二次創作
6月10日 雨
あの日の私はどうかしていた。(この日記は後日書いている)仕事のストレスでいつものように酒を飲むでもなく「そうだ大声を出そう」と急に思いたち、車を海まで走らせた。大声を出すならカラオケでも良かったはずなのに。そうして行き着いた海で奇妙なものを見た。夜の海で泳ぐ顔まで刺青の入った少年だ。生きた人間だったのか、幽霊だったのか。そんなものを見たせいかその後の記憶は曖昧だ。無事に家には帰れたみたいで、自宅で目が覚めた。
6月11日 曇
今心を落かせるためにこれを書いている。
今日は久々に定時に帰れた。繁忙期が終わったので暫くは定時に帰れるだろう。嬉しい。私は湯を入れるために風呂場に入った。湯船にいたのはあの日見た少年だった。私は悲鳴をあげそうになったが、なんとか持ち堪えた。疲れているのだろうか。少年の下半身は魚になっており、おとぎばなしの人魚のような姿をしていた。こんなはっきり幻覚を見るなんてどうかしている。もう一度確かめてくる。
………
いた。
6月12日 晴
記憶にないがあの日私は海で人魚を連れ帰ってしまったらしい。そんな非科学的な、非現実的なことがあっていいのだろうか?
6月13日 曇
人魚は海で暮らしているからおそらく海鮮物を食べるのだろうと刺身を買ってきたが、食べない。ジェスチャーで口移しをしろと言っている気がするが、流石にそれはできない。腹が空いたら食べるだろうと、食べさせるのは諦めて刺身を風呂の蓋の上に置いた。
6月14日 曇
人魚が食事を取らない。
6月15日
仕方なく口移しで食べさせたらキスをしてきた。しかも深いやつだ。離れようにも人魚はその少年のような見た目とは裏腹に力強く離れられない。人魚が刺身を食べた後、ようやく解放された。口の中が生臭くて最悪だ。人魚はうっそり笑っていた。
6月16日 晴
次の休日人魚を海に返そうと思う。
6月17日 雨
雨だったが人魚を海に返そうと思った。しかし、気が付いたら夜になっていた。人魚は肉を食べていた。冷蔵庫にはなんの肉かわからない肉が沢山入っていた。記憶がない。何がなんだかわからない。身体は一仕事終えたかのように疲れていたので、早い目に寝た。
6月21日 晴
人魚が細い声で歌を歌っていた。声が出せたのか。てっきり話せないものだと思っていた。人魚はあの肉が気に入ったようで、肉を食べさせた。
6月24日 晴
人魚に話しかけられた。名前を聞かれたので三宮太志と答えたら「じゃああだ名はフトミミさんですね」と言われた。そんなあだ名をつけられたのは初めてだったが、妙にしっくりくると思った。人魚には今日もあの肉を食べさせた。
6月25日 晴
そういえば人魚の名前はなんだろうと尋ねてみた。難しい顔をした後に「ヒトシュラ」と答えた。変わった響きだ。それにしてもこんな狭い浴槽にいては動けず健康に悪そうだ。海に帰りたくないのかと聞いたら「帰らない」と答えた。
6月26日 晴
ヒトシュラと何気ない話をするのが癒しになっていることに気がついた。しかし、ヒトシュラのためには海に帰した方がいいだろう。今日もヒトシュラは肉を食べた。残りの肉が無くなったら次は何を与えようか。この肉は豚肉に似ている。多分豚肉。
6月27日 曇
仕事でミスを押し付けられた。ヒトシュラに愚痴をはいたら頭を撫でられた。子供の時以来か、いや子供の頃にも頭を撫でられた記憶はない。はじめてかもしれない。
6月28日 曇
ヒトシュラが来てから湯に浸かれていない。シャワーですませている。久々に湯に浸かりたいから銭湯にでも行こうかなとヒトシュラに話したら、ヒトシュラは湯でも平気だと言われた。
6月29日 雨
湯を張ったらヒトシュラが火傷をした。すぐに湯を抜いた。どうして平気だなんて嘘をついたのかと聞くと「フトミミさんと一緒に入りたかった」と健気な事を言うから叱るに叱れなくなった。肉がだいぶ少なくなってきた。
6月30日 晴
ヒトシュラの火傷は1日で治った。人魚の怪我の治りは早いのだとヒトシュラは自慢気だった。もう2度とあんな無茶はするなと言い聞かせた。「なら一緒に湯船に入ってください」と言うので水風呂に入った。
7月1日 晴
軽い風邪をひいた。鼻風邪だったので出社はできたが、あの水風呂が原因だろう。
7月2日 雨
風邪が悪化した。なんとか会社には休みの連絡を入れた。
変な夢を見た、ヒトシュラに口移しで生臭い液体を飲まされる夢だ。熱が見せた悪夢だろう。(と、思っていたが翌日、浴室からリビングまで水の後が残っていた。夢じゃなかったらしい)
7月3日 晴
昨日の風邪が嘘のように治った。ヒトシュラは私に、病人に粥を食べさせるように肉を噛み砕いたものを食べさせたのだろうか?液体だった気がするが。ヒトシュラに聞いても曖昧に笑うだけで教えてはくれなかった。肉が残り少ない。
7月4日 曇
嫌な同僚に風邪ではなく仮病ではないかという内容の遠回しな嫌味を言われた。そんなつまらない話もヒトシュラは笑顔で聞いてくれる。肉が残りわずかだ。
7月9日 雨
ここ最近休みの日は雨続きな気がする。洗濯物や部屋の掃除をしたかったのに起きたら夕方で驚いた。寝過ぎたせいか身体が怠い。ヒトシュラに肉をやろうと思ったら冷蔵庫の中の肉が増えていた。……肉が分裂したのだろうか。
7月11日 雨
嫌な同僚が無断欠勤したらしい。電話にも出ないそうだ。ミイラ取りがミイラではないが因果応報か?
