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第1夜~第7夜

【第2夜】


ゲンガーに連れられ、やってきた場所は「浅草」から離れた森の中――
クタリとした少年サトシはゲンガーの腕の中で眠っている。また、サトシが背負っているリュックからは電気ネズミのピカチュウがサトシの腹の上に移動し、川の方へ指差していた。

「ピカ!ピカピカ(ゲンガー!あそこに行って)」
「ゲン!(わかった!)」

川に到着すると、ピカチュウはサトシの腹から飛び降りると水面をパシャパシャと両手で叩き、何かを呼ぶ仕草をする。
静寂が辺りを包む中、それはやってきた――

川の中から水面に何かがやってくるような黒い影が近づいてきた。
そして、何かが水面から顔を出すと、大きな鳴き声を辺りに轟かせた。

「キュルルルゥウウ!!」

そのまま「何か」は黒い穴のようなものを開けたまま潜っていく。その後をピカチュウが追いかけ、一瞬、逡巡の後サトシを抱きかかえているゲンガーも穴の中に飛び込んだ。
ピカチュウとゲンガー、サトシが穴の中に入った後、穴は閉じ静寂が包まれる。

ゲンガーは唖然としていた。
川の中に飛び込んだはずなのに、辺りは水の中ではなく真っ暗闇の中だったからだ。何もないただただ暗闇が目前に広がる。その中を、ピカチュウと「何か」は暗闇を突き進む。ゲンガーは首を傾げながらもピカチュウたちの後を追いかけたのだった。

☆★☆

それからどのくらい暗闇を進んだことだろうか。
突然、暗闇だけの空間に、見知らぬ光景が広がる。
赤い屋根に風車、広い広い緑―――どこかの研究所のような―――そんな場所。
ゲンガーは見たこともない場所。だが、この場所に心当たりがあるようなのが一匹――それはピカチュウだ。

「ピィカ?(なんでオーキド研究所?)」
「ゲェン?(オーキド研究所?)」
「ピィカピカ。ピカピカチュウ(サトシの故郷の研究所。そして、僕とサトシが出会った場所)」
「ミュ?」

キョトンとした様子で研究所の庭に下り立ったピカチュウはこの世界でここにいるのもなんだかなぁと呟いていると、この場にいない鳴き声が響いた。そちらへ視線を向ければ、ベビーピンク色の身体に澄んだ水面のような瞳のポケモン、しんしゅポケモン【ミュウ】が現れた。

「ミュミュ(久しぶり、ピカチュウ)」
「ピィカ(久しぶり、ミュウ)」
「ゲンゲン?(知り合いか?)」
「ピカチュ(前にちょっとね)」

ミュウがピカチュウに挨拶をすると、ゲンガーの腕の中にいるサトシへ近づき顔を覗き込む。

「ミュ~ミュ(あちゃ~波動使っちゃたんだね)」
「ピィ(そうだよ)」
「?」

その時、サトシのポケモン――カイリューとリオル――がモンスターボールから出てくる。

「オルオル!(波動って僕と同じ!)」
「リュー?(波動?)」
「ミュウミュ(波動は生命エネルギーでもあるんだよ)」
「「「!?」」」

ミュウの言葉にピカチュウ以外が驚く。
「生命エネルギー」それを使ったことで、サトシに今どんなことが起こっているのか不安になる。

「ミュ~ミュウ?(まあ、今回はそんなに使ってないみたいだからもうじき目を覚ますんじゃないかな?)」

その言葉に心底ホッとした様子のポケモンたち。そんな時に――サトシが目を覚ましたようだ。

「うぅん」
「ピカ!(サトシ!)」
「あれ?オレ・・・」
「ピ!ピカチュウ!(もう!また無茶して!)」
「ごめんごめん。・・・ってあれ?」
「ミュウミュ~(久しぶりだねサトシ)」
「久しぶりミュウ。それからギラティナ」
「キュゥゥ(久しぶり)」

とても幻とは思えない人懐こさでサトシに接するミュウとギラティナ。サトシは考えることが苦手であるゆえに、どうしてここに2匹がいるのかあまり気にしていない様子で会えてうれしいよとにっこりと笑う。
サトシの笑顔に嬉しそうにする2匹だが、ミュウはサトシに釘を指すために現れたのだと思い出しキッとサトシを睨んで。

「ミュウミュ(サトシ、僕ね。君に言わないといけないことがあるんだ)」
「?」
「ミュウミュ(波動・・・君はあの時あの場にいたからわかってると思うけど)」

あの時、あの場所。という言葉にサトシは何を言わんとしているのか分かり、困った様子で頬を掻く。

「あはは。体が勝手に動いちゃったんだよな」

とっても小さい音量で呟くサトシはあの時の事はもちろん覚えている。
波動を使い過ぎるとどうなるのか――。
以前一時だけ行動を共にした波動ポケモンのルカリオが波動を使い切ってどうなったのか目の前で見てきたのだから。それでもサトシは考えるよりも身体が勝手に動いてしまうのだ。
ミュウはため息一つ零して、最近サトシの仲間になっただろうポケモンたちに聞かせるように告げる。

「ミュミュミュ(サトシ。波動は万能じゃないんだよ。使い過ぎれば、彼らみたいに死んでしまうんだ)」

ミュウの落ち着いた言葉にピカチュウとサトシ以外が目を見開いて驚いた。そして、一斉にサトシを見る。
今は元気そうな様子であるが、ミュウが言うようにサトシはポケモンのためなら身体を張ることも厭わない性格だと知っているから余計に心配になる。そして、決意する。絶対に守るのだと。
そんな中、ゲンガーは自分が捨てられた過去を持つが故に、「死」という別れがあるかもしれない事実に耐えられず、その場から逃げ出してしまった。

「あ!おい!ゲンガー!!」

サトシは慌てて追いかけようとするが、ミュウが引き留める。

「ミュミュミュ(君が無茶をしないように僕も君のそばにいることにするよ)」
「へ!?」

ミュウはサトシの腰ベルトから空のモンスターボールを見つけると何のためらいもなく、ボールを大きくして開閉ボタンを押した。
そうして、一揺れした後、ポンッとゲットした音と光を出し、サトシのポケモンとなった。
そんな流れるような行動を見ていたサトシのポケモンたちは驚いた。特にピカチュウは額にピキッと怒りマークが見えるのではないかという形相である。
心の中を覗けるのであればこんなこと言っているだろう「君が言う事かな!?」と。
何せ、あの時の原因の一つは自分とミュウであると記憶しているのだから――。
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