第一章
夢小説設定
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ある日の平日。学校が終わってすぐ、私は近場にある店へと急ぎ足で向かった。今日は私の大好きなシリーズの新作ゲームが発売されるのだ。予約はできなかったが、できれば発売当日である今日からやり始めたい。店内の新作コーナーを目指し、とうとう目当ての物を見つけた私の胸は高鳴っていた。
「あっ…」
「ありゃ…」
まるで漫画のように知らない人と手が重なる。同じ物を取ろうとしていたのは同じ高校の制服を来た女の子だった。ゆるふわという言葉が似合う可愛らしい雰囲気をしている。同じ高校で同じゲームが好きなんて運命を感じる。が、問題が一つあった。私達が求めているゲームは、残り一つしかないのだ。
「あれ?もしかして、ボーダーの子?」
「えっ…そうやけど…」
「私、国近柚宇〜。オペレーターやってるんだぁ」
「そうなん!?あ、私は西宮えりな!よろしくなー」
オペレーターの柚宇ちゃんは数ヶ月前に北海道からスカウトされてやってきて、同じく遠方からやって来た私の事をなんとなく覚えていたらしい。本部で何度か私の事を見かけた事もあると言っている。私は申し訳ないくらいに覚えてない。
「えりなちゃんもこのゲーム好きなんだね〜」
「うん!全種類持ってるで!」
「そうなんだ〜!じゃあこれ、譲るね」
「え!?でも柚宇ちゃんの分が…」
「私は他にも買うから、ほら」
ズラッと手に持っていたソフトを扇状にして見せてくれた。「今日は徹夜なんだよね」と言う柚宇ちゃんの目は爛々と輝いていた。持っているソフトはどれもやりこみ要素が多いと噂のゲームだ。きっと重度のゲーマーなんだろう。明日明後日は土日で学校がない分、引きこもってゲームをしている姿が何となく想像できた。
「じゃあ、お言葉に甘えて…ありがとうなぁ」
「終わったら貸してね〜」
「もちろん!」
柚宇ちゃんはお近付きの印に連絡先を交換すると早々と帰って行った。今すぐにでもやりたくて仕方ないのだろう。私も柚宇ちゃんと同じく、さっさと帰ってこのゲームを堪能したい。
が、前から歩いてきた、出会ったら間違いなく面倒な人物と目が合ってしまって思わず顔をしかめる。
「あれ、西宮じゃん」
「げ、太刀川先輩」
「げって何だ、げって」
太刀川先輩は私の二つ上の先輩だ。いつもボーダーで見てる服ではなく、うちの高校の制服である学ランを着ている。黙っていればそれなりにかっこいいかもしれない太刀川先輩は、喋ればとても残念だ。この間なんて「green」の事を「グレーン」と読んでいた。この人のボケは酷すぎて突っ込みきれないからあまり話したくない。
「じゃあ改めて…うわぁ、太刀川先輩」
「お前ほんと可愛くねーな」
「可愛い可愛いされるようなキャラちゃうんで。てか、何してはるんですか?」
「迅待ってんだよ。トイレ行ってくるって」
「迅さん?どっか遊びに行くんですか?」
「いや、ランク戦」
納得の行き先に「あぁ…」と、つい声が漏れる。迅さんと太刀川先輩は攻撃手同士でライバルだ。よくランク戦をしているなんてのは、狙撃手の私でも知っているほど有名な話だ。加えて太刀川先輩は生粋の戦闘狂。戦うために生まれてきたと言ってもいいと思う。そんな人と会ってしまったのだ。面倒事に巻き込まれる事なんて、迅さんのサイドエフェクトがなくても読める。
「お前も来いよ。ランク戦しよーぜ」
「いやいや、私狙撃手ですから」
「適当に人数集めてチーム戦すればいいじゃん」
「私こう見えても忙しいんで」
中々逃げさせてくれない太刀川先輩にイライラしてきた丁度その時、携帯のバイブが鳴った。電話なんて珍しいと驚いて確認すると、今さっき話に出ていた迅さんだった。
「もしもし」
『ごめん西宮ちゃん。そこに太刀川さん居る?』
「はい、絶賛イライラさせられてます」
迅さんはそれを聞くやいなや『あちゃー…』と呟いた。その後何故か頻りに謝られ、太刀川先輩に代わるよう言われた。何となく声色が本当に申し訳なさそうで、少し焦っているような気がした。何故だろうと考え込んでいる間に太刀川先輩と迅さんの話は終わっていた。そして太刀川先輩は何故か腕組みをして怒っていた。
「あいつ俺の事撒いて逃げようとしてたんだってよ!!」
「そりゃ面倒だからでしょ」
「でもお前に迷惑かかるからって本部で落ち合うことになった!ありがとな!」
「は?はぁ…よかったですね」
手をブンブン振って本部へ走る太刀川先輩を眺め、やっぱり迅さんが何となくいつもと違うような気がして一人首を傾げた。太刀川先輩がうざ絡みをしてくるなんていつもの事なのに、何故そう気にしてるのか。むしろ迅さんが悪いわけじゃなく、太刀川先輩がうざいのが悪いのだ。
「さっぱり分からん…やめよ」
今度迅さんに会った時に聞いてみよう。きっとはぐらかされるだろうけど、分からないまま考え込んでも頭が痛くなるだけだ。
ぼんやり違う事を考えながら家へと帰っていると、また携帯が振動した。今度は一体誰が電話してきたのだろう。また迅さんだろうか?それともお母さん?もしかしたらほんのたまにかけてくる当真か?
「……え?」
私に電話をかけてくる人は限られているが、今回は初めてのパターンだ。名前が表示される欄には、非通知と書かれている。こんなのドラマだけかと思っていた。恐る恐る出てみるが、すぐにブツリと切られてしまった。
「…間違いかな?」
それにしてもすぐに切ってしまうなんて礼儀知らずもいいところだと憤慨するが、それも時間が経つにつれて頭から抜け落ちていった。それくらい私にとっては些細な出来事だった。
「ブツブツ…なんで…だめだ……」
自分の鈍さに頭を抱えることになるのは、まだもう少し先。ある事件が起こった後の事だった。