数日間、サトシは病室のベットの上でぼんやりと病室の窓から見える青空を眺めながら過ごしている。

「・・・・・・いつまでもここにいたくないな」
「ピィカ？(何か言った？)」

サトシの呟きにピクリと耳を立て、ピカチュウはサトシを見上げる。
サトシはゆっくりとピカチュウに視線を合わせ、にっこりと笑みを浮かべて見せた。

「・・・・・・ずっと君と一緒にいられるかな？」
「ピカ！(もちろんだよ！)」
「そうだよね。ずっと一緒だよ」
「ピ！(うん！)」

サトシはピカチュウの頭を撫でながら、誓いに近い約束をすると無性に散歩をしたくなった。

「ピカチュウ、散歩でも行こうか」
「ピィカ！(うん！)」

サトシの誘いにピカチュウは元気よく頷き、病院内にある喉かな庭へ移動し散歩を楽しむ。

「ここは落ち着いてるなあ」
「ピィカ！(そうだね！)」
「でも、何かが足りない」

サトシが俯き悲しそうな表情を浮かべていると、ピカチュウがピトッと何かを伝えるように寄り添う。

「ピィカピカ！(それはサトシがポケモントレーナーだからだよ！)」
「・・・・・・」
「ピィカピィカ！(君はいろんな所を旅していたんだよ！)」
「・・・旅？」
「ピィカ！(そう！)」
「楽しそうだね。早く思い出したい。君の言う旅の事も」

サトシがにっこりと笑いかけながら、ピカチュウを抱き上げ散歩を楽しむ。

随分と歩いている内に小さな段差がいくつもある場所に辿り着き、サトシは一瞬余所見をして足を踏み外した。
その衝撃でサトシは数段、階段を転げ落ちグッタリと横たわる。サトシは頭に衝撃を受けて身動き一つ取れずにいると、ピカチュウが慌てて駆け寄りサトシの身体をゆさゆさと揺する。だが目覚める様子がないため、ピカチュウは自分一人では無理だと判断し担当医師を呼びに行く。

ピカチュウが医師を呼び出してどれぐらい経っただろうか。

サトシが目を覚ました時には病室のベットの上で定まらない目線で天井を見つめていると、ピカチュウが心配そうな表情で覗き込んだ。その視線にサトシは胸を押し潰されそうになる錯覚を覚え、安心させたくて口を開いた。

「ピカチュウ、そんな顔をしないでくれよ」

サトシはピカチュウの頬に手を添え、悲しそうな表情で見つめる。

「ピィカ・・・(だってサトシが・・・)」
「もうオレは大丈夫だよ」
「ピィカ！(でも！)」
「大丈夫だから」
「ピィカ・・・ピ？(それでも・・・ん？)」

ピカチュウは目一杯に涙を溜めていたせいでサトシの表情が歪んで見えていたのと、心が乱れていたせいでサトシの変化に気付くのが遅くれた。

「ピィカ？(サトシ？)」
「なんだ？」
「ピィカピカ？(僕の事、分かるの？)」
「当たり前だろ？お前はオレの大切な相棒なんだから」
「ピィカ！(サトシ！)」

サトシが自分の事を覚えていると知ってピカチュウは思いっきりサトシに抱きついた。いきなりサトシの胸に飛び込んで来たピカチュウに驚き目を見開くサトシだったが、そのまま優しくあやす様に背中を撫でる。
その温かい手にピカチュウは我慢していた涙も想いも全て流し出す。その間、サトシはただずっとピカチュウの傍にいて、背中を撫で続けていた。

その後、タケシ達が見舞いにやって来た時にサトシの記憶が戻っている事を知ると自分の事のように大喜びした。
そして、サトシはすぐにでも旅立ちたいと言い出したが大事を取って、二・三日病院で様子を見る事にしたがその後、何事もなく再び旅立つこととなった。


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