第一章
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東さんに弟子入りしてから数日が経った。東さんの指導は分かりやすく的確だ。そのお陰で、先日の合同練習では自分なりに良い成績を残せた。ただ、どれだけやっても当真には勝てない。
「どうしたもんか…」
「西宮、どうした?」
「!…東さん」
ベンチで一人ため息をついていると、東さんが私の顔を覗き込んだ。私の隣に座った東さんは、優しく微笑みながら「何か悩み事か?」と心配してくれた。この人に相談すれば何か解決策が分かるかもしれないとつい思ってしまった。
「あー、その…当真にどうしたら勝てるかなって考えてて…」
「西宮は負けず嫌いだなぁ」
「いや、私どっちかっていうと平和主義で…こんなに誰かに負けたくないって燃えるの初めてなんです」
勉強も運動も好きじゃない。習い事をしても練習するのが面倒で本気でやっていなかった。部活もなんとなくやっていただけで躍起になって練習することもなかった。そんな私が、ほぼ毎日訓練場へ来ている。当真に負けたくない。置いて行かれたくない。もっと上手くなりたい。こんな想いは初めてだった。
「ライバル視するのは悪いことじゃない。その方がやる気が出る奴も多い。けど、それだけを考えすぎると他の事が見えなくなるぞ」
「他の事…」
「当真以外にだってすごい奴は沢山居るし、個人での力が全てでもない。それにお前達はまだまだ始めたばかりだろう?これから色んな事を見て、考えて、行動して…どんどん成長するんだ。当真に固執しなくても、西宮は強くなれるよ」
「だから焦らなくても大丈夫だ」と笑う東さん。東さんの言葉を聞いて、憑き物が落ちたように心が軽くなった。私は自分でも気付かない内に考えすぎて焦っていたようだ。
「東さん、ありがとうございます!」
「また何かあれば言ってくれ。相談くらい乗るぞ」
「はい、そうします!」
東さんに一礼し、私はラウンジへと向かった。空いてる席に座り、ボーダーから支給されている端末を取り出す。
東さんに言われた通り、視野を広げた方が良い。それならばランク戦や合同練習の様子を見てみれば何か分かるのではないか。東さんや佐鳥くん、他の隊員の動きやチーム戦をじっと見ていると、隣から視線を感じた。
「あれ?西宮ちゃん?」
「えっ…ゾエくん?」
「わー!ほんとに西宮ちゃんだー!ボーダー隊員だったんだねー!」
顔を上げた先にはクラスメイトのゾエくんが朗らかに笑っていた。ボーダー提携校なのだからボーダー隊員が多く通っているだろうとは思っていたが、まさかたまたま席が近くて仲良くなった人がそうだとは思っていなかった。
「あ?誰だこいつ」
「同じクラスの西宮ちゃんだよー」
「あ、はじめましてー」
ゾエくんで見えなかったが、ゾエくんは友達を連れていた。黒髪でボサボサ頭のやんちゃしてそうな男の子だ。ゾエくんとは対象的な見た目に見える。けどゾエくんの友達なら、きっと悪い人ではないのだろう。仲良くなれたらいいなぁと思いながら挨拶すると、舌打ちと共にそっぽを向かれてしまった。照れ屋さんなのかもしれない。
「こっちは影浦雅人。カゲって呼んであげてね!」
「てめぇ勝手に紹介してんじゃねぇよ!!」
「カゲくんよろしくなー!」
「お前も呼んでんじゃねぇ!!」
「えー、だってカゲくんて言いやすいしー!ねー、ゾエくん」
「ねー」
「チッ…うぜぇ…」
「あ、そうだ!西宮ちゃんも一緒にお昼ご飯食べない?」
「わ、もうそんな時間かー。じゃあお言葉に甘えて!」
カゲくんはうぜぇだの何だの言う割に、私もお昼ご飯をご一緒させてもらうことに関しては特に何も言ってこなかった。思った通りアレは照れ隠しの一種で、完全に嫌われているわけではないのだと少し安心する。
私はかき揚げうどん、ゾエくんはB定食セット、カゲくんはラーメンを食べながら談笑した。よくよく聞くと、ゾエくんとカゲくんは私より数ヶ月も前からボーダーに居たらしい。私からすれば大先輩なわけだ。カゲくんと私は学校ではあまり接点がないかと思いきや隣のクラスで、しかも委員会が同じだった(すべてゾエくん情報であり、カゲくんはどうでもよさそうにナルトを頬張っていた)。
「カゲくんて隣のクラスやったんかー。教科書忘れたら貸してな!」
「誰が貸すかよバーカ」
「って言いつつ貸してくれそうやんな」
「だよねー」
「てめぇら捻り潰すぞ」
「お礼に漫画でも何でも貸したるからそんな怒らんといてやー」
「…何持ってんだよ」