7月12日 曇
やけにゴミが多いが自室のゴミ箱に見たことのない服が捨ててあった。不気味だ。しかし、部屋に強盗が入ったとしても物を取らずに服を捨てるだけなんてあるだろうか?最近記憶が飛ぶ事があるからストレスで意味不明な行動をしているのかもしれない。無意識で古着屋で服を買ってきてそれをそのまま捨てたとか?
7月13日 晴
同僚は昨日も無断欠勤で、上司はそいつの家に行ったそうだ。結果、家の中には誰もいなかったらしい。嫌なやつだったが、ストレスでおかしくなってどこかに行ったのかも知れない。だとしたら少し同情する。自殺とか、死んでないといいが。社長に睨まれた気がするが、気のせいであって欲しい。元から目つきの鋭い人だ。ただこちらを見ただけかも知れない。
7月16日 曇
同僚が居なくなった日、その日に同僚が着ていた服の特徴を聞いた時、どこかで見た事があるような気がした。記憶を辿ると以前自室のゴミ箱に捨ててあった見知らぬ服がそうだった。グレーのシャツに水色のジーンズ。ありきたりな組み合わせだ。今日も社長に睨まれた気がする。肉はまだある。
7月18日 晴
いなくなった同僚には悪いが、彼がいないと仕事が捗る。だが今日も社長に睨まれた。3回も、ということは気のせいじゃないだろう。ヒトシュラにその事を伝えると社長の髪型を聞いてきた。何故だろうか。答えると神妙な顔をしていた。肉はまだある…と思っていたが、いつのまにか少なくなっていた。
7月19日 雨
スーパーで豚肉が安かったので買ってきてヒトシュラに食べさせようとした。そしたらヒトシュラに豚肉は寄生虫がいるから火を通した方がいいと言われた。じゃあいつも君が生で食べてる肉は何なんだと聞いたら人の肉だと言われた。
7月24日 雨
冷蔵庫の肉が無くなった。
7月26日 雨
今度は上司がいなくなった。
7月27日 雨
社長に意味のわからない事を言われた。
7月30日 曇
人魚は人の肉を喰う。
私が殺して用意していた。
社長の言う通り私は殺人鬼だ。
ーーーーーーーー
◉録音 ▶︎再生
ピロン ジッー
「この世界があまりにも人間の都合の良いように出来ていると、そう感じた事はありませんか?人だけ知能が高いのがいい例ですよ。
……補正されてるんです。
でもその補正は人だけのものではありません。人魚が人を食べているにもかかわらず、未だその正体が人にバレていないのもその為です。逆に悪い補正がかけられている者もいますよ。補正というか、呪いですよね。
え、山にドライブ? どうして急に…もしかして人間の求愛行動ってそういう感じなんですか? 車の中で小さな火を2人で見るんですね。ロマンチックですね。楽しみです…」
ジー ピロン
ーーーーーーーー
7月31日 雨
ヒトシュラは人を殺して食べることに何の罪悪感もない。人が豚を食べるのと同じだ。だが、私には耐えられない。何も分かっていない彼を殺すのは良心が痛むが、私には彼を海に返すことも彼に運ぶ肉を殺すこともできない。これが最後の日記になる。警察の人が読んだらきっと精神の異常を疑われるだろう。もしくは呪いでこの日記自体消えるのか?そうしたらヒトシュラの死体も消えてしまうのだろうか…。
あの日の私はどうかしていた。(この日記は後日書いている)仕事のストレスでいつものように酒を飲むでもなく「そうだ大声を出そう」と急に思いたち、車を海まで走らせた。大声を出すならカラオケでも良かったはずなのに。そうして行き着いた海で奇妙なものを見た。夜の海で泳ぐ顔まで刺青の入った少年だ。生きた人間だったのか、幽霊だったのか。そんなものを見たせいかその後の記憶は曖昧だ。無事に家には帰れたみたいで、自宅で目が覚めた。
6月11日 曇
今心を落かせるためにこれを書いている。
今日は久々に定時に帰れた。繁忙期が終わったので暫くは定時に帰れるだろう。嬉しい。私は湯を入れるために風呂場に入った。湯船にいたのはあの日見た少年だった。私は悲鳴をあげそうになったが、なんとか持ち堪えた。疲れているのだろうか。少年の下半身は魚になっており、おとぎばなしの人魚のような姿をしていた。こんなはっきり幻覚を見るなんてどうかしている。もう一度確かめてくる。
………
いた。
6月12日 晴
記憶にないがあの日私は海で人魚を連れ帰ってしまったらしい。そんな非科学的な、非現実的なことがあっていいのだろうか?
