オリジナル
今年、異世界から来た神子クンは、月に帰った私の弟と同じ色の目をしていた。
彼の目は月を閉じ込めた様な淡く光るこがね色をしている。夜の帳をそのまま下ろした群青の髪によく映える。本物の月とは違い、彼の目は手を伸ばせば届く距離にある。私はそれが欲しくて欲しくて欲しくて欲しくて…。だから神子クンに会う度に、ちょうだいって言ってたら、第三王子クンや騎士クンや魔術師クンに殴られたり蹴ったりボコボコにされた。「世界を安定させるための神聖な神子に何をするのだ無礼者」と。それでもちょうだいって言い続けてたら神子クンに一人で会うことを禁止された。神子クンに会う時は誰かしらが神子クンの側にいて、私が近づくことは許されない。
それなのに神子クンが一人で私の部屋に来てくれたから、とっても嬉しかった。…私から会いに行ったわけじゃないからセーフだよね?
コンコンと控えめなノックの後、彼は私の部屋に臆することなく入ってきた。
「こんばんは、神子クン。こんな真夜中に一人で出歩いたら危ないよ?」
「大丈夫です。オレ、こう見えて鍛えてるんで。」
「ふーん。私に会いに来てくれるなんて嬉しいよ。で、ついに目玉をくれる気になったの?」
「……。…そう、です。」
「えっ、ほんとうに?嬉しい!」
「でも、タダでは渡しません。術師さんの左手の薬指と交換です。」
「別にいいけど、私の指なんかキレイでもなんでもないよ。そんなもの欲しがるなんて変わってるね。いいの?」
「いいんですよ。オレ以外の神子が、貴方の指を手に入れるのが耐えられないだけですから。」
神子がこの世界にいられるのは約一年間。そして次の神子を呼ぶための術式を創るのに同じく一年かかる。神子は一年周期で変わるのだ。私はその術式を創るために城に住んでいる。育ての親も同じ仕事しており、子供の頃も一時期だけ城に住んでいた。
「私の指を欲しがるモノ好きなんていないさ。」
「今は…今まではそうだったかもしれませんが、次の神子が欲しがるかもしれません。いえ、きっと欲しがります。」
「あっそう。でもさー、私はきっと神子クン以外の神子に指はあげないよ。みんな交換できるものを持ってないから。…神子クン、君のように月の目を持つ人を私はあと一人しか知らない。」
「…誰ですか?」
「僕の弟だよ。ずいぶん昔に月に帰っちゃったんだ。」
「そう…。」
「ねぇ、早くちょうだい。君の気が変わると困る。」
「ダメです。先に貴方の指をください。」
そう言うと彼はナイフを取り出して僕の左手首を痛いくらいに握りしめ、ナイフを薬指の付け根につき立て――……。
「術師さん!」
「神子チャンこんにちは。」
「術師さんの左手の薬指ください!」
「やだよ。」
「ケチィ!!」
やだやだと駄々をこねる神子チャンにげんなりしながら、余計な予言を残した神子クンを恨めしく思う。
「だいたいなんなんですか、その薬指の傷跡!結婚指輪みたいな!ワタシも術師さんの薬指がほしいぃっ!」
「ケッコンユビワ?何それ。」
「え?こっちにはそういう習慣ないんですか?結婚指輪ってのはですね……――。」
神子クンが私の部屋に来た日、結局彼は私の指を切り落とすことは出来なかった。痛みに泣く私に怖気づいた彼は、私の指に傷跡を残しただけだった。
「はぁあ…術師さんの黄色とピンクの目、素敵です!やっぱり異世界ファンタジーなら左右で目の色が違うとかなんでもアリなんですね!」
「いや、これは生まれつきじゃないよ。前の神子に貰ったの。」
「はあ!?並行世界の自分と言えどそんなエモエモでヤンデレなことしてるなんて許せません!」
「ヘーコーセカイ?emoemo?やんでれ?」
「あぁ!はてなはてなって感じの術死さんも素敵です!抱いて!」
「やだぁ。」
「ケチィ!!!!」
元気な神子チャンの駄々が今日も城中に響き渡る。うんざりするね。
あとがき
術師さんの性別は決まってません。作者としては無性か男性かなと考えてますが。小説の面白いところは、そういう書かれていない部分を読む側で決められるところだと思います。
彼の目は月を閉じ込めた様な淡く光るこがね色をしている。夜の帳をそのまま下ろした群青の髪によく映える。本物の月とは違い、彼の目は手を伸ばせば届く距離にある。私はそれが欲しくて欲しくて欲しくて欲しくて…。だから神子クンに会う度に、ちょうだいって言ってたら、第三王子クンや騎士クンや魔術師クンに殴られたり蹴ったりボコボコにされた。「世界を安定させるための神聖な神子に何をするのだ無礼者」と。それでもちょうだいって言い続けてたら神子クンに一人で会うことを禁止された。神子クンに会う時は誰かしらが神子クンの側にいて、私が近づくことは許されない。
それなのに神子クンが一人で私の部屋に来てくれたから、とっても嬉しかった。…私から会いに行ったわけじゃないからセーフだよね?