持っている漫画を一つ一つ指を折って思い出しながら言っていく。少年漫画ばかりのラインナップに満足したのか、私が言った中から二種類選んで「今度貸せ」と笑っていた。カゲくんも漫画が好きなようだ。趣味の合う友達ができるのは嬉しい。
「うんうん、カゲにも友達が増えてゾエさん嬉しい!」
「気持ち悪いこと言うんじゃねぇデブ!」
本当に仲の良い二人だなと温かい目で見ていたら「てめぇも変な視線送るんじゃねぇ!」と怒られてしまった。カゲくんはどうも視線に敏感だ。繊細な性格なのかもしれない。
「じゃ、私そろそろ行くわー!またなー!」
「おー」
「またねー」
二人と別れ、私はいつも通り訓練場へ足を運んだ。端末で見ていた東さん達の撃ち方を思い出しながら、周りを見渡して他の人の撃ち方も見てみる。こうやって改めて見て分かったが、それぞれ微妙に姿勢や癖が違う。これからじっくり観察していこう。
東さんに指導してもらった事に気を付け、的に向かって数発撃つ。気が抜けるとすぐに癖が出てきてしまうから注意しなければ。東さんにも「癖に慣れるのは一瞬だ。だが癖を治すのは一苦労かかる。早めに治しておいた方が良い」と言われた。慣れる前に悪い所は治すに限る。
一時間もすれば集中力が一度ストンと切れてしまう。無理に続けても意味のある訓練はできない。私はさっさと休憩がてら自販機の方へ向かった。ぼーっと今日の事を振り返り、ゾエくんやカゲくんの事を思い出した。友達ができたのも、仲良くなれそうなことも嬉しい。これからが楽しみになった。
「随分良いな、機嫌」
「あ、ポカリ」
自販機への道すがら後ろから追ってきたのはポカリ改め穂刈だった。穂刈とは入隊時期も歳も同じで、訓練場でもよく会うため自然とよく話すようになった。
「当真は来てないのか」
「今日はゴロゴロすんねんてー」
「自由だな、あいつは」
「ほんまにな!当真なんか絶対抜かしたる!」
「いけるんじゃないか、西宮なら。最近良さそうだろ、調子」
「そりゃあ良いお師匠様ついてもらってるからなぁ!」
「お前の力だろ、上手くなったのは」
穂刈は表情豊かな方ではないが、お世辞じゃなくて本当に褒めてくれているのが伝わる。同期からの素直な評価は恥ずかしい反面とても嬉しい。
「負けないぞ、俺も」
「私も負けへんでー!お互いがんばろな!」
コツンと拳をぶつけ合い、私達はまた訓練場へ戻った。穂刈のおかげでやる気がまた舞い戻ってきたことに感謝しながら、私は的へと狙いを定めた。
今日も頑張ろう。
「どうしたもんか…」
「西宮、どうした?」
「!…東さん」
ベンチで一人ため息をついていると、東さんが私の顔を覗き込んだ。私の隣に座った東さんは、優しく微笑みながら「何か悩み事か?」と心配してくれた。この人に相談すれば何か解決策が分かるかもしれないとつい思ってしまった。
「あー、その…当真にどうしたら勝てるかなって考えてて…」
「西宮は負けず嫌いだなぁ」
「いや、私どっちかっていうと平和主義で…こんなに誰かに負けたくないって燃えるの初めてなんです」
勉強も運動も好きじゃない。習い事をしても練習するのが面倒で本気でやっていなかった。部活もなんとなくやっていただけで躍起になって練習することもなかった。そんな私が、ほぼ毎日訓練場へ来ている。当真に負けたくない。置いて行かれたくない。もっと上手くなりたい。こんな想いは初めてだった。
「ライバル視するのは悪いことじゃない。その方がやる気が出る奴も多い。けど、それだけを考えすぎると他の事が見えなくなるぞ」
「他の事…」
「当真以外にだってすごい奴は沢山居るし、個人での力が全てでもない。それにお前達はまだまだ始めたばかりだろう?これから色んな事を見て、考えて、行動して…どんどん成長するんだ。当真に固執しなくても、西宮は強くなれるよ」
「だから焦らなくても大丈夫だ」と笑う東さん。東さんの言葉を聞いて、憑き物が落ちたように心が軽くなった。私は自分でも気付かない内に考えすぎて焦っていたようだ。
「東さん、ありがとうございます!」
「また何かあれば言ってくれ。相談くらい乗るぞ」
「はい、そうします!」
東さんに一礼し、私はラウンジへと向かった。空いてる席に座り、ボーダーから支給されている端末を取り出す。
東さんに言われた通り、視野を広げた方が良い。それならばランク戦や合同練習の様子を見てみれば何か分かるのではないか。東さんや佐鳥くん、他の隊員の動きやチーム戦をじっと見ていると、隣から視線を感じた。
「あれ?西宮ちゃん?」
「えっ…ゾエくん?」
「わー!ほんとに西宮ちゃんだー!ボーダー隊員だったんだねー!」