6月13日 曇
人魚は海で暮らしているからおそらく海鮮物を食べるのだろうと刺身を買ってきたが、食べない。ジェスチャーで口移しをしろと言っている気がするが、流石にそれはできない。腹が空いたら食べるだろうと、食べさせるのは諦めて刺身を風呂の蓋の上に置いた。
6月14日 曇
人魚が食事を取らない。
6月15日
仕方なく口移しで食べさせたらキスをしてきた。しかも深いやつだ。離れようにも人魚はその少年のような見た目とは裏腹に力強く離れられない。人魚が刺身を食べた後、ようやく解放された。口の中が生臭くて最悪だ。人魚はうっそり笑っていた。
6月16日 晴
次の休日人魚を海に返そうと思う。
6月17日 雨
雨だったが人魚を海に返そうと思った。しかし、気が付いたら夜になっていた。人魚は肉を食べていた。冷蔵庫にはなんの肉かわからない肉が沢山入っていた。記憶がない。何がなんだかわからない。身体は一仕事終えたかのように疲れていたので、早い目に寝た。
6月21日 晴
人魚が細い声で歌を歌っていた。声が出せたのか。てっきり話せないものだと思っていた。人魚はあの肉が気に入ったようで、肉を食べさせた。
6月24日 晴
人魚に話しかけられた。名前を聞かれたので三宮太志と答えたら「じゃああだ名はフトミミさんですね」と言われた。そんなあだ名をつけられたのは初めてだったが、妙にしっくりくると思った。人魚には今日もあの肉を食べさせた。
6月25日 晴
そういえば人魚の名前はなんだろうと尋ねてみた。難しい顔をした後に「ヒトシュラ」と答えた。変わった響きだ。それにしてもこんな狭い浴槽にいては動けず健康に悪そうだ。海に帰りたくないのかと聞いたら「帰らない」と答えた。
6月26日 晴
ヒトシュラと何気ない話をするのが癒しになっていることに気がついた。しかし、ヒトシュラのためには海に帰した方がいいだろう。今日もヒトシュラは肉を食べた。残りの肉が無くなったら次は何を与えようか。この肉は豚肉に似ている。多分豚肉。
6月27日 曇
仕事でミスを押し付けられた。ヒトシュラに愚痴をはいたら頭を撫でられた。子供の時以来か、いや子供の頃にも頭を撫でられた記憶はない。はじめてかもしれない。
6月28日 曇
ヒトシュラが来てから湯に浸かれていない。シャワーですませている。久々に湯に浸かりたいから銭湯にでも行こうかなとヒトシュラに話したら、ヒトシュラは湯でも平気だと言われた。
6月29日 雨
湯を張ったらヒトシュラが火傷をした。すぐに湯を抜いた。どうして平気だなんて嘘をついたのかと聞くと「フトミミさんと一緒に入りたかった」と健気な事を言うから叱るに叱れなくなった。肉がだいぶ少なくなってきた。
6月30日 晴
ヒトシュラの火傷は1日で治った。人魚の怪我の治りは早いのだとヒトシュラは自慢気だった。もう2度とあんな無茶はするなと言い聞かせた。「なら一緒に湯船に入ってください」と言うので水風呂に入った。
7月1日 晴
軽い風邪をひいた。鼻風邪だったので出社はできたが、あの水風呂が原因だろう。
7月2日 雨
風邪が悪化した。なんとか会社には休みの連絡を入れた。
変な夢を見た、ヒトシュラに口移しで生臭い液体を飲まされる夢だ。熱が見せた悪夢だろう。(と、思っていたが翌日、浴室からリビングまで水の後が残っていた。夢じゃなかったらしい)
7月3日 晴
昨日の風邪が嘘のように治った。ヒトシュラは私に、病人に粥を食べさせるように肉を噛み砕いたものを食べさせたのだろうか?液体だった気がするが。ヒトシュラに聞いても曖昧に笑うだけで教えてはくれなかった。肉が残り少ない。
7月4日 曇
嫌な同僚に風邪ではなく仮病ではないかという内容の遠回しな嫌味を言われた。そんなつまらない話もヒトシュラは笑顔で聞いてくれる。肉が残りわずかだ。
7月9日 雨
ここ最近休みの日は雨続きな気がする。洗濯物や部屋の掃除をしたかったのに起きたら夕方で驚いた。寝過ぎたせいか身体が怠い。ヒトシュラに肉をやろうと思ったら冷蔵庫の中の肉が増えていた。……肉が分裂したのだろうか。
7月11日 雨
嫌な同僚が無断欠勤したらしい。電話にも出ないそうだ。ミイラ取りがミイラではないが因果応報か?
