第一章
夢小説設定
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三門市へ来てから一週間。仮設住宅地区にある私の家は、一通りの物も揃い、我ながら良い部屋になったと思う。それでもまだ慣れたとは言えない自宅を出発し、私はボーダー本部へと向かった。
今日は私のボーダーとしての第一歩、入隊日だ。指定された場所まで行くと、既に沢山の人がいた。トサカヘッドの人やリーゼントの人、勝ち気そうな女の子…色んな人が居るなぁと思いつつ、周囲を眺めながら始まるのを待った。
ほどなくして職員から指示が出され、整列して説明を待った。最初に出てきたのは本部長の忍田さんだった。容姿や口調から真面目そうな人柄が伝わってくる。
「では、これより先の流れは嵐山隊に一任する」
その一言の後、テレビで何度か見たことのある嵐山隊が壇上に現れた。真っ赤な隊服がとても目立つ所為か、テレビに出るほどの人達だからか…いずれにしてもオーラが違って見える程キラキラとしている。
「嵐山隊だ…!」
「うわぁ〜本物だ〜!」
有名人である嵐山隊はやはり人気のようで、周りの人達は嬉しそうにはしゃいでいた。前に住んでいた所の友達にも嵐山さんのファンという子が何人か居たくらいだ。地元の三門市ではもっと沢山ファンが居るのだろう。
説明が一通り行われ、各自希望のポジション担当の人の所へ行くことになった。私は狙撃手を希望しているから、佐鳥という男の子の居る方へ向かった。狙撃手を希望している人は10人弱といったところだった。攻撃手のような花形のポジションはやはり人気のようで、大半はそちらの方に集まっていた。
「はいはーい!ここが俺達狙撃手の訓練場だよ!」
佐鳥くんに連れられて来た場所は、大きな狙撃場だった。佐鳥くんの説明によると、この訓練場はこの建物の中で一番大きい部屋だそうだ。確かにすごく奥行きが広い。あんな遠くまで弾が届くもんなんだろうか。
「まずは武器の種類を説明するよ!狙撃手の武器は三種類。一番スタンダードでバランスの良いイーグレット、重いけどその分威力は高いアイビス、軽量で弾の速さは一番のライトニング。言葉で言っても分かりにくいだろうから、それぞれ誰かに撃ってもらおっか!」
色々あるから覚えれなさそうだなぁと考えていたら、佐鳥くんと目があってしまった。めちゃくちゃアホ面してたと思うからやめてほしい。
「そこの君と、隣の君。試しに撃ってみてくれないかな?」
「いいっすよ」
「え!?は、はい!」
よく分からないままに試し撃ちに任命されてしまった。隣はリーゼントくんだったようで、緩い雰囲気で前へ出た。こいつ絶対大物になると思いながら、私も慌てて動き出す。
「君はこっちお願いね。重いから気を付けて」
「はい!」
手渡されたのはアイビスと呼ばれていた銃で、中々ズッシリくる重さだった。これ俊敏に動けないな絶対。対するリーゼントくんは軽量タイプを持っており、軽そうに肩に担いでいた。これ使う方逆だろ佐鳥くん。
「よっこいしょっと!えーっと…」
「はいはーい!撃ち方は佐鳥が教えるよー!」
銃なんて撃つのは初めてで、どうしたものかと悩んでいると、ニコニコしながら丁寧に教えてくれた。めっちゃ良い人じゃん佐鳥くん。嵐山隊の中で一番影薄いとか思っちゃってごめんな。
最低限の撃ち方を説明され、何となく理解はできた。問題はちゃんと撃って当てられるかどうかだ。銃って結構威力強いから最初は吹っ飛ぶって聞いたことあるし心配だ。
「よーし、行ってみよー!」
佐鳥くんからの撃ってよしの声掛けが聞こえ、ドキドキしながら引き金を引いた。ドッと勢い良く弾が飛び出し、狙っていた的の右上辺りに命中した。真ん中を狙ったつもりだったが、やはりそう上手くはいかない。
「うんうん、上出来!じゃあ次、撃ってみよっか!」
「へいへい」
隣で構えたリーゼントくんは、ビキュンッと軽そうな音ともに私のより速そうな弾が飛んで行った。そして狙っていた的の真ん中に近い所に的中した。なんかもう普通に上手い。
「二人共協力ありがとう!
