第一章
夢小説設定
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「と、当真!?」
突然現れたストーカー。その腕を叩き落とし、そっと背中に隠してくれたのは紛れもなく当真だった。換装体じゃない当真の体は熱く、荒い息遣いをしている。全力疾走してきてくれたことがよく分かる。驚きよりも安心感が勝って、少し泣きそうになった。
「チッ…またお前か…」
「お前誰だ?こいつの知り合いには見えねぇけど」
「俺は彼女の運命の相手だ!!邪魔するな!!」
「はぁ?運命の相手?バカじゃねぇの?お前の方が邪魔だからとっとと消えろ」
「ちょ、ちょいちょい当真!!そんな煽って大丈夫なんか!?お前喧嘩とかできへんやろ!?」
当真が生身で俊敏に動いてるところなんて見たことがない。体力の無さは私と同レベルだったはずだ。ストーカーはストーカーで少し痩せ気味だし、身長も当真よりは低いから勝てそうな気はするけれど、武器とか隠し持っていたら当真が怪我してしまう。それは絶対嫌だ。
「なぁ当真、ほんまに危ないから…」
「お前はちょっと黙ってろ。後で言いたいこと山程あるから覚悟してろよな」
当真の背中に隠されているから表情は見えないが、声音で怒っているのが分かる。やっぱり怒ってるよなぁ、嫌われたかなぁと思うと、何も言えなくなった。代わりに当真の服を少しだけ掴んで、背中に頭を擦り付けぽそりと一言だけ呟いた。
「…当真が怪我せんかったら、なんぼでも聞く」
「!…ったく、自分の心配しろよなぁ」
「か、返せ…俺の、俺の運命の人だぞ!!」
「誰がいつ決めたんだよ、そんな事」
「俺には分かる!!一目見た時からそうだと確信した!!彼女だってそう思ってるはずだ!!」
「ここまで怯えてるのにか?お前はこいつのこと、何も分かってねぇな」
「お前こそ何も分かってない!!彼女の事を理解出来るのは俺だけだ!!俺が、俺がッ、彼女のッ…ぅ、あがッ…!!」
ゴツンと鈍い音とストーカーのうめき声を最後に、急に静かになった。変に思って当真の背中から恐る恐る顔を出すと、脱力しているストーカー、そのストーカーの首根っこを掴んでいるレイジさんが見えた。
「れ、レイジさん…!?」
「いや〜間に合って良かった!時間稼ぎありがとうな、当真」
「どーも」
「え?え?迅さん?」
レイジさんの後ろからひょっこり現れたのは、安堵した様子の迅さんだ。あまりの急展開に一人追いつけずいると、迅さんに優しく頭を撫でられた。
「もう大丈夫、よく頑張ったね。西宮ちゃん」
「じ、んさ、ん……うっ、ぐずっ…」
その言葉に、ぶわっと涙が止まらなくなった。張り詰めていた糸がぷつんと切れて、私は子供のように思い切り泣いた。人前で泣くのなんて、いつぶりだろう。恥ずかしさなんて感じる暇もなく泣いて、疲れ果てた私は誰かの胸の中で眠りについていた。
「ん……?」
目が覚めると見知らぬ天井。それと点滴のパックが見える。ルートは私の腕まで繋がっていて、そこでようやく病院に居るんだと寝惚けた頭で理解した。そして、点滴が繋がっているのとは反対の腕に、温かいものを感じた。
「当真…?」
ベッドにもたれかかって眠っている当真は、私の手をしっかりと握っていた。やんわりと握り返すと、当真がピクリと反応する。徐々に開いていく目が私を捉え、ゆっくりと瞬きを繰り返す。
「お、おはよ…当真…って、うわ!?」
突然当真が動き出し、私を包み込む。要するに抱きしめられている。状況が理解できない上に、割と強めに抱きしめられていて苦しい。
「え、えーっと…当真さーん…?」
個室で良かったなぁと思いつつ背中をゆっくり撫でながら名前を呼ぶが、全く返事がない。どうしたものかと悩んでいると、当真の口からぽろりと言葉が漏れた。
「…お前、本当バカだろ」
「はぁ?何急に…」
「あの状況見て、どんだけ俺の寿命縮んだと思ってんだ」
当真の言葉に、思わず口をつぐんだ。当真が来てくれなければ、きっと私はあのまま無理矢理連れて行かれて監禁されていただろう。そこまで容易に想像できるし、それだけでもあの時の気持ち悪さが蘇って少し震える。
「…それは、ごめん…」
「しかもお前、飯もろくに食べてねぇし、寝不足だしストレスが原因で熱出てたらしいし…」
それは知らん、知らんぞ。私が熱?このインフルエンザの時にしか熱が出ない私が?そこまでストレスだったのか、と動揺した。
「あんな気持ち悪い物送りつけられてたのに一言も言わねぇし」
「うっ…見つけたんか…」
ラブレターと言っていた手紙の数々は気持ち悪すぎたからすぐゴミ箱に捨てた。それを当真が、たまたま私が捨てそこねた盗撮写真が目に入り、不審に思ってゴミ箱を覗いたらしい。手紙以外何も捨ててないから見つけるのは簡単だっただろう。
「…特に害なかったし」
「害あってからじゃ遅かっただろ、実際」
「うっ…おっしゃる通りで…」
