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第1夜~第7夜

サトシが稀血だとお館様から柱たちに伝えられてから、蝶屋敷には柱達が任務の合間にサトシを訪ねて来ていた。
そして、今日は炎柱である煉獄が弟――千寿郎と一緒にやって来た。

「やあ!僥倖か少年!!」
「お久しぶりです。サトシさん」

元気溌剌な大声で喋る炎柱と対照的な穏やかな声で話しかける弟の千寿郎。そして、千寿郎の手にはお見舞いの品であるお菓子を持ってきていた。それをサトシに手渡すと、色違いのガーディがとことことサトシたちに近づいていく。

「ガウ!」
「お!珍しいな」
「ん?」
「この子は?犬・・・ですか?」

千寿郎の言葉にサトシはガーディを抱き上げ、二カッと笑いかけると煉獄たちに紹介する。

「こいつは【ガーディ】!ピカチュウたちと同じでオレたちの世界にいるポケモンです!」
「よもや!ポケモン!!」
「犬のような姿をしているのですね」
「そして、こいつは炎タイプのポケモンです」

サトシがポケモンのタイプの話をしていると、にっこりと微笑みを浮かべ音もなく現れた蝶屋敷の主人、胡蝶しのぶが煉獄の背後に忍び寄った。

「煉獄さん」
「む!?」
「ここでは大声を上げないで下さいと何度も申し上げたと思うのですが?」

にっこりと笑ってはいるが青筋が浮かべ、ここをどこだと思っているのですかと話しかけるしのぶと、その様子をあわあわとし、かばりと頭を下げる千寿郎。

「すみません!蟲柱様!!」
「すまん!胡蝶」
「ふふふ。分かっていただけたならよかったです。ところで——」

素直に謝罪する煉獄兄弟ににっこりと笑いかけると、くるりとサトシに向きを変えるしのぶ。

「サトシさん。先ほど気になることをおっしゃいましたね」
「気になること?」
「ええ。炎タイプと先ほど聞こえましたが」
「はい!ポケモンにはそれぞれタイプがあるんです」

サトシは腕の中にいるガーディと肩に乗るピカチュウを指して教えることにした。

「こいつは炎タイプでピカチュウが電気タイプなんです。他にも・・・」
「オル?」
「リオルは格闘タイプで、ゲンガーはゴースト・毒タイプの複数で・・・」

いつの間にかサトシの足元にいたリオルや陰に隠れているゲンガーのタイプを教えていく。そんな時にどこともなくロトム図鑑が現れ他のタイプについても教えていく。

「タイプは他にもあるロト!ノーマル・草・水・氷・地面・岩・飛行・エスパー・虫・ドラゴン・悪・鋼・フェアリーがあるロト」
「そんなにタイプがあるんですね」

ロトム図鑑が説明したことに、しのぶは関心した様子でいたがやはり蝶柱であり毒を使うことから虫タイプと毒タイプに反応を示す。一方、煉獄兄弟はというと炎柱というだけあって炎タイプに関心を示している。

「炎タイプ!」
「先ほど、この子も炎タイプと言っていましたね」
「ああ!このガーディはそれだけじゃないけどな!!」
「それだけじゃない?」
「こいつは【色違い】なんだ。オレたちの世界では珍しいポケモンさ」
「色違い?」

サトシの色違いと言われても、この場にいる人間には何のことか分からず首を傾げる。そんな人ばかりでロトム図鑑はさっそくとばかりに画面に通常時のガーディを表示させる。

「これがよく見られるガーディロト」

ロトムに映し出されたガーディはオレンジと黒の毛並みだ。画面とサトシの腕の中にいるガーディを見比べると確かに違うなと頷く。

「色違いもなにも関係ないさ。ポケモンはポケモンなんだから!なっ!!」
「ガウっ」

サトシの言葉にガーディは元気よく吠える。そんなガーディにこの数日でよくここまでサトシに懐いたものだと感心するしのぶ。
数日前の警戒心丸出しの様子を思い出す。

サトシの腕の中で目を覚ましたガーディは唸り声を上げ、拘束から逃れるためか傷を負っているサトシの腕を再度噛みつこうとしていた。
それに慌てたのは、アオイや炭治郎達だ。
サトシは噛みつかれる寸前でも慌てた様子もなく、優しい声音でガーディを落ち着かせようとしていたのだ。

「大丈夫だ。ここにはお前を傷付けるやつはいないよ」

落ち着いた優しい声で、サトシは言う。

「もし・・・お前を傷付けるやつがいるなら、オレがお前を守ってやるさ!」

力強い言葉。だが、ガーティには安心感を与えるには十分だったようで、先ほどまで唸り声を上げていたのが嘘のように大人しくなる。

サトシの言葉に嘘は感じなかった。
それから数日間、サトシとガーディの様子を陰ながら見守ってきたしのぶは、ガーディの心の機微を慎重に観察してきた。
警戒心一杯だったのが嘘のように人懐っこさを見せるようになった。だが、それは見掛けだけ。
しのぶや炭治朗が近付くと唸り声をあげ、噛みついてくるのではないかと思うほど警戒心たっぷりの様子だった。
その一方で、サトシがいるとはいえ今日会ったばかりである煉獄兄弟に近付いた。それが、しのぶには驚きでしかない。

しのぶが物思いに耽っている間、ガーディはサトシの腕の中から煉獄兄弟、いや正確には弟の千寿郎に近付きペロリと頬を舐めた。
それに驚いたのは、ガーディに舐められた千寿郎本人だ。

「え!?」
「むぅ!」

ポケモンは感受性が高い。特にガーディは犬に間違えられるほど。そして、このガーディは色違いであるが故に通常より匂い・心の機微に聡い。
そうでなければ野生で生き残るのも難しいからだ。だからこそ、千寿郎の心奥深くに燻る寂しさや悔しさなどの色んな感情に気付き、寄り添うように励ますかのように千寿郎の頬を舐めたのだ。
そして、サトシはというとーー。
にっこり優しい、温かな笑みを浮かべ千寿郎に声をかける。

「千寿郎さん」
「はい!」
「このガーディ・・・預かってくれませんか?」
「え?」

サトシの言葉に呆然とする千寿郎。その周りも口は挟まないが僅かに驚きを見せている。

「これはオレの憶測ですけど・・・」

静かな落ち着いた様子で話し出すサトシだが、次の言葉に我が目を疑う。

「こいつは、色違いだから。多分ポケモンハンター・・・密猟団に襲われたんじゃないかと思う」
「!?」
「それから、天災にもあってる」

サトシの言葉には何処か悔しさ、やるせなさを含む感情がある。それは、その場にいる人間も同じ。

「だから、千寿郎さんにお願いしたいだ」
「お話しは分かりましたが、何で私なんですか?」
「それは・・・・・・こいつが、このガーディが君を選んでるから」

優しい慈愛に満ちた目でガーディを見ると、手をガーディの頭をゆっくり持っていき、優しく撫でてやる。

「だから、お願いします」

真っ直ぐ千寿郎の目を見て言うサトシと、ここまで願われて断るなんて出来ないと決意を固める千寿郎はコクリと頷く。
その答えを聞き、にっこりと笑うサトシ。
千寿郎の心に少しばかり炎が揺れる。いや、それは千寿郎の傍にいるガーディにも心に炎が灯ったのだ。
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