コンコンと控えめなノックの後、彼は私の部屋に臆することなく入ってきた。
「こんばんは、神子クン。こんな真夜中に一人で出歩いたら危ないよ?」
「大丈夫です。オレ、こう見えて鍛えてるんで。」
「ふーん。私に会いに来てくれるなんて嬉しいよ。で、ついに目玉をくれる気になったの?」
「……。…そう、です。」
「えっ、ほんとうに?嬉しい!」
「でも、タダでは渡しません。術師さんの左手の薬指と交換です。」
「別にいいけど、私の指なんかキレイでもなんでもないよ。そんなもの欲しがるなんて変わってるね。いいの?」
「いいんですよ。オレ以外の神子が、貴方の指を手に入れるのが耐えられないだけですから。」
神子がこの世界にいられるのは約一年間。そして次の神子を呼ぶための術式を創るのに同じく一年かかる。神子は一年周期で変わるのだ。私はその術式を創るために城に住んでいる。育ての親も同じ仕事しており、子供の頃も一時期だけ城に住んでいた。
「私の指を欲しがるモノ好きなんていないさ。」
「今は…今まではそうだったかもしれませんが、次の神子が欲しがるかもしれません。いえ、きっと欲しがります。」
「あっそう。でもさー、私はきっと神子クン以外の神子に指はあげないよ。みんな交換できるものを持ってないから。…神子クン、君のように月の目を持つ人を私はあと一人しか知らない。」
「…誰ですか?」
「僕の弟だよ。ずいぶん昔に月に帰っちゃったんだ。」
「そう…。」
「ねぇ、早くちょうだい。君の気が変わると困る。」
「ダメです。先に貴方の指をください。」
そう言うと彼はナイフを取り出して僕の左手首を痛いくらいに握りしめ、ナイフを薬指の付け根につき立て――……。
「術師さん!」
「神子チャンこんにちは。」
「術師さんの左手の薬指ください!」
「やだよ。」
「ケチィ!!」
やだやだと駄々をこねる神子チャンにげんなりしながら、余計な予言を残した神子クンを恨めしく思う。
「だいたいなんなんですか、その薬指の傷跡!結婚指輪みたいな!ワタシも術師さんの薬指がほしいぃっ!」
「ケッコンユビワ?何それ。」
「え?こっちにはそういう習慣ないんですか?結婚指輪ってのはですね……――。」
神子クンが私の部屋に来た日、結局彼は私の指を切り落とすことは出来なかった。痛みに泣く私に怖気づいた彼は、私の指に傷跡を残しただけだった。
「はぁあ…術師さんの黄色とピンクの目、素敵です!やっぱり異世界ファンタジーなら左右で目の色が違うとかなんでもアリなんですね!」
「いや、これは生まれつきじゃないよ。前の神子に貰ったの。」
「はあ!?並行世界の自分と言えどそんなエモエモでヤンデレなことしてるなんて許せません!」
「ヘーコーセカイ?emoemo?やんでれ?」
「あぁ!はてなはてなって感じの術死さんも素敵です!抱いて!」
「やだぁ。」
「ケチィ!!!!」
元気な神子チャンの駄々が今日も城中に響き渡る。うんざりするね。
あとがき
術師さんの性別は決まってません。作者としては無性か男性かなと考えてますが。小説の面白いところは、そういう書かれていない部分を読む側で決められるところだと思います。