顔を上げた先にはクラスメイトのゾエくんが朗らかに笑っていた。ボーダー提携校なのだからボーダー隊員が多く通っているだろうとは思っていたが、まさかたまたま席が近くて仲良くなった人がそうだとは思っていなかった。
「あ?誰だこいつ」
「同じクラスの西宮ちゃんだよー」
「あ、はじめましてー」
ゾエくんで見えなかったが、ゾエくんは友達を連れていた。黒髪でボサボサ頭のやんちゃしてそうな男の子だ。ゾエくんとは対象的な見た目に見える。けどゾエくんの友達なら、きっと悪い人ではないのだろう。仲良くなれたらいいなぁと思いながら挨拶すると、舌打ちと共にそっぽを向かれてしまった。照れ屋さんなのかもしれない。
「こっちは影浦雅人。カゲって呼んであげてね!」
「てめぇ勝手に紹介してんじゃねぇよ!!」
「カゲくんよろしくなー!」
「お前も呼んでんじゃねぇ!!」
「えー、だってカゲくんて言いやすいしー!ねー、ゾエくん」
「ねー」
「チッ…うぜぇ…」
「あ、そうだ!西宮ちゃんも一緒にお昼ご飯食べない?」
「わ、もうそんな時間かー。じゃあお言葉に甘えて!」
カゲくんはうぜぇだの何だの言う割に、私もお昼ご飯をご一緒させてもらうことに関しては特に何も言ってこなかった。思った通りアレは照れ隠しの一種で、完全に嫌われているわけではないのだと少し安心する。
私はかき揚げうどん、ゾエくんはB定食セット、カゲくんはラーメンを食べながら談笑した。よくよく聞くと、ゾエくんとカゲくんは私より数ヶ月も前からボーダーに居たらしい。私からすれば大先輩なわけだ。カゲくんと私は学校ではあまり接点がないかと思いきや隣のクラスで、しかも委員会が同じだった(すべてゾエくん情報であり、カゲくんはどうでもよさそうにナルトを頬張っていた)。
「カゲくんて隣のクラスやったんかー。教科書忘れたら貸してな!」
「誰が貸すかよバーカ」
「って言いつつ貸してくれそうやんな」
「だよねー」
「てめぇら捻り潰すぞ」
「お礼に漫画でも何でも貸したるからそんな怒らんといてやー」
「…何持ってんだよ」
持っている漫画を一つ一つ指を折って思い出しながら言っていく。少年漫画ばかりのラインナップに満足したのか、私が言った中から二種類選んで「今度貸せ」と笑っていた。カゲくんも漫画が好きなようだ。趣味の合う友達ができるのは嬉しい。
「うんうん、カゲにも友達が増えてゾエさん嬉しい!」
「気持ち悪いこと言うんじゃねぇデブ!」
本当に仲の良い二人だなと温かい目で見ていたら「てめぇも変な視線送るんじゃねぇ!」と怒られてしまった。カゲくんはどうも視線に敏感だ。繊細な性格なのかもしれない。
「じゃ、私そろそろ行くわー!またなー!」
「おー」
「またねー」
二人と別れ、私はいつも通り訓練場へ足を運んだ。端末で見ていた東さん達の撃ち方を思い出しながら、周りを見渡して他の人の撃ち方も見てみる。こうやって改めて見て分かったが、それぞれ微妙に姿勢や癖が違う。これからじっくり観察していこう。
東さんに指導してもらった事に気を付け、的に向かって数発撃つ。気が抜けるとすぐに癖が出てきてしまうから注意しなければ。東さんにも「癖に慣れるのは一瞬だ。だが癖を治すのは一苦労かかる。早めに治しておいた方が良い」と言われた。慣れる前に悪い所は治すに限る。
一時間もすれば集中力が一度ストンと切れてしまう。無理に続けても意味のある訓練はできない。私はさっさと休憩がてら自販機の方へ向かった。ぼーっと今日の事を振り返り、ゾエくんやカゲくんの事を思い出した。友達ができたのも、仲良くなれそうなことも嬉しい。これからが楽しみになった。
「随分良いな、機嫌」
「あ、ポカリ」
自販機への道すがら後ろから追ってきたのはポカリ改め穂刈だった。穂刈とは入隊時期も歳も同じで、訓練場でもよく会うため自然とよく話すようになった。
「当真は来てないのか」
「今日はゴロゴロすんねんてー」
「自由だな、あいつは」
「ほんまにな!当真なんか絶対抜かしたる!」
「いけるんじゃないか、西宮なら。最近良さそうだろ、調子」
「そりゃあ良いお師匠様ついてもらってるからなぁ!」
「お前の力だろ、上手くなったのは」
穂刈は表情豊かな方ではないが、お世辞じゃなくて本当に褒めてくれているのが伝わる。同期からの素直な評価は恥ずかしい反面とても嬉しい。
「負けないぞ、俺も」
「私も負けへんでー!お互いがんばろな!」
コツンと拳をぶつけ合い、私達はまた訓練場へ戻った。穂刈のおかげでやる気がまた舞い戻ってきたことに感謝しながら、私は的へと狙いを定めた。
今日も頑張ろう。