第一章
夢小説設定
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「待てコラァ!!」
「西宮ちゃーん!ゾエさん怖くないよー!」
「猛獣引き連れて追いかけてくんのやめてくれる!?めっちゃ怖いんやけど!!」
目を尖らせて猛獣のようにギラギラしているカゲくんと、それとは正反対に菩薩のように朗らかな微笑みで追いかけてくるゾエくん。それから全力で逃げる私。何故こんな事になってしまったのか。それはかれこれ数十分前のこと。
「本部来るの久しぶりやなぁ…」
学校終わり、携帯を見てみると一件のメールが来ていた。送り主は東さんで、内容は「明日練習の成果をみたいから訓練室に来るように」というものだった。相変わらず迷惑行為は減る兆しが見えないが、東さんからお呼び出しされてしまったからには行かないわけにはいかない。
仲のいい面子に出くわしませんようにと、心の中でひたすら祈る。二週間も避けているのだ。皆怒っているだろうし、どんな顔をすればいいか分からない。
「よぉ、よく来たな」
「ぐえっ」
本部へ入って数秒、突然グイッと襟首を掴まれた。後ろで聞こえたドスの効いたよく知る声に身体が自然と固まる。後ろを見なくても分かる。マジで切れる5秒前なカゲくんだろう。
「ちょっとカゲ〜!女の子に乱暴はダメだよ」
「ぞ、ゾエくん…!」
「うるせぇ黙ってろ。オイ、お前なんか隠してんだろ。吐け」
「言い方が物騒!!な、なんも隠してへんし!」
「ア"ァ?」
「て、てか私これから東さんのとこに…!」
私が逃げようと東さんの名前を出すと、カゲくんはニヤリと悪い顔を、ゾエくんは何だか申し訳なさそうに笑った。まさか、と嫌な予想が思い浮かんだ。
「安心しろ、グルだ」
「東さーんッ!!!」
予想は的中。完全に騙されていた。東さん使うとか騙されるに決まってる。ジロリと睨むが効果はなく、ズルズルと引きずられる。
「ったく、面倒かけさせんじゃねぇよバーカ」
「べ、別に何もないし…放っといてくれたらええやん」
「俺じゃねぇ、アイツにだ」
「すっごく心配してたよ、西宮ちゃんのこと」
一番触れたくなかった話題が出て心臓がドキリと動く。アイツに会う心の準備が全然できていないし、確実に怒ってるに決まってる。逃げることしか、今の私にはできない。
「ア!?てめっ…!!」
換装したタイミング、一瞬カゲくんの手が離れた瞬間にすり抜けた。走りながら二人に向かって「すまんなカゲくん、ゾエくん!正直めっちゃこわいから無理!!」と叫び、私は本部内を全速力で走った。
「ほら〜カゲがこわい顔するから〜!」
「うっせぇ!!」
そうこうしていたら、この周りから見ればはた迷惑な、私にとっては地獄の鬼ごっこが始まったのだ。どうやって二人から逃げ切るか考えながら走っている時、一つ思い出した。
「見失っちゃったね〜」
「チッ…どこ行きやがった…」
はい、君のすぐ後ろに居ます。
思い出したというのは、カメレオンの存在だ。普段私のトリガーにはカメレオンなんて入っていないのだが、この間玉狛支部に行った時に面白半分で試しに入れてそのままだったのだ。
角を曲がったところでカメレオンを使い、カゲを見ないようにしながら今来た道を引き返す。カゲに感情が刺さるといけないから、なるべく違うことを考えながら逃げる。
「ふぅ…なんとかなるもんやな…」
ずっとカメレオンを使ったまま逃げ、ついに私は出口まで辿り着いた。ひとまず何とか逃げきれたものの、このままでは捕まるのも時間の問題だ。長引けば長引くほど元に戻りづらくなるのは分かってはいるが、ビビリな私にはまだ時間が足りない。
「お邪魔しまーす」
「あぁ、西宮か」
いつもの如く玉狛支部へ訪れると、迎えてくれたのはレイジさんだった。エプロンを着けているところを見るに、夕飯途中だったようだ。
「訓練室借りに来たんですけど…」
「生憎、今は小南達が使っててな。少し待っててくれ」
「了解です!」
「屋上にでも行ってろ。疲れた顔をしてるぞ、風に当たってこい」
そんなに疲労感丸出しだっただろうか。確かに精神的に疲れたし、屋上で眺める景色は割と気に入っているから気分転換になるかもしれない。レイジさんのお言葉に甘えて、私は屋上へと向かった。
数分程心地良い風に当たっていると、ガチャリとドアの開く音がした。レイジさんが呼びに来たのかと思ったが、そこに居たのは別人。レイジさんにしては細すぎる、今日一番会いたくなかった奴。
「久しぶりだな、えりな」
「当真…なんで、ここに…」
パチクリと目を瞬く。前に私が迅さんに「困ったらおいで」と言われていたことを覚えていたらしい。カゲくんの鬼ごっこも作戦の内で、私が本部から逃げて玉狛支部へ来るのを待ってた…という話をされた。まんまと私は術中に嵌っていたというわけだ。
「何で俺達の事避けてるんだ?」
ゆっくりと近付いてくる当真は、いつもと違ってピリッとした空気を纏っている。罪悪感でまともに顔も見れず、そっぽを向いたまま話を続ける。
「別に、避けてへんし…たまたまや」
「たまたま、ねぇ…?」
当真から伸びた手が後ろにある手すりを掴む。これはもう、逃げられない。ドクン、ドクンと心臓が波打つのがやけに大きく、速く感じた。
「お前、何隠してんだ」
「なんもない」
「嘘つけ」
「何かあったとしても、当真には関係ないやろ。ただの同期なんやから」
「…お前、それ本気で言ってんのか」
いつもとは違う、本気で怒ったような声音に、胸がズキズキと痛んだ。違う、こんなことを言いたかったわけではない。本気なわけあるかって今すぐ言いたい。けれど私の口は、固く閉ざされたままだった。
「…明後日の防衛任務、遅れんなよ」
当真の腕が離れ、背を向けて去って行った。ドアの閉まる音が聞こえ、やっと力の抜けた私はその場にへたり込んだ。
「はぁー…なんなんや、ほんま…」
視界が霞んでるのは、目から溢れている水は、一体何故止まらないんだろう。