翌日、風邪もすっかり治り、会社に行く準備をする。

『…ん？待てよ…？』

風邪も治って冷静に考える。
…私、櫻井さんの”彼女(仮)”なの？？？？？

『…え？なにこれ。』

まてまて、昨日は頭が回ってなくて、軽い気持ちで承諾したけど
これかなり変な、っていうかやばい状況じゃない？
いやいや…櫻井さんに彼女がいないとはいえ…
こんなの会社にばれたらいろいろデメリットあるじゃない…

まず上司に櫻井さんの彼女ってことで変な期待されるかもだし、
逆に櫻井さんとの私情で櫻井さんの仕事の質を落とさないように注意されるかもしれないし、
何より女性社員の視線が…
下手したら社内いじめにつながるんじゃ…

真面目な私はそんなことまで考えてしまう。
まあ、それと同じくらいお気楽だからすぐに冷静になる。

『…ま、(仮)だしね。彼女じゃないし。
いざとなったら事情話しちゃえばいんだよね。
櫻井さんのお母さんさえわかってくれればいいんだし。』

私は用意を終えて家を出る。
会社までは電車を使い、最寄りの駅から20分近く歩く。

最寄りの駅に着いたところで、私の前に車が止まり、運転席の窓がおりる。

『櫻井…さん？』
「おはよ。乗っていきなよ。」
『いや、さすがにこれは…』
「もう迎え来ちゃったから、ほら早く！」
『あ、はい…』

私は焦りながらも助手席に乗り込んだ。

『あの～…ここまでやります？』
「こういう日々の積み重ねやっとかないと、当日だけお願いしても見抜かれんじゃん？」
『でも、これじゃ本当に誤解されちゃいますよ…？』
「それならそれでいんじゃん？」
『どういう…？』
「ほら…その、敵を騙すにはまず味方からってな？」
『…なるほど。』

さすが櫻井さん、そんな計画が…
と、納得半分、不安半分のまま会社に着く。

会社の駐車場から二人で会社に向かうとき
まあ視線を感じる感じる…。
そりゃそうなるよね…
急に私と出社してんだもん。

周りの視線に負けそうになりながらも、所属する部署にやっと到着。
当然、ここでも視線が集中する。

『おはよう…ございます…。』
「おはよ…って、ええ？！ ランカ！？なに！？」
『あ～大きな声出さないで～恥ずかしい～…』
「なんで櫻井さんと出社してんのよ！？」

サクラは気を使ってくれたのか、私のそばに来て小声で話しかけてくる。

『ちょっと、訳があんのよ…』
「なに？！どんなわけがあってこんなことになってんの？！」

サクラには話してもいっか…。
ていうか、櫻井さんに彼女いるのか問題を普通に話してた時点で隠しても無駄だしね。
私はサクラにこうなったいきさつを話した。

『…ってわけで、今日の朝急にこうなったの。』
「はあ～ん…なるほどねぇ。どんな徳積んだらそんなことになんのよ。」
『いいことでもないよ…実際こんな風に見られちゃうし…』

ちらっともう一度周りを見ると、やっぱり女子社員の視線はぶれることなく私に向いている。
仕事に集中してよ…。

「まあでも、いつも櫻井さんとランカにはお世話になってるし、ちょっとは協力するよ？」
『サクラ～、ありがとう～』

ちょっと不安だけど、期間限定だし…
それまでは、なんとか楽しめるようにしなきゃなあ。