第一章
夢小説設定
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「カゲの家でご飯食べない?」
ゾエくんにそう誘われたのが昨日の話。カゲくんの家はお好み焼き屋をしていて、遊びに行くついでに晩御飯をご馳走になろうと計画しているそうだ。土曜で学校もなく、訓練場へ行く以外は暇な時間を過ごしている私は二つ返事で了承した。
待ち合わせ場所へ、時間十五分前に着いた。近くにあったベンチに座り、のんびり待たせてもらう事にする。今日はカゲくんとゾエくんとブラブラ遊んでからカゲくんの家に行くというアバウトな事しか聞かされていない。私以外にも数名誘ったそうだが、誰が来るかは知らない。ボーダーの人間しか誘わないと言っていたから特段気にはしないが、緊張とワクワクでいっぱいだ。
携帯を眺めながら暫し待っていると、持っていた携帯に影が差した。視線の先にはスラッとした足元が見える。
「そこのおじょーさん、俺と一緒にお茶でもしねぇ?」
「軽すぎるからご遠慮しまーす」
「んじゃ話し相手っつーことで」
「しゃーなしやで。てか何で居るん、当真」
私の隣に座ったナンパもどきは、よく知った顔だった。いつも通りのリーゼント姿に、モデル体型によく似合ったスタイリッシュな格好をしている当真だ。私服は初めて見たがよく似合っている。絶対本人には言わないが、かっこいい。
「ゾエに誘われた」
「あんたら知り合いやったん?」
「ちょっと前になー。他のメンツは穂刈くらいしか知らねぇけど、全員同い年だってよ」
「ポカリも来るんかー」
当真とだらだらいつも通り話している内にゾエくんやカゲくん、ポカリもやって来た。初めて会う男の子も一人だけ混じっている。中々男前で目に良さそうだ。
「荒船くんよろしくー」
「あぁ、よろしくな」
軽く自己紹介をし、ゾロゾロと移動を始める。荒船くんは進学校で頭が良いと穂刈が褒めていた。男前で頭が良くてボーダー隊員って、すごく女子にモテそうだ。成績不振者の私からすれば、ボーダーと勉強を両立させている荒船くんは単純にすごいと思う。ぼけーっと荒船くんを見ていたら、当真が私の頭の上に腕を乗せてもたれかかってきた。とても邪魔だし重い。
「つーか男五人に女一人でいいのかよお前は」
仕返しに当真の脇へ肘をぐりぐりと押し付けていると、カゲくんが怠そうに背中を丸めて歩きながら私を見た。「心配してくれてるの?嬉しいー!カゲくん優しいねー!」とカゲくんのサイドエフェクトを知りつつ敢えて心の中で思いながら見つめると、すごく嫌そうな顔で「おえっ」と吐き気をもよおされた。なんて失礼な奴だ。
「柚宇ちゃんも誘ったんだけどね。今日はやることがあるって…」
「あー…柚宇ちゃんは多分今日から忙しいからなー。私は別に気にしてへんからええよ」
あれから何度か連絡を取り合っている柚宇ちゃんは、最近ハマっているオンラインゲームのイベントがもうすぐ始まると言ったまま返信が途絶えている。確かそのイベント開始日が今日だったと思う。きっと一週間は忙しいだろう。
カゲくんのように気を使ってくれるのは嬉しいが、私は男友達は昔から多かったし、女子らしい遊びやお出かけなんてあまりしてこなかったタイプの人間だ。むしろ女子より気を使わなくて済むため正直とても楽だ。女の子は大体ゲーセンで勝負なんてしてくれないし、今日は目一杯遊ぼう。私は意気揚々とゲーセンを指差し、勝負を申し込むのだった。
□■□■□
「おっしゃぁ!!」
雄叫びをあげてガッツポーズをする女は中々見れないのではないか。今日初めて話した西宮は、そういったどちらかと言えば珍しい部類の女子だった。カーレースのゲームで見事トップでゴールした西宮は、同じく隣で対戦していたカゲにドヤ顔でブイサインをキメている。
「くっそ!!もう一回勝負しやがれ!!」
「へへーん!私のドライブテクナメんなよー!」
「…あいつ、よくカゲに喧嘩売れるな」