7月12日 曇
やけにゴミが多いが自室のゴミ箱に見たことのない服が捨ててあった。不気味だ。しかし、部屋に強盗が入ったとしても物を取らずに服を捨てるだけなんてあるだろうか?最近記憶が飛ぶ事があるからストレスで意味不明な行動をしているのかもしれない。無意識で古着屋で服を買ってきてそれをそのまま捨てたとか?
7月13日 晴
同僚は昨日も無断欠勤で、上司はそいつの家に行ったそうだ。結果、家の中には誰もいなかったらしい。嫌なやつだったが、ストレスでおかしくなってどこかに行ったのかも知れない。だとしたら少し同情する。自殺とか、死んでないといいが。社長に睨まれた気がするが、気のせいであって欲しい。元から目つきの鋭い人だ。ただこちらを見ただけかも知れない。
7月16日 曇
同僚が居なくなった日、その日に同僚が着ていた服の特徴を聞いた時、どこかで見た事があるような気がした。記憶を辿ると以前自室のゴミ箱に捨ててあった見知らぬ服がそうだった。グレーのシャツに水色のジーンズ。ありきたりな組み合わせだ。今日も社長に睨まれた気がする。肉はまだある。
7月18日 晴
いなくなった同僚には悪いが、彼がいないと仕事が捗る。だが今日も社長に睨まれた。3回も、ということは気のせいじゃないだろう。ヒトシュラにその事を伝えると社長の髪型を聞いてきた。何故だろうか。答えると神妙な顔をしていた。肉はまだある…と思っていたが、いつのまにか少なくなっていた。
7月19日 雨
スーパーで豚肉が安かったので買ってきてヒトシュラに食べさせようとした。そしたらヒトシュラに豚肉は寄生虫がいるから火を通した方がいいと言われた。じゃあいつも君が生で食べてる肉は何なんだと聞いたら人の肉だと言われた。
7月24日 雨
冷蔵庫の肉が無くなった。
7月26日 雨
今度は上司がいなくなった。
7月27日 雨
社長に意味のわからない事を言われた。
7月30日 曇
人魚は人の肉を喰う。
私が殺して用意していた。
社長の言う通り私は殺人鬼だ。
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◉録音 ▶︎再生
ピロン ジッー
「この世界があまりにも人間の都合の良いように出来ていると、そう感じた事はありませんか?人だけ知能が高いのがいい例ですよ。
……補正されてるんです。
でもその補正は人だけのものではありません。人魚が人を食べているにもかかわらず、未だその正体が人にバレていないのもその為です。逆に悪い補正がかけられている者もいますよ。補正というか、呪いですよね。
え、山にドライブ? どうして急に…もしかして人間の求愛行動ってそういう感じなんですか? 車の中で小さな火を2人で見るんですね。ロマンチックですね。楽しみです…」
ジー ピロン
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7月31日 雨
ヒトシュラは人を殺して食べることに何の罪悪感もない。人が豚を食べるのと同じだ。だが、私には耐えられない。何も分かっていない彼を殺すのは良心が痛むが、私には彼を海に返すことも彼に運ぶ肉を殺すこともできない。これが最後の日記になる。警察の人が読んだらきっと精神の異常を疑われるだろう。もしくは呪いでこの日記自体消えるのか?そうしたらヒトシュラの死体も消えてしまうのだろうか…。
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