第一章
夢小説設定
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あれから数日経つが、毎日学校の靴箱に一通、家の郵便受けに一通、非通知の電話が一日に数件来る日々が続いている。学校ではなるべく女友達と話すようにし、帰り道も友達と帰るようにしている。そろそろ皆の事を避けるのも心苦しいし、疲れてきてしまった。
「…えりな、何かあったの?」
「え?なんで?」
「最近ボーダーの子達を避けてるように見えたから」
「うん…前は当真くんとよく帰ってたのに最近は全然だよね」
いつも一緒に居る友達二人から心配そうに見つめられる。あからさまに避けているのだから、何かあった事はバレバレだろう。きっと私が他の人の立場でも気が付く。
「あー…ほら、ボーダーの人らは本部で会えるし!学校でくらい普通に友達と一緒にいたいやん」
「…何もないならいいけど。私もえりなと居れるのは嬉しいし」
「何かあったら言ってね…?」
「うん、ありがとうなぁ!」
こうやって嘘をつく度に心がチクリと痛む。けどこんな事に友達を巻き込みたくはない。優しい子達だから、きっと無理してでも助けてくれる。万が一それで怪我でもしてしまったら悲しいし、友達が私の所為で傷付くのは絶対に見たくない。
放課後は友達と途中まで帰り、家でも本部でもなく迅さんの居る玉狛支部へとお邪魔した。ここの所、本部へは行かずに玉狛支部の訓練室を使わせてもらっている。考えた結果、迅さんの「困ったら玉狛支部へ」という言葉を思い出したのだ。B級に上がってからも面倒を見てくれていた東さんには申し訳ないが「しばらく一人でじっくり訓練します」と一応連絡はしている。
「あんた今日も来たの?」
「楽しみにしてたくせにー」
「ちょ、何言ってんのよ迅!」
「そっかそっかー。私も小南と会うん楽しみやから一緒やな〜」
ツンとした態度の小南といつものゆるい雰囲気の迅さんが出迎えてくれる。何度か来るうちに仲良くなった玉狛メンバーと軽く話し、兄弟子であるレイジさんにぺこりと頭を下げる。
「レイジさん、よろしくお願いします!」
「あぁ、よろしくな」
レイジさんの手が空いている時には練習に付き合ってもらっている。防衛任務や家事など、忙しい合間を縫って見てくれているのに申し訳無さを感じるが、とても助かっている。
思う存分訓練し、休憩がてら支部の屋上で外の空気を吸った。外は夕焼けが沈む頃で、屋上から眺める景色は中々綺麗だった。このまま現実逃避してしまいたい、と黄昏れていると背後から扉が開く音が聞こえてきた。
「西宮ちゃん、悩み事?」
「…視えてたんですね」
「うん、そうだね。視えてたよ」
ゆったりと私の隣まで来た迅さんは、困ったように笑っていた。サイドエフェクトで私の未来が視えているようだが、その顔を見る限り未来の私はあまり良いとは言えない状況に陥ってそうだ。
「西宮ちゃん、誰にも言わないつもり?」
「そうですねー…今のところは」
「このままだと西宮ちゃん…苦しい思いするよ」
「苦しいのは嫌やなぁ…」
「俺としては、ちゃんと寝て、ちゃんとご飯食べてくれてればそれでいいよ。今はね」
「それくらいしてますって!」
「ほんとかなー?」
ゲームしすぎて夜更かししてしまう、なんてことはよくやってしまっているが、ご飯は存外きちんと食べている。むしろ一人暮らしをしてからの方が三食ちゃんと食べてるくらいだ。迅さんに弁明すると、「分かった分かった。その調子でね」と軽くあしらわれた。
「そろそろ夕飯ができる頃だ。今日はレイジさんが美味しいご飯作ってくれてるから、いっぱい食べろよー?」
「はーい」
「…あぁ、そうだ」
皆が集まっているであろうリビングへと歩き出した迅さんは、思い出したように立ち止まり私の方へ振り向いた。
「明日、逃げちゃだめだよ」
何から逃げちゃだめなんだ。聞いてみても迅さんは「明日になれば分かるよ」としか言ってくれなくて、私は首を傾げることしかできなかった。
レイジさんの美味しいご飯を食べ、防衛任務のついでだと家まで送ってくれた迅さんに「東さんすごくて!かっこいいんですよ!この間東隊の記録見ててー…!」と思う存分話せて、帰ってからは撮り溜めていた番組を眠くなるまで見て、スッキリとした気分で一日が終わった。
その結果、すっかり迅さんの忠告がすっぽ抜けていた私が迅さんの言葉を思い出したのは、次の日逃げ惑っている真っ最中だった。