正論だ。何も言い返すことができない。取り返しのつかないことになっていたのは明白だし、実際私一人の力では恐怖心が上回ってどうすることもできなかった。私が変に意地を張って、ビビって当真達から逃げてしまったから悪いのだ。
「これからは何かあったら絶対言えよ、絶対」
「…なるべくな」
「絶対だからな」
「…うん」
頭を数回撫で、当真はゆっくりと体を離した。久しぶりに見た当真の顔はいつも通りのニヤけ面で、少し安心した。
「んじゃ、俺は一旦報告してくるから大人しく寝てろよ」
「はーい…あ、当真!」
部屋を出ていく寸前、慌てて当真を呼び止める。きょとんとしている当真に、伝えるなら今しかないと自分を奮い立たせ口を開いた。
「その…心配かけてごめんな。助けてくれて、ありがと。後…あん時、ただの同期とか言うてごめんな。私にとって当真は…皆は、大事な友達やから」
「…あぁ、分かってる」
微笑んでいる当真を見て、胸が軽くなった。やっと、前みたいに仲良くできるんだと思うと、嬉しくてたまらなくなった。
「さて、どう処理してやろうか」
ストーカーとは別の手紙を見ながら悪い顔を浮かべた当真が何を考えているかなんてのは、私には知る由もないことだった。
□■□■□
当真が出ていった後、看護師さんから入院についての説明を受けた。当真が言っていた通り、私はストレスによる発熱、栄養不足、睡眠不足、脱水…と、体調不良のオンパレードな状態らしい。数日は点滴で体を整えるのと、一応検査もしておいた方がいいと言われた。何だか大事になっている気がするが仕方ない。
「えりな!!」
「あ、さっちゃん、みっちゃん」
今日の晩御飯何だろうなぁと考えている頃、クラスメイトで仲良しな二人がお見舞いに来てくれた。二人にはメールで事の顛末を知らせたからか、心配そうに顔を歪めていた。その顔を見たくなかったわけだけど、隠しておくのもそれはそれで心が痛いのだ。
「バカ!!なんでもっと早くに言わないわけ!?」
「さ、さっちゃん落ち着いて?」
「うっ…うっ…無事で良かったよえりなちゃん〜、ぐすっ…」
さっちゃんは怒ってるけど涙目だし、みっちゃんは私の顔を見た途端号泣してる。それだけ心配してくれて、本気で考えてくれる優しい友達ができて、私は幸せ者だな。
「みっちゃんも落ち着いて、な?何もされずに終わったから、大丈夫やで」
「大丈夫なわけないじゃん、絶対怖かったでしょ!」
「うぅ〜っ…私達も、力になるから…今度からは相談してねっ…!」
「みっちゃん…さっちゃん…うぅっ、ごめんねぇ〜!!」
二人の言葉や雰囲気に負けて、私の涙腺はまた大崩壊してしまった。その後は三人で泣き、途中でお見舞いに来た柚宇ちゃんも交えて大号泣。結局てんやわんやな病室内は、柚宇ちゃんと一緒に来ていた太刀川先輩と迅さんのお陰で一先ず落ち着いた。
「国近、そろそろ泣き止めよー」
「うぅ〜むり〜っ」
「柚宇ちゃんありがとうなぁ…ぐすっ…太刀川先輩と迅さんも…」
柚宇ちゃんとティッシュで鼻をズーッと勢いよくかみながら、徐々に落ち着きを取り戻していった。さっちゃんとみっちゃんは「また明日も来るから」と言って帰っていった。
「入院中暇だと思っておすすめのゲーム持ってこようと思ったんだけどね、当真くんに止められちゃった〜」
「え、そうなん?」
「西宮が寝不足でいつまで経っても退院できなくなるからだろ」
「当真にはサイドエフェクトがなくてもお見通しだったみたいだな〜」
「うっ…何も言えん…」
柚宇ちゃんと太刀川先輩は防衛任務があるからと帰り、病室にはいつもよりどことなく元気のない迅さんと私の二人だけになった。さっきまで騒がしかったのに、急に静かになった雰囲気に少し落ち着かない気持ちになる。
「…ごめん、西宮ちゃん」
珍しく真剣な顔をした迅さんは、本当に申し訳なさそうに頭を下げた。何故謝られているのか分からない上に、頭まで下げられるなんて思わず狼狽えてしまう。
「え、なんで迅さんが謝るん!?迷惑かけたの私やし、謝るのは私の方やのに…!」
「俺のサイドエフェクトで視えてたのに、危ない目に合わせた。本当ならもっと早くから助けられたかもしれないのに…」
あぁ、この人は優しすぎるんだ。迅さんの所為でこうなったなんて微塵も思ってないのに。いろんなルートが見えていて、いろんな人の手助けをして、それでも助けられなかったり、酷な選択をしてしまったり…一番しんどいのは迅さん自身のはずだ。
「…当真から聞きましたよ、迅さんが危ないの知らせてくれたって。今私が呑気に笑ってられるんも、迅さんのお陰です。ありがとうございました」
「…うん、ありがとな。まぁ、何はともあれ無事で良かったよ。今度からはちゃんと人を頼ること。分かった?」
「それ、当真にもう何万回も言われてます」
「ハハッ、なら大丈夫かな!」
迅さんがどう思っているかなんて分からないけど、私は迅さんや当真、皆のお陰で今もこうやって笑えている。それだけで、私は十分幸せ者だ。
心の中でもう一度感謝を込め、私は笑顔を浮かべた。