともに深く苦味を含んだ香りがふわりと広がった。
ミユは白い陶器の容器にたっぷり入ったガムシロップをアイスティーへ惜しみなく注いだ。
「……入れすぎね」
『そう?調節出来るの嬉しいよね』
フェイタンは角砂糖の入った入れ物には手を伸ばさずカップに口を付けた。
チラリとカウンターに目をやるとそこには個包装のガムシロップが綺麗に並べて置いてあった。
「……ここよく来るのか?」
『ううん、前に一度だけ。ヒール履いてる時に人とぶつかっちゃってね。足挫いちゃったから端に寄ったらここの看板が目に入って足痛かったから入ってみたの』
ミユはストローを軽く回すと一口飲んだ。
『美味しい。竹下通り何回も来てるけど全然気づかなかったんだよね』
『ふーん』
フェイタンはもう一度口を付けるとカップを置いた。
「客からのもらいものか?」
『これ?』
ミユは手の甲を上に両手を広げた。
ミユの指には3つの指輪がはめられていた。
「全部ね」
フェイタンの視線は耳から首へと動いた。
『アクセサリー?違うよ。自分で買ったもの。安物だけどね』
ミユはコップの縁をなぞるようにストローを回すと一口飲んだ。
『デートに他の男の人からもらったものってつけないでしょ』
フェイタンは一拍置いてからカップを持ち上げ一口飲むと静かに置いた。
「何故あそこで働いてるか?」
『あそこ?キャバ?うーん、やっぱりお給料がいいからかな』
ミユは少し考えるように視線を上に向けた。
「金に困てるか?」
『ううん、生活には困ってないよ』
「ならなんで」
『うーん、貯金したいからかな』
ミユは口元だけで笑った。
「目標額あるか?」
『ハッキリとした額は決まってないけど』
「けど?」
『一生困らないくらい。お金貯まったら保護猫何匹か引き取って静かに暮らそうかなって』
ミユはニッコリ笑った。
目が合ったフェイタンは小さく笑い下を向いた。
将来を見据えてお金を貯めているミユと死をいつもすぐそばにあるものとして生きている自分。
相容れない生き方。
アイスティーを混ぜる氷の音がカラカラと鳴った。
そして今まで気にならなかった時計の針の音がカチカチとフェイタンの耳に届く。
「お冷のおかわりはいかがですか?」
ウォーターピッチャーを持った店主が笑顔で立っていた。
「いらないね」
フェイタンは立ち上がると
「出るね」
と言った。
ミユは慌ててアイスティーを飲み干すとフェイタンの後を追った。
喫茶店を出て石畳を歩き門をくぐるとまたあの耳障りな騒音が戻ってきた。
流れる人の群れを見てフェイタンは眉間を寄せた。
『行こっか』
妙に明るいミユの声にフェイタンの眉間の皺は深くなる。
「またココ歩くか?」
『もちろん!』
「クレープ食べにきただけね」
『行きたいところがあるの』
楽しそうに笑う顔を見てフェイタンは軽く目をつぶると思いっきり息を吐いた。
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