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僕の大事なトレーナー【ピカチュウ】

なかなか泣き止まないヒカリを落ち着かせるためにタケシはヒカリの背を優しく擦ってやると、暫くして気分が落ち着いてきたヒカリはサトシの身に起こった事をタケシとジョーイに説明する。

「サトシ・・・私の事、覚えてないの!」

ヒカリの言葉にタケシとジョーイは顔を見合わせた。

「それはもしかして?」
「そうじゃないかな」

ヒカリは暗い表情を浮かべたまま俯く。タケシとジョーイはヒカリからサトシに視線を移すと、ぼーっと窓から見える空を眺めているサトシがいた。
サトシの膝にはピカチュウが心配そうに、それでいて落胆したような表情を浮かべている。

「サトシ?」

タケシがサトシを呼びかけると、サトシはゆっくりとタケシの方へと振り返った。

「・・・・・・誰ですか?」
「・・・サトシ」

サトシは見ず知らずの人間を前に困惑している様子で、タケシは言葉を失う。だが、ジョーイは一歩前に進み出ると何かを見極めるようにサトシを見た。

「サトシ君」
「・・・・・・」
「自分の事、わかる?」

ジョーイの問いかけにサトシは首を横に振って自分の事も覚えていないのだと知らせる。その様子を見たジョーイはタケシ達の方へ振り返り、入院を進める。

「タケシ君、彼をちゃんとした病院に入院させた方がいいわ」
「・・・・・・そうですね」

ジョーイの話を聞いていたタケシは、チラリとサトシを見て頷いた。

「では、病院を紹介しますね」

サトシを入院させられそうな病院の紹介状を取りにカウンターまで戻って行くジョーイ。その後をタケシも着いて歩く。その場に残ったヒカリとピカチュウは不安な気持ちが晴れることはない。

「・・・・・・サトシ」
「ピィカ」

沈む気持ちの中で、サトシの名前だけが響いた。

(君は僕の事を忘れてしまったの?)

ピカチュウの瞳からは積を切ったようにポロポロと零れ落ちる雫に、サトシは気付いて涙を拭き取ってやる。

(どうして僕の事、忘れたのに・・・・・・どうしてこんなに優しいの?僕はどうしたらいいの?)

ピカチュウは自分の瞳から零れ落ちる涙を拭き取るサトシの手を見つめながら、そんな事を思った。

「ピカ・・・」

ピカチュウの鳴き声にサトシはピカチュウの涙を拭っていた手を宙で止め、ゆっくりと頭を撫でる。

(サトシ・・・・・・僕はいつだって君の傍にいるよ)

ピカチュウは頭を撫でられたまま、祈るようにサトシを見つめる。

(僕の言葉、サトシには届いてないよね?それでも僕は、ずっと・・・どんな事があっても君の傍を離れないよ)

じっとサトシを見つめているピカチュウにサトシは少しだけ笑みを浮かべる。

(!サトシが、笑った?)

サトシの微かな表情の変化にピカチュウは心の底から喜んだ。

「ピカ!」
「どうしたの?ピカチュウ」

いきなり声を上げて鳴き出したピカチュウにヒカリはキョトンと瞬きを繰り返し、声のした方へと振り返り首を傾げた。

「ピカチュウ、サトシに何かあったの?」

ヒカリはサトシに何か変化があったのかと思い、サトシの顔を覗き込んだが何の変化も見受けられない。それもそのはず、ヒカリがサトシの顔を覗き込む少し前に無表情に戻ってしまったからだ。
ヒカリは首を傾げながらも、タケシ達の方に視線を戻した。

「ピィカ?」

先程まで浮かべていたサトシの笑みが消えた事に不安を覚える。

(何で?何でさっきの笑顔を消しちゃうの?サトシ)

ピカチュウは悲しみに涙で歪む視界でサトシを見つめると徐に声が降りかかる。

「・・・・・・さっきから君は泣いてばかりだね」

ピカチュウの様子を見ていたサトシの呟きにピカチュウはギュッと瞼を閉じて勢いよくサトシの胸に飛び込んだ。

「ピィカ」

突然、自分の胸に飛び込んできたピカチュウの行動に目を白黒させているサトシだったが静かに小さな身体を抱き締めた。

(やっぱりサトシは優しいよ)

サトシの胸に顔を埋め、ポロポロと涙を零すピカチュウを慰めるように優しい手つきで背中を撫でてやる。
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