女子に限らず、男子でもカゲのあの鋭い目付きにビビる事が多いが、西宮は気にせず、むしろ面白がっている。穂刈は「ああゆう奴だ、西宮は」と楽しそうに、ゾエも「面白いでしょー?」と笑っている。学校が同じであるこいつらにとっては、いつもの風景なのかもしれない。実際西宮はこの面子に恐ろしい程溶け込んでいる。
「あっ、ちょ、当真!!赤甲羅ぶつけんなや!!」
「そうゆうレースだろ〜?」
「ぜってぇコロス!!」
「はぁ!?ちょ、このタイミングでそれ止め、アーッ!!」
飄々としているように見える当真も、何かと西宮の隣に張り付いて気にかけている。さっきなんて少し西宮と二人で話していたらちょっかいをかけていた。余程気に入っているのだろう。
カゲと当真にしてやられ、中間位でゴールして負け「もう一戦!!」と悔しそうに叫んでいる西宮を眺める。見ていて飽きないのは確かだと思った。
□■□■□
「へー、荒船くんてカゲくん家の常連さんなんやー」
ゲーセンで存分に遊び終え、カゲくんの家を目指して歩き出した。荒船くんがカゲくん家のお好み焼きについて力説しはじめ、ゾエくん達も口々に褒めだす。カゲくんはむず痒そうに後頭部をガシガシと掻いていた。
「カゲの家のお好み焼き美味しいもんねー」
「荒船の好物なんだ、お好み焼きは」
「そういや西宮は関西出身か」
「そうやで!地元行く機会あったらカゲくん家と同じくらい美味しい店案内したるわ!」
「お前らごちゃごちゃうるせ……あ?」
ついに口を挟んだカゲくんは、後ろを振り向いて一点をじっと睨んだ。何か視線が刺さったのだろうか。それにしてはイライラしたような雰囲気になっていない。皆不思議そうに首を傾げ、私も何かあったのかと声をかけた。
「どないしたん、カゲくん」
「あー…いや、なんでもねぇ」
「?そっかー」
微妙な顔をしているカゲくんは、それ以上何も話す気はなさそうだった。私達もすぐに話へと戻り、深くは追求しなかった。
カゲくんの家に着いた私達は、カゲくんの家族に軽く挨拶し、奥の方にある座敷席に座った。カゲくんと当真に挟まれ、前には荒船くん。荒船くんはゾエくんと穂刈に挟まれている。カゲくんも荒船くんも、慣れた手つきでお好み焼きを焼いていた。
「めっちゃ美味しいなこれ!」
「ほれほれ、いっぱい食えよー」
「うわっ!当真盛りすぎやろ!はみ出る!」
小さめの取皿に遠慮なくお好み焼きを乗せてくる当真を必死に止める。案の定お好み焼きがはみ出してしまってる。当真を睨んでみても効果はなく、いつもの余裕綽々な微笑みを浮かべながら自分の分のお好み焼きをよそっていた。
「帰った方がいいんじゃないか、そろそろ。西宮は特に」
食べて話して寛いでいたら、いつの間にか外はとっぷりと日が暮れていた。皆それぞれ「お、もうそんな時間か」と時刻を確認しつつ、帰り支度を始めた。
「私一人暮らしやからそんな気にせんでええけど?」
「そうゆう問題じゃねぇだろ」
てっきり家族が心配するからという理由かと思ったが、カゲくんに即座に否定される。疑問の眼差しを向けるが「見んじゃねぇ、うぜぇ」とそれ以上答えてくれなかった。
カゲくんとカゲくんの家族にお礼とお別れを言い、暗い帰り道を歩いた。一人、また一人と違う方面の道へと分かれていく。が、当真は私の隣をついて歩き、帰る様子はなかった。
「…当真はなんでずっと付いてくるん?」
「家まで送るに決まってんだろ〜」
「え、当真の家こっち方面やっけ?」
「んなこと気にしなくていいんだよ。大人しく送られてろ」
当真は私の頭をくしゃくしゃと撫で微笑んだ。不覚にもかっこいいと思ってしまい、心臓がドクンと一際大きく鳴った。きっと赤くなってしまっている顔を隠すように「ふ、ふーん…」とそっぽを向く。
「…ありがとぉな」
「どーいたしまして」
ぎこちない思考回路を元に戻すため、私は空を眺め現実逃避をしようと試みたが、最後まで顔は赤いままだった。