見ての通り、アイビスは威力重視、ライトニングは速さ重視の銃だよ。今回は一番シンプルなイーグレットを使ってもらうけど、自分の気に入ったやり方を選んで戦い抜いてくれ!」
何にしようか迷うけれど、これからゆっくり決めていけばいいか。とりあえず的にちゃんと当てられるようになってから考えようと決意した。アイビスは重いから疲れそうだしよく考えて選ぼうと、重い銃を抱え込んだ。
「重そうだなぁ、そっちは」
声のした上の方を見上げると、リーゼントくんが愉快そうに笑っていた。今更だがリーゼントくんめちゃくちゃでかい。一体私と何センチ差なんだろうか。
「逆にそっちは軽そうやなぁ。ちょっと交換せぇへん?」
「お〜、いいぞ〜」
「うっわ、かっるっ!これ走りながら撃てそうやなぁ!」
さっきのアイビスを持ってからだと全然違う。私が反復横飛びで軽快にステップを踏んでいると、リーゼントくんが吹き出して笑いだした。何がツボに入ったのかさっぱり分からないけど、ウケてるならまぁ良しとしよう。
「二人共、そろそろ始めるよ〜!」
「へーい」
「あ!!すみません!」
つい二人で喋ってしまったが、もうほとんどの人が位置についていた。借りていた銃を返し、イーグレットを持ち私達も射撃位置についた。
「そういやお前、名前は?」
必然的に隣になったリーゼントくんは、銃を構えながら名前を聞いてきた。名乗る時はまず自分から、というのも面倒だったので、素直に答えておいた。
「西宮えりな、よろしく〜。リーゼントくんは?」
「リーゼントくんって!俺は当真勇だ、まぁ仲良く行こうぜ」
「歳近そうやけどおいくつ〜?私春から高一!」
「お、一緒だな。俺も春から高一だ。ボーダーってことは三門第一か?」
「そうそう、それ!ってことは高校も一緒やな〜!いや〜意外と世間って狭いもんやなぁ」
「つーかどこ出身だ?越してきたのか?」
「関西の方やで〜なんかスカウトされたからこっち来た」
ふよふよ浮いている的を狙い、撃ちながら二人で話し込んでしまった。先輩に目を付けられたら当真くんの所為だな。そう思いながらも、久しぶりに軽いノリで話せることが嬉しくて、いつのまにか終わりの合図がなるまで喋り続けていた。
「…東さーん、あの二人ずっと話してる割にほとんど的に当ててるんですけどー…」
「あぁ…佐鳥、その内抜かされるんじゃないか?」
「えぇ!?ひどい!!」
そんな会話が後ろの方でされていたとは知らず、私と当真は終始話しながらその日の訓練を終えた。
すぐに打ち解けた私達は、折角だし本部内を探検しようということになった。適当に話しながら適当に歩き回る。同年代と接するのが久々に感じ、つい気が緩みきってしまう。
「よっ、西宮ちゃん。久しぶり」
「おわっ!?迅さん!」
「誰だ?」
当真と本部内をぶらついていると、迅さんが急に後ろから現れた。いつも通りのゆるい雰囲気と表情で、やっぱり不思議というか食えない人だと思う。
横にいた当真は軽く首を傾げていた。すぐに迅さんが自己紹介をし、私の時と同じようにぼんち揚げをもらっていた。
「で、迅さん何してるんですか?」
「今日入隊式だったろ?お祝いついでに様子見に来たんだ」
「…私の?」
「勿論、西宮ちゃんの」
私のために本部まで来ただなんて、そんなのは嘘かもしれない。それでも、こうして声をかけてくれたことは嬉しい。でもそれを素直に表に出せず、迅さんからあからさまに視線を反らしてしまった。
「…ふ、ふ〜ん」
「おっ、照れてるな〜よしよし」
「わ!ちょ、迅さん!」
「楽しそうだなぁ!」
「当真!お前も乗るな!」
迅さんに頭を撫でられ、面白がった当真にもわしゃわしゃと撫でられる。絶対髪の毛ぐしゃぐしゃになってる。
「改めて、二人共入隊おめでとう。当真、西宮ちゃんのこと、これからよろしくな」
「しょうがねぇな」
「なんで上から目線やねん」
「二人は良いコンビになるよ。俺のサイドエフェクトがそう言ってる」
「あ〜出たなサイドエフェクト〜!」
「なんだそれ」
「あれあれ、あの〜、なんか超能力みたいなやつ!知らんけど!」
「アバウトだね〜」
理解はしていても上手く説明できないのだから仕方がない。私に教えてくれたように、迅さんが分かりやすく当真に説明してくれた。当真は納得いったように「すげぇな」と呟いていた。
「あ、そうそう。これ、お祝いの品」
「え!?」
話が一段落ついたところで、迅さんは思い出したように懐から何かを取り出した。それはいつも迅さんが食べているぼんち揚げだった。よくそんな懐にしまってたなと不思議に思う。
「前に食べたいって言ってたろ?」
「ほ、ほんまにくれると思わんかった…ありがとうございます!」
お祝いの言葉だけでも十分嬉しかったが、まさかぼんち揚げまで用意してくれてるとは思わなかった。笑顔でお礼を言うと、迅さんは満足そうに笑って「じゃ、若者諸君。がんばれよ〜」とゆるい雰囲気のまま去っていった。
「いぇ〜い!羨ましいやろ〜!」
「へいへい、良かったな」
「後で半分こしよな!」
一頻りぼんち揚げを見せびらかせられ呆れ混じりに笑っていた当真の顔が、きょとんと目を少し見開いた。少し首を傾げ、自分を指差しながら不思議そうにしている。
「…俺も食っていいのか?」
「お祝いの品なんやから、当真の分も入ってるやろ〜!一緒に食べた方が美味しいし!」
「んじゃ、有難く」
「うむ、心して食べよ」
その後ラウンジで空いている席に座り、二人で食べたぼんち揚げはやっぱり美味しかった。