サトシ達は紹介された病院に着くと早々、サトシは詳しい検査を受けるために忙しい。いくつかの検査を終えて、診察室で医師がサトシの検査結果をタケシ達に告げている。

「あなた方の話や検査の結果、サトシさんは外因性の逆向性健忘でしょう」
「外因性の逆向性健忘？」
「そうですね。簡単に説明しますと外因性の逆向性健忘は、頭部への衝撃によって引き起こされた記憶喪失の事です」
「あの、よくいいますよね。『記憶喪失になった原因と同じショックを与えれば元に戻る』って」

ヒカリの質問に医師は首を横に振った。

「脳細胞に損傷を負ったために記憶喪失になったので、同じような衝撃——ショック療法を行うのは禁物なんですよ」

医師の言葉にヒカリは驚いたように口元を手で隠し、肝心の事をタケシが医師に問いかける。

「サトシはいつ治るんですか？」

タケシの問いかけに医師は少し考えてから答えた。

「今は何とも言えません。とりあえずしばらくの間は入院していただきます」
「わかりました」

タケシの問いかけに、医師は少し考えてから言葉を選び答えるとタケシが頷き頭を下げて「頼みます」と伝え、医師はナースを呼びサトシを病室まで案内をする。
病室へと案内されたタケシ達はまずサトシをベッドに横たえると、ナースはまた来ると言い残し病室を後にした。

「サトシ、今はとりあえず寝ているといい」

タケシの言葉にベッドの上にいるサトシは素直に従い瞼を閉じた。ピカチュウはサトシの傍に駆け寄ると、擦り寄るようにして身体を丸めて眠る準備をする。

「ピカチュウはサトシと一緒にいるのか？」

タケシの問いかけにピカチュウはコクリと頷き居残る事を主張する。

「そうか。それじゃあ、俺達はもう帰るよ。サトシに負担をかけるわけにはいかないからな」
「そうね。それじゃあ、ピカチュウ。サトシの事、頼んだわよ？」
「ピカチュウ！」
「それじゃあ、また明日来るわね」

そうピカチュウに言うと、タケシとヒカリはそっと病室を出て行く。ピカチュウだけを残して―・・・

サトシは自分の傍を離れようとしないピカチュウを見つめた。

「どうして君はオレの傍にいてくれるの？」

サトシは横たわったまま、身体を丸めて眠る準備をしていたピカチュウに問いかける。

（当り前だよ。僕は君の事が大好きなんだから）
「ピィカ」
「・・・・・・ありがとう」
「チャア」

ピカチュウはサトシに擦り寄り甘えるような鳴き声を出した。

「君の声が聞こえるような気がするよ」
「チャア？」
「早く思い出したい。君の事も・・・全て」

記憶を無くしても、サトシとピカチュウの心が繋がっていると思った瞬間、ピカチュウの目からポロポロと涙が零れ落ちた。

（僕は君のその言葉だけでも・・・すごく嬉しいよ。でも叶うなら早く僕の事を思い出して———）

ピカチュウはギュッとサトシに抱き付いた。その温もりにサトシとピカチュウの心の中に少しずつ温かい想いが降り積もっていく——・・・