オリジナル
獣人の国と人間の国が戦争をしていた時代の話だ。
人間の国の歩兵は悪夢に悩まされていた。それは肉体強化の魔法薬の副作用によるものだ。筋肉に作用するその薬は、筋肉を緊張させ結果睡眠が浅くなり悪夢を見てしまう。その副作用を中和しようにも、リラックス系の魔法薬は強化系のものとの相性が悪い。しかし、早々に解決しなければ疲労が回復されず戦力にならない。
困り果てた歩兵たちを救ったのは、団長が連れてきた細身の男だった。
男は夢を操ることができる、夢操者(ゆめそうしゃ)なのだと云う。夢操者は踊り子の様な顔布をしており、服装はゆったりとした布で全身を覆うような服を着ている。頭も布で覆われており、見える肌は目元だけ。紅い瞳は紫の長い睫毛で伏せられている。
彼は真夜中、兵達が寝静まる頃、宿舎を練り歩く。変わった形の手鐘を持ち、一定間隔でリーンと鳴らす。その音で夢を操り悪夢を散らすのだ。
夢操者が来てから兵たちは悪夢を見なくなり、以前のような活気が戻ってきた。質の良い睡眠が取れるようになると余裕ができ、他の三大欲求も満たしたいと思うようになるのが人の性(さが)。夜にはドア一枚隔てた廊下に麗しい目元の麗人が……、何も起こらない筈もなく……。
性欲を持て余し夢操者に手を出そうとした不届き者がハッと目を覚ますと、そこには見慣れた天井があった。昨夜の事を思い出そうにも思い出せない。首を傾げながらも下半身の不快感に顔をしかめる。下着の中を見るとそこには精液がべっとりとついていた。その後、不届き者は夢操者に対して二度と不埒な考えを持つことはなかった。
その日の夜も夢操者は手鐘を鳴らし、宿舎を練り歩いていた。邪な考えを持つ不届き者は粗方返り討ちにし、もう無体を働こうとする者はいなくなっていたーーと思っていた。
夢操者がその部屋の前を通り過ぎようとした時、素早くドアが開きあっという間に部屋の中に引き摺り込まれた。部屋の主は夢操者を背後から拘束し、頭の布を剥いだ。睫毛と同じ色の絹の様な長髪がさらりと広がる。夢操者は焦っていた。夢を操り男を昏睡させようとしようにも何かに拒まれて上手くいかない。男が耳元で囁くように話す。
「お前獣臭くてバレバレなんだけど、人間の軍で何しようとしてたワケぇ?」
「な、何言って……」
「お前獣人だろ? 臭いもそうだけど、耳もそうじゃん」
「ひっ」
男は夢操者を拘束しつつも、器用にその耳を弄った。そこには人のものではない、丸く凹凸のない耳があった。
「敵国の密偵か? ならここで殺すけど」
「違う! やだっ、やめて!」
暴れようにも男の力が強すぎて拘束を解くことが出来ない。それならばと夢を操ろうとするが、それも上手くいかない。
「な、何故?! どうして効かないッ」
「なーんか鬱陶しいなあって思ったけどぉ、お前耳といい、アレか? 獏か?」
図星を突かれた夢操者は言葉を失う。
「あはっはぁ、ごめんねぇ。俺さぁ、夢魔だから♡」
人間の国の歩兵は悪夢に悩まされていた。それは肉体強化の魔法薬の副作用によるものだ。筋肉に作用するその薬は、筋肉を緊張させ結果睡眠が浅くなり悪夢を見てしまう。その副作用を中和しようにも、リラックス系の魔法薬は強化系のものとの相性が悪い。しかし、早々に解決しなければ疲労が回復されず戦力にならない。
困り果てた歩兵たちを救ったのは、団長が連れてきた細身の男だった。
男は夢を操ることができる、夢操者(ゆめそうしゃ)なのだと云う。夢操者は踊り子の様な顔布をしており、服装はゆったりとした布で全身を覆うような服を着ている。頭も布で覆われており、見える肌は目元だけ。紅い瞳は紫の長い睫毛で伏せられている。
彼は真夜中、兵達が寝静まる頃、宿舎を練り歩く。変わった形の手鐘を持ち、一定間隔でリーンと鳴らす。その音で夢を操り悪夢を散らすのだ。
夢操者が来てから兵たちは悪夢を見なくなり、以前のような活気が戻ってきた。質の良い睡眠が取れるようになると余裕ができ、他の三大欲求も満たしたいと思うようになるのが人の性(さが)。夜にはドア一枚隔てた廊下に麗しい目元の麗人が……、何も起こらない筈もなく……。
性欲を持て余し夢操者に手を出そうとした不届き者がハッと目を覚ますと、そこには見慣れた天井があった。昨夜の事を思い出そうにも思い出せない。首を傾げながらも下半身の不快感に顔をしかめる。下着の中を見るとそこには精液がべっとりとついていた。その後、不届き者は夢操者に対して二度と不埒な考えを持つことはなかった。
その日の夜も夢操者は手鐘を鳴らし、宿舎を練り歩いていた。邪な考えを持つ不届き者は粗方返り討ちにし、もう無体を働こうとする者はいなくなっていたーーと思っていた。
夢操者がその部屋の前を通り過ぎようとした時、素早くドアが開きあっという間に部屋の中に引き摺り込まれた。部屋の主は夢操者を背後から拘束し、頭の布を剥いだ。睫毛と同じ色の絹の様な長髪がさらりと広がる。夢操者は焦っていた。夢を操り男を昏睡させようとしようにも何かに拒まれて上手くいかない。男が耳元で囁くように話す。
「お前獣臭くてバレバレなんだけど、人間の軍で何しようとしてたワケぇ?」
「な、何言って……」
「お前獣人だろ? 臭いもそうだけど、耳もそうじゃん」
「ひっ」
男は夢操者を拘束しつつも、器用にその耳を弄った。そこには人のものではない、丸く凹凸のない耳があった。
「敵国の密偵か? ならここで殺すけど」
「違う! やだっ、やめて!」
暴れようにも男の力が強すぎて拘束を解くことが出来ない。それならばと夢を操ろうとするが、それも上手くいかない。
「な、何故?! どうして効かないッ」
「なーんか鬱陶しいなあって思ったけどぉ、お前耳といい、アレか? 獏か?」
図星を突かれた夢操者は言葉を失う。
「あはっはぁ、ごめんねぇ。俺さぁ、夢魔だから♡」