第一章
夢小説設定
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暖かい日差しが眠気を誘う今日この頃、予定通り三門第一高等学校へと入学した私はまだ見慣れていないクラスをぐるりと見渡した。残念なことに当真とはクラスが離れてしまったから、知っている顔は一つもない。
席は男女混合の出席番号順だった。私の前にはふくよかで背も大きそうな大柄の男の子が座っている。黒板は見えづらいが、一番後ろから二番目で真っ先に先生に当てられることも少ない、大きな男の子で私が隠れられるとても良い席だ。存分にサボらせてもらうことにする。
「あの、黒板見える?大丈夫?」
「え?あぁ、全然大丈夫やでー」
SHRが終わり、一時間目までの休憩の間に、前の席の男の子が振り向いた。眉を寄せて心配そうな、申し訳ないような顔をしている。私の緩い雰囲気から全然気にしてないというのを感じ取ったのか、ほっと息をついていた。サボろうと考えていたことに少し罪悪感が生まれる。
「良かったぁ!見えなかったら言ってね。できるだけズレるから」
「ええよええよ!わざわざありがとうなぁ。えっとー…」
「北添尋だよ。ゾエって呼ばれてる!」
「ほほう、ゾエくん。私は西宮えりな、よろしくなぁ!」
初めて話すのが男子だとは思わなかったが、ゾエくんはほんわか癒し系男子と言っていいくらい和む人だ。優しそうな人と仲良くなれたのは嬉しい。
その日はゾエくんだけでなく、隣の席の女の子やその女の子の友達グループと話すことができた。女の子はすぐグループを組むから早めに仲良くなっておかなければ、ぼっちになる確率が高くなる。それは面倒だから避けておきたい。それに普通に友達ほしい。
「おーい、えりなー」
HRが終わり、後は帰るだけという時に、ドアから私の名前を呼ぶ声が聞こえた。ドアの柱にもたれかかって、ゆるゆると手を振っている当真が見えた。
「当真、どないしたん?」
「今日も訓練場行くんだろ?付き合うぜ」
「お!まじか!」
仲良くなった子達に別れを告げ、当真と共にボーダー本部を目指した。友達になれそうな子ができたと子供のように話せば、当真は「そーかそーか、良かったな〜」と聞いてるのか聞いてないのか分からない適当さで答えていた。
「今回は負けへんからな!」
「そう簡単には負けらんねぇな」
訓練場に着き、私は当真に宣戦布告をした。当真は適当おちゃらけ野郎に見えて、実は狙撃の腕が良く、入隊してからこれまで当真との勝負では勝てたことがない。私の場合、的には当たるが真ん中に当たる確率は低いのだ。しかし、どうすればしっかり撃てるようになるのかが自分では分からない。自分と他の人との違いを見ようと訓練場を見渡した。目に止まったのは、C級とは違った隊服に身を包んだ人に指導してもらっている同期の姿だった。
「…なぁ当真ー。私らも師匠とか作った方がええんかなー」
「師匠ねぇ…頼むんならあの人だろ」
当真が指差した先、丁度訓練場へやってきた人を見て納得した。ぺーぺーの私でも知ってる、A級トップ部隊を率いている東隊長だ。実力は新人の私から見ても分かるほど高い。隊長を務めるくらいなのだから責任感もありそうだ。だが噂を聞いたことがあるだけで、話した事なんてない。入隊式で佐鳥くんの隣に立っていた事をぼんやりと覚えている程度だ。急に話しかけて東さんがおいそれと了承してくれるか分からないが、東さんみたいなすごい人に教えてもらえるなら万々歳だ。
「話してみりゃいけるだろ」
「うーん、そうやなぁ。東さんやったら私もお願いしたいなぁ」
「んじゃ、さっさと行くか」
「はっや!ちょ、置いてかんといてや!」
さっさと動き出した当真を急いで追いかけ、私達二人は東さんの方へ足を向けた。
❉
訓練場で他隊員の調子をそれとなく見ていたら、つい先日の入隊式で試し撃ちをしてもらったC級隊員二人から声を掛けられた。二人は簡単に自己紹介を済ませ、飄々とした男子…当真が「俺ら弟子入りさせてくんね?」と簡潔に軽い調子で言い放った。怖いもの知らずな奴だと少し面食らったが、間髪入れずにもう一人の女子が当真の背中を思い切り平手打ちし、それを見てさらに驚いた。
「す、すみません!!こいつちょっと頭のネジゆるっゆるで…!!
私はC級の西宮えりなです。こっちは同じC級の当真勇です。あの、東さんは狙撃手の第一人者だとお聞きしました!A級トップで、隊長業務もお忙しいとは思います。お時間空いている時、東さんのようなしっかりした方にご指導頂ければと…」
当真に頭を下げさせてからしっかりと向き直って丁寧に、関西独特のイントネーションを交えながらはっきりと話す西宮。緊張しているように見えるが、一生懸命伝えようとしてくれる姿勢は好感が持てる。
個人的に二人の事は気になっていた。C級の中では筋が良い部類の二人だったからだ。そうでなくても、後輩の育成には力を注ぐつもりだ。断る理由はない。「あぁ、いいぞ」とすぐに答えると、今度は西宮の方が豆鉄砲を食らったような顔をした。
「え!?いいんですか!?」
「ほらな、言ってみるもんだろ」
「早速今から見てていいか?」
「よ、よろしくお願いします!」
二人並んで位置につかせ、まずは動かない的へと撃ってもらった。
まず、当真はセンスの塊だ。ついこの間入隊したとは思えない程の命中率に舌を巻く。要領がいいようにも見えるし、少し指導すればグングン伸びていくだろう。ただ、持続した集中力はなさそうだ。時間が経つにつれて命中率が落ちてきている。
対する西宮も悪くはない。西宮はほぼ毎日訓練場で練習しているところを見かける。その成果か、C級隊員の中でも実力は高い方だ。根が真面目で素直、一人なら何時間でも続く集中力…狙撃手向きの性格だ。だが、今は当真を意識しすぎて注意力散漫になっているように見える。
「西宮、姿勢が左へ傾いている。少し右…もう少しだ。そう、その辺り」
「…あ、真ん中」
「その調子だ」
「はい!」
合間合間、それぞれに細かい指摘をいくつかしていく。まずは基礎からだ。最初のうちに悪い癖は治していた方が後々のためにもなる。
「よし、今日はこれくらいにしておこう。当面の目標は、基本の構え方をきっちりできるようになることだな。特に西宮は左に偏りやすいから気を付けろ」
「了解です!」
「俺は?」
「当真は長時間集中できるようにな」
「へーい」
仲良く一緒に訓練場を後にする弟子二人を眺めながら、これからどう成長するか楽